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31-1 聞く権利
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寝室を出るとリビングルームに繋がっている。アデレードの気配を察知して控え部屋にいた侍女が出てきた。
「ご気分はいかがですか?」
体調が悪いわけではなかったので、気遣われると気まずい。
「大丈夫です。旦那様は?」
「打ち合わせに行かれました。すぐに戻られるそうですが、何かご用命があれは私に仰ってください。奥様の希望はなんでも叶えるようにとフォアード小侯爵様から承っております」
打合せとは結婚式に関してに違いない。ついていけば難なくダミアンに会えたのでは? とアデレードは一瞬思ったが、向こうは準備に忙しいのに部外者がのこのこくっついて行くのは迷惑だ、と考え直した。
遠くからちらっとダミアンの様子を確認できれば気が済む。
二時間後の挙式まで待てば嫌でも会えるわけだが、多分その時はどんな心境であれ笑っているから意味がない。
「打合せの場所はどこかわかりますか?」
「チャペルです。何かありましたらすぐ知らせるようにも申し付かってもおりますので、呼んで参りましょうか?」
「いえ、自分で行きます」
ペイトンには用事などない。アデレードはこっそりチャペルまで行ってダミアンを見たらすぐに帰ってこようと決めた。
ホテルからチャペルへの道はガーデンアーチが連結して設置され、深紅の薔薇が満開に飾り付けられていた。
三百六十度何処から見ても美女オーラを纏っているクリスタに良く似合うと思った。
アーチを抜けると視界が開けてチャペルが眼前に現れる。
全面ガラス張りであるため中がよく見えた。
祭壇の向こうに天使のモチーフの大きなステンドグラスがはめ込まれている。
陽光がガラスを鮮やかに照らし荘厳さを醸し出している。
いつ挙式が始まっても問題ないほど既に完璧に準備が整っているように見える。
チャペルの中には誰もいない。むしろ本番が始まるまで汚れないよう封鎖しているように思えた。
(打ち合わせなんかしてないじゃない)
先程通った道が一番近道のはずだが、戻ってくるペイトンとは遭遇しなかった。
場所がここで間違いないならまだ何処かにいるはずだ。
辺りを見渡すとチャペルの後ろ側に小さな白い家屋がある。
(控室っぽいわね)
傍まで近づくと正面の扉がわずかに開いている。中に人がいるかわからないが、打合せ中なら用事もないのに入っていくわけにいかない。
何処かに窓はないのだろうか。
ぐるっと周って何もないなら帰ろう、とアデレードは歩みを進めた。
(何やっているんだろう。これって覗きじゃない?)
勢いで飛び出してきたは良いが、自分の行動の奇怪さに妙な笑いが込み上げてくる。
変なテンションになって勢いよく建物の裏へ回り込んだところで飛び上がった。
壁を背もたれにして人が地面に座り込んでいる。
倒れているのかと血の気が引いたが、バチッと目が合って違う意味でまた動悸が激しくなった。
(ダミアン様!)
驚きすぎて声は出なかった。
それが良かったのか悪かったのか、ダミアンは人差し指を立てて唇に宛がい静かにするよう動作した。
アデレードは咄嗟にこくこく頷いた。
本日の主役が、こんなところで地面に直に座って何をしているのか。
だが、その疑問はダミアンが自分の真横にある通気窓を指さしたことで分かった。
立っていると窓が足元にくるから座った方が聞き取りやすいのだ。控室の中の会話が。
(どうしよう)
非常によくない場面に遭遇してしまった。
アデレードは背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
「失礼しました」と謝って踵を返すのが一番良いように思えたが、足に上手く力が入らない。
いや、何を聞いているのか知りたい欲求が勝ったのだ。
――私の方がずっと先に貴方を好きだったじゃない! 不公平よ!
窓に近づかなくとも女性の怒声が嫌なくらいに聞こえてきた。
「ごめんね」
アデレードが身動きできずにいると、ほとんど唇だけ動かすようにダミアンが言った。
「君にも聞く権利はあるよね」
笑っている。そんな風に笑うのを見にきたわけじゃないのに。
「ご気分はいかがですか?」
体調が悪いわけではなかったので、気遣われると気まずい。
「大丈夫です。旦那様は?」
「打ち合わせに行かれました。すぐに戻られるそうですが、何かご用命があれは私に仰ってください。奥様の希望はなんでも叶えるようにとフォアード小侯爵様から承っております」
打合せとは結婚式に関してに違いない。ついていけば難なくダミアンに会えたのでは? とアデレードは一瞬思ったが、向こうは準備に忙しいのに部外者がのこのこくっついて行くのは迷惑だ、と考え直した。
遠くからちらっとダミアンの様子を確認できれば気が済む。
二時間後の挙式まで待てば嫌でも会えるわけだが、多分その時はどんな心境であれ笑っているから意味がない。
「打合せの場所はどこかわかりますか?」
「チャペルです。何かありましたらすぐ知らせるようにも申し付かってもおりますので、呼んで参りましょうか?」
「いえ、自分で行きます」
ペイトンには用事などない。アデレードはこっそりチャペルまで行ってダミアンを見たらすぐに帰ってこようと決めた。
ホテルからチャペルへの道はガーデンアーチが連結して設置され、深紅の薔薇が満開に飾り付けられていた。
三百六十度何処から見ても美女オーラを纏っているクリスタに良く似合うと思った。
アーチを抜けると視界が開けてチャペルが眼前に現れる。
全面ガラス張りであるため中がよく見えた。
祭壇の向こうに天使のモチーフの大きなステンドグラスがはめ込まれている。
陽光がガラスを鮮やかに照らし荘厳さを醸し出している。
いつ挙式が始まっても問題ないほど既に完璧に準備が整っているように見える。
チャペルの中には誰もいない。むしろ本番が始まるまで汚れないよう封鎖しているように思えた。
(打ち合わせなんかしてないじゃない)
先程通った道が一番近道のはずだが、戻ってくるペイトンとは遭遇しなかった。
場所がここで間違いないならまだ何処かにいるはずだ。
辺りを見渡すとチャペルの後ろ側に小さな白い家屋がある。
(控室っぽいわね)
傍まで近づくと正面の扉がわずかに開いている。中に人がいるかわからないが、打合せ中なら用事もないのに入っていくわけにいかない。
何処かに窓はないのだろうか。
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(何やっているんだろう。これって覗きじゃない?)
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壁を背もたれにして人が地面に座り込んでいる。
倒れているのかと血の気が引いたが、バチッと目が合って違う意味でまた動悸が激しくなった。
(ダミアン様!)
驚きすぎて声は出なかった。
それが良かったのか悪かったのか、ダミアンは人差し指を立てて唇に宛がい静かにするよう動作した。
アデレードは咄嗟にこくこく頷いた。
本日の主役が、こんなところで地面に直に座って何をしているのか。
だが、その疑問はダミアンが自分の真横にある通気窓を指さしたことで分かった。
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