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9-1 初デート
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▽▽▽
週末に観劇に行く、と雑談の中でぽろりと溢していたから、グラディスは六日で一着ドレスを仕上げてくれた。
件のメイズのドレスだ。
腰の辺りで切り返しがありアシンメトリーに大きくフリルが何段にもついている。元々の正統派なお姫様スタイルより洒落た出来栄えになっている。
「本当に素晴らしいですね」
着付けてくれたバーサが満面の笑みで言う。
アデレードも鏡の中の自分を見て心が躍った。これまで恥をかかない程度に体裁を保ったドレスばかり選んできたから、好きな服を着るというのはこんなに気分がよいものだったのかという嬉しさと、もったいないことをしてきたなという後悔が絡んだ複雑な気持ちになった。
「演目は勿忘草でしたっけ?」
「そうよ」
「昔、セシリア様と観に行かれていましたよね」
「……うん」
セシリアはアデレードの姉だ。
本当はレイモンドを誘ったが、断られた為に姉に付いてきてもらった。
しかし、帰りの馬車では、復縁派のアデレードと破局派のセシリアで大討論になった。
家族の中でセシリアだけはレイモンドとの付き合いをやめろ、と何度も苦言を呈していた。だから「あんな男とは別れて正解!」としきりに言うことが、勿忘草に託つけた自分への当てつけのように聞こえた。
それでアデレードもムキになって必死に男を擁護した。尤も実際セシリアは当てこすりしていたのだが。
「今観たらまた印象変わったりするかしら?」
「そうですね。小説とか演劇は、年齢によって自分の心情を反映する人物が変わりますから」
バーサは静かに言った。
アデレードはレイモンドに未練はないつもりだが、あの観劇を見て自分がどう思うか、全く予想できなかった。
「奥様ご支度はよろしいですか?」
出発の時刻になり、ジェームスが呼びに来た。
「はい」
アデレードは応じて部屋をでる。
ジェームスに従って階下に下りていく。一週間前のデジャヴのようだ。だが、傍まで行くとペイトンは、
「別に似合うじゃないか」
と言った。ドレスを作る際に、似合う似合わないでどれを選ぶか迷っていたから、そう発言したのだろうが、
「何を喧嘩売っているんですか」
経緯を知らないらしいジェームスが唸るようにペイトンを責めた。
「いや、違うんだ」
「何がですか」
「いやだから……」
ペイトンがこっちを見てあわあわするので、
(私は何も言ってないけど)
と困った。
「ジェームスさん旦那様の言ったことは、本当に違うので大丈夫です」
気の毒なので一応庇うと、
「奥様が仰るなら」
とジェームスは引いた。
ペイトンとジェームスの関係性が乳兄弟であることは、バーサの侍女仲間から仕入れた情報で知った。その割に、ジェームスはこっちの味方ばかりしてくるのが不思議だ。
「旦那様、ドレス有難うございます。こんなに早く仕上げてもらえるなんて」
「あぁ、今日に間に合って良かったな」
「はい」
「そろそろ出掛けるか」
言いながらペイトンが掌を差し出すので、アデレードも素直にエスコートされる。
相変わらずのふわふわした手の握り方でぎこちない。
だが、朝夕と顔を合わせてそれなりに会話しているせいか、若干ペイトンの女性苦手意識みたいなものが軽くなった気がする。
この調子で「私は絶対に貴方を好きにならないから安全ですよ」ということを信じてもらい恙無く一年過ごせたらよいな、とアデレードはエスコートされるまま馬車に乗り込んだ。
週末に観劇に行く、と雑談の中でぽろりと溢していたから、グラディスは六日で一着ドレスを仕上げてくれた。
件のメイズのドレスだ。
腰の辺りで切り返しがありアシンメトリーに大きくフリルが何段にもついている。元々の正統派なお姫様スタイルより洒落た出来栄えになっている。
「本当に素晴らしいですね」
着付けてくれたバーサが満面の笑みで言う。
アデレードも鏡の中の自分を見て心が躍った。これまで恥をかかない程度に体裁を保ったドレスばかり選んできたから、好きな服を着るというのはこんなに気分がよいものだったのかという嬉しさと、もったいないことをしてきたなという後悔が絡んだ複雑な気持ちになった。
「演目は勿忘草でしたっけ?」
「そうよ」
「昔、セシリア様と観に行かれていましたよね」
「……うん」
セシリアはアデレードの姉だ。
本当はレイモンドを誘ったが、断られた為に姉に付いてきてもらった。
しかし、帰りの馬車では、復縁派のアデレードと破局派のセシリアで大討論になった。
家族の中でセシリアだけはレイモンドとの付き合いをやめろ、と何度も苦言を呈していた。だから「あんな男とは別れて正解!」としきりに言うことが、勿忘草に託つけた自分への当てつけのように聞こえた。
それでアデレードもムキになって必死に男を擁護した。尤も実際セシリアは当てこすりしていたのだが。
「今観たらまた印象変わったりするかしら?」
「そうですね。小説とか演劇は、年齢によって自分の心情を反映する人物が変わりますから」
バーサは静かに言った。
アデレードはレイモンドに未練はないつもりだが、あの観劇を見て自分がどう思うか、全く予想できなかった。
「奥様ご支度はよろしいですか?」
出発の時刻になり、ジェームスが呼びに来た。
「はい」
アデレードは応じて部屋をでる。
ジェームスに従って階下に下りていく。一週間前のデジャヴのようだ。だが、傍まで行くとペイトンは、
「別に似合うじゃないか」
と言った。ドレスを作る際に、似合う似合わないでどれを選ぶか迷っていたから、そう発言したのだろうが、
「何を喧嘩売っているんですか」
経緯を知らないらしいジェームスが唸るようにペイトンを責めた。
「いや、違うんだ」
「何がですか」
「いやだから……」
ペイトンがこっちを見てあわあわするので、
(私は何も言ってないけど)
と困った。
「ジェームスさん旦那様の言ったことは、本当に違うので大丈夫です」
気の毒なので一応庇うと、
「奥様が仰るなら」
とジェームスは引いた。
ペイトンとジェームスの関係性が乳兄弟であることは、バーサの侍女仲間から仕入れた情報で知った。その割に、ジェームスはこっちの味方ばかりしてくるのが不思議だ。
「旦那様、ドレス有難うございます。こんなに早く仕上げてもらえるなんて」
「あぁ、今日に間に合って良かったな」
「はい」
「そろそろ出掛けるか」
言いながらペイトンが掌を差し出すので、アデレードも素直にエスコートされる。
相変わらずのふわふわした手の握り方でぎこちない。
だが、朝夕と顔を合わせてそれなりに会話しているせいか、若干ペイトンの女性苦手意識みたいなものが軽くなった気がする。
この調子で「私は絶対に貴方を好きにならないから安全ですよ」ということを信じてもらい恙無く一年過ごせたらよいな、とアデレードはエスコートされるまま馬車に乗り込んだ。
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