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12-2 二日酔い

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(思い返すと思考がいろいろおかしすぎる)


 穴があったら入りたい気持ちになったが、済んでしまったものは致し方ない。致し方ないのだが、いつもなら直ぐにバーサを呼ぶところを、絶対に怒っているだろうな、と呼び鈴を鳴らせずにいた。

 ベッド傍のサイドテーブルには、毎朝、八時の起床時に用意してくれる水差しとグラスが置かれてあった。手を掛けるとぬるい。

 これはもしかして大幅に寝過ごしているのでは? と時計に目をやると十一時過ぎだった。


(うわぁ……)


 アデレードは現在与えられている仕事はなく、毎日暇なので、別に好きなだけ寝ていてもフォアード家の人間に咎められることはない。

 が、バーサは違う。自堕落的な生活をしようものなら、


「バルモア侯爵様と奥様が知ったらどう思われますかね」

 
 とくどくど言われることは必須だ。

 それに、アデレード自身も嫁ぎ先でそこまで自由きままにやるほど非常識でもない。なので、毎日規則正しく生活している。だから今日だって、起こしてくれたら起きた。

 そうだ、いつもは起こしてくれるじゃないか、とアデレードは開き直った。

 朝だけはノック後、アデレードの返事がなくてもバーサは入室してくる。

 今日も水差しだけは置いて行っている。

 逆に何故起こしてくれなかったの? と強気でいこう、と思っているところへ、扉が叩く音がしてバーサがやってきた。


「お目覚めですか?」  


「……はい」


 アデレードはおずおず答えた。

 バーサは、機嫌は良さそうに見えたが、これは怒りが突き抜けた時のやつでは? と不穏を感じた。


「アデレード様、わたしは見誤っていたようです」


 やっぱり、とアデレードは思ったが反省の謝罪をするより先に、


「旦那様は心の広い方ですね」


 とバーサは微笑んだ。


「え、何処が?」


 めちゃくちゃ細かくあれこれ言ってきますけれども、とアデレードは首を捻った。


「朝の準備をしておりましたら、旦那様から呼び出しを受けましてね、アデレード様をゆっくり寝かせておくよう仰ったんです。わたしに叱らないようにとも念押しされまして。本来ならばあちらから叱責されて離縁されても仕方ないような失態ですのに」


 とバーサが感心しきりに言うので、アデレードは、そこまでかしら? と思った。

 記憶もちゃんとあるし、自分の足で部屋まで帰ってきた。泥酔して暴れ回ってはいない。もちろんそんな反論はしないが。

 ただ、


「契約があるからじゃない?」


 バーサがペイトンを褒めるのが、なんとなく面白くなくて、アデレードは皮肉まじりに言った。
 

「人の弱みにつけ込むのは感心しませんよ」


「別につけ込んでないわ」


「なら、いいですけど」


 バーサは、新しく持ってきた水差しから冷たい水を汲んで、アデレードに差し出した。

 こくこく飲むと食道を伝うのがわかった。まだ頭痛はするが、気分は幾分かすっきりした。 


「食事はどうなされます?」


「先にお風呂入りたい」


「畏まりました」


 バーサが備え付けられている隣室のバスルームへ向かう。アデレードは空になったコップに自分で水を汲みつつ、その後ろ姿を見つめた。


(でも、契約がなかったら、私は一年蔑ろにされていたかもしれないじゃない)


 ペイトンのことは、意外に良い人だと思うが「意外に良い人」であるだけだ。

 初対面でいきなり「君を愛することはない」と宣言をする割に良い人、という認識だ。


(まぁ、迷惑掛けたのは確かだから謝罪はするけどさ)


 アデレードは冷たいコップを額に押し当てながら思った。
 
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