聖女の加護を受けた一般市民は勇者パーティに必要なのか？～ついでに溺愛も期待してみていいですか？～

13.何故か私を差し置いて、世界が少女漫画に染まっていく

　
　円を描くように建物が辺りを囲っている。きっとどこから見ても一目で中央にいる人の姿が見えるのだろう。

「着きました」

　西洋風の家が並ぶ道を真っ直ぐ進んだ先で、私達を待っていたのは大きな広場だった。

「ここが街の中心です」
「……ここが」

　私は小さく息を飲んだ。
　青々とした芝生におしゃれな噴水。魔物に襲われていなければ、それは素敵な憩いの広場だったに違いない。

「クロム様のそのお姿では少し雰囲気に欠けますね」

　驚き惚けている私の横で、フリードは何やらそう言って魔法を唱えた。

「！？」
「ま、こんなものか」
「ありがとうございます」

　私は目を疑った。
　さっきまでボロボロになっていた彼女の衣服が、一瞬にして見違えるほど綺麗に変わったのだ。これなら聖女なのだと誰の目にも一目で分かる。
　凄い、私も欲しい！
　私はそっと彼のローブをひいた。

「うん？」
「わ、私にも今のやって下さいよ。私もなんだかんだあってボロボロで」
「自分で買え。それではクロム様、祈りを――」

　あっさりと拒否。この待遇の差よ。

「フリード、彼女の服も」
「……面倒臭いな」

　渋々、私の服も新調された。ありがとう、クロム様！

「これでやっと正式に祈りを……クロム様？」
「……」

　どうしたんだろう。クロム様の元気が無い。
　顔色もそんなに良く無さそうだ。

「大丈夫、ですか？」

　私は俯いた彼女の顔を覗き込んだ。

「……私は本当に祈りを捧げていいのでしょうか」
「！」

　そう言うことか。
　彼女にもう聖女の力は無い。
　全て加護として私に与えてしまったのだ、祈りを捧げたところで何の効果も無いだろう。

「私には祈る資格なんて……」
「大丈夫ですよ」
　
　自信なく見上げる少女に、フリードは優しく微笑んだ。

「たとえ形だけだったとしても、クロム様の気持ちが誠実であれば、必ず祈りは届きます」
「フリード……」

　え、凄くまともな事言っている。
　キラキラのまるで少女漫画のような展開のその横で、私はフリードを二度見した。私にあんな辛辣な態度を取った男の発言とは思えない。
　ああ、対象が変わると世界はこんなにも変わってしまうのだと、私はしみじみと感じた。

「それに」

　おっと、まだ話に続きがあるらしい。

「どうせ庶民など、聖女の祈りの力の有無など見極められるはずもありませんから」

　……前言撤回。やっぱり変わっちゃいなかった。

「クロム様、今、滅茶苦茶非道なこと言いましたよ、この男。聖女の仲間として相応しくないですよ」
「馬鹿だな。既に祈りに集中している。余計な声は耳に入らない」

　そういう事かこの野郎。