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28-1 高位貴族の制裁
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園遊会から帰宅したペイトンに、自室に呼ばれたジェームスは、部屋に入るなり開口一番に、
「ホイエット伯爵家、パターソン子爵家、サリバン子爵家とは今後一切の取引は行わない」
という指令を受けた。
「園遊会で何かあったのですか?」
「大ありだ。彼女を侮辱したんだ。落とし前はきっちり払わせる」
ペイトンが口にした三家とは特に主要な取引はしていない。
だから、こちらの事業に差し障りはないが相手は違う。
フォアード侯爵家が付き合いをやめたとあれば、追従する家名が多くでてくる。お家断絶の危機とまではいかないが、今後いろんな不利益を被るだろう。
「いつもは奥様がご自身でやり返すのに、今日は違うのですね」
「王家主催の集まりで騒ぎにできないと言うんだ。だから、彼女にはこのことは言うなよ。気に病むから」
ジェームスは、流石はバルモア家の娘だと感心した。
加害者被害者如何に関わらず王家の催しで問題を起こすということはリスクが高い。
普段、茶会に参加した際には、嬉々として売られた喧嘩を買っているアデレードだが、弁えるべきところはきちんと押さえている。
それに比べて、諍いを仕掛けた相手はどんな教育を受けてきたのか呆れる。
「なるほど。承知しました」
ジェームスは三家を庇うつもりはないため、それ以上深く追求もしなかった。
貴族社会は甘くない。
フォアード家の妻を侮辱したなら相応の報いを受ける。
強いて同情するなら今回はペイトンが直接動いたこと。
アデレードが口頭で反撃するくらいは実は非常に可愛いもので、高位貴族を本気で怒らせたら、表面上はにっこり笑ってばっさり切られるのが普通だ。
わざわざ喧嘩を買うなどしない。笑顔で別れて二度と会わないようにするだけ。
ペイトンも侯爵家の嫡男としてそういった教育を受けてきた。
だが、普段ペイトンは自分の悪評を流されても放置していることが多い。
悪い評判がある方が女性が寄ってこなくて楽ぐらいに思っている。
過去に制裁を加えたのは、ある令嬢を孕ませたとでっちあげられた時と、男色の噂を広められた際くらいだ。
だから、親交のある三家の人間は、ペイトンが妻を侮辱したところでそれほど怒るとは考えなかったに違いない。
残念ながらアデレードに関して、ペイトンは通常とは全く異なるのだ。
(奥様のことはなんだかんだめちゃくちゃ大事にしているからな)
本人は件の契約を理由にしているが、ただの口実にすぎない。
早く素直になった方がよい。
アデレードとの結婚にははっきりとした期限があるのだから、いつまでそんな言い訳を通すつもりなのか心配になる。
アデレードが実家へ帰った後、慌てて追いかけるより、今行動した方が遥かにハードルが低い。
ただ、それを言ってもはねつけられるのは目に見えるし、むしろ余計に強情を張ることも予測できるのでジェームスは黙った。
「別に契約通りにしただけだ。妻を守るのは夫として当然のことだろう」
すると、察したようにペイトンが付け加えた。
長年の付き合いで相手の考えがわかるのはお互い様ということか。
ジェームスはやれやれと思った。
が、ペイトンの表情が驚くほど暗いことに眉を寄せた。
こういう場合、イラついて睨みつけられることがほとんどなのに、今はびっくりするほどこちらに意識が向いていない。
「他に何か問題でも?」
「別になにもない。もういい下がってくれ」
何もない顔ではないだろうに。
学校生活や事業運営のことで悩んでいる姿を見ることは幾度となくあったが、こんなに心許ない表情は子供の頃以来だ。
(奥様と喧嘩したわけではなさそうだが……)
だが、アデレード絡みの問題であることは間違いない。
本人が話したくないと言うのを無理やり聞き出すのもどうか。
ジェームスの経験上、恋愛において求められていない他人の意見ほど鬱陶しいものはない。
それに、ペイトンはこれまで女性の為に心を砕くことなどなかった。そういう経験も必要だろう、と、
「では、失礼します」
ジェームスは命じられるまま部屋を後にした。
園遊会から帰宅したペイトンに、自室に呼ばれたジェームスは、部屋に入るなり開口一番に、
「ホイエット伯爵家、パターソン子爵家、サリバン子爵家とは今後一切の取引は行わない」
という指令を受けた。
「園遊会で何かあったのですか?」
「大ありだ。彼女を侮辱したんだ。落とし前はきっちり払わせる」
ペイトンが口にした三家とは特に主要な取引はしていない。
だから、こちらの事業に差し障りはないが相手は違う。
フォアード侯爵家が付き合いをやめたとあれば、追従する家名が多くでてくる。お家断絶の危機とまではいかないが、今後いろんな不利益を被るだろう。
「いつもは奥様がご自身でやり返すのに、今日は違うのですね」
「王家主催の集まりで騒ぎにできないと言うんだ。だから、彼女にはこのことは言うなよ。気に病むから」
ジェームスは、流石はバルモア家の娘だと感心した。
加害者被害者如何に関わらず王家の催しで問題を起こすということはリスクが高い。
普段、茶会に参加した際には、嬉々として売られた喧嘩を買っているアデレードだが、弁えるべきところはきちんと押さえている。
それに比べて、諍いを仕掛けた相手はどんな教育を受けてきたのか呆れる。
「なるほど。承知しました」
ジェームスは三家を庇うつもりはないため、それ以上深く追求もしなかった。
貴族社会は甘くない。
フォアード家の妻を侮辱したなら相応の報いを受ける。
強いて同情するなら今回はペイトンが直接動いたこと。
アデレードが口頭で反撃するくらいは実は非常に可愛いもので、高位貴族を本気で怒らせたら、表面上はにっこり笑ってばっさり切られるのが普通だ。
わざわざ喧嘩を買うなどしない。笑顔で別れて二度と会わないようにするだけ。
ペイトンも侯爵家の嫡男としてそういった教育を受けてきた。
だが、普段ペイトンは自分の悪評を流されても放置していることが多い。
悪い評判がある方が女性が寄ってこなくて楽ぐらいに思っている。
過去に制裁を加えたのは、ある令嬢を孕ませたとでっちあげられた時と、男色の噂を広められた際くらいだ。
だから、親交のある三家の人間は、ペイトンが妻を侮辱したところでそれほど怒るとは考えなかったに違いない。
残念ながらアデレードに関して、ペイトンは通常とは全く異なるのだ。
(奥様のことはなんだかんだめちゃくちゃ大事にしているからな)
本人は件の契約を理由にしているが、ただの口実にすぎない。
早く素直になった方がよい。
アデレードとの結婚にははっきりとした期限があるのだから、いつまでそんな言い訳を通すつもりなのか心配になる。
アデレードが実家へ帰った後、慌てて追いかけるより、今行動した方が遥かにハードルが低い。
ただ、それを言ってもはねつけられるのは目に見えるし、むしろ余計に強情を張ることも予測できるのでジェームスは黙った。
「別に契約通りにしただけだ。妻を守るのは夫として当然のことだろう」
すると、察したようにペイトンが付け加えた。
長年の付き合いで相手の考えがわかるのはお互い様ということか。
ジェームスはやれやれと思った。
が、ペイトンの表情が驚くほど暗いことに眉を寄せた。
こういう場合、イラついて睨みつけられることがほとんどなのに、今はびっくりするほどこちらに意識が向いていない。
「他に何か問題でも?」
「別になにもない。もういい下がってくれ」
何もない顔ではないだろうに。
学校生活や事業運営のことで悩んでいる姿を見ることは幾度となくあったが、こんなに心許ない表情は子供の頃以来だ。
(奥様と喧嘩したわけではなさそうだが……)
だが、アデレード絡みの問題であることは間違いない。
本人が話したくないと言うのを無理やり聞き出すのもどうか。
ジェームスの経験上、恋愛において求められていない他人の意見ほど鬱陶しいものはない。
それに、ペイトンはこれまで女性の為に心を砕くことなどなかった。そういう経験も必要だろう、と、
「では、失礼します」
ジェームスは命じられるまま部屋を後にした。
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