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しおりを挟むーあれから1か月後ー
「ラフェリト様、この書類のチェックお願いします」
「はいはい、分かった分かった」
俺は城で側近兼下っ端の仕事をこなしていた。正直、王子の命令で不穏分子達を処罰して終わりだと思っていたから、こんな展開になるなんて思いもしなかった。何がどうなってこうなったかといえば……
===
あの日。
俺が側近達に告げた言葉は以下の通りだった。
「えっとですね、じゃあ今からあなた方には北ではなく、南の土地の開拓をして貰います」
「「「え?」」」
王子を裏切ろうとしていた側近達、そしてネミア王妃。どちらも困惑した表情を浮かべていた。何が起きたのか理解出来ていない。
俺はそんな彼らに向かって平然と言葉を続けた。
「えっとですね、だから南の土地を差し上げますから、そこで食料をたくさん育てて欲しいんです」
「は、はい?」
ネミア王妃は目をぱちくりさせている。まあ驚くのも無理はないだろう。だって彼等からすれば、俺は王子を暗殺から救ったヒーローなわけで。その男が処刑ではなく『南の土地やるからそこで農業やってね』だ、なんて言い出しても、受け入れられるわけがない。でもこの国の南に未開拓な土地があるのはこの前の調べで分かっていた。ならば使わないまま放置しているのは惜しい。まあ勝手に南の土地をあげるなんて勝手な宣言しちゃって、そこはごめんね王子って感じになるけど。
「こほん」
もっともらしく咳ばらいをして話を続ける。
「ここは北国、食物があまり育ちません。つまり食糧不足。そんな状態じゃ王政だって長くは持たない。北方遠征なんて論外。だから南の土地で食料を豊富に生産して、この国に貢献して欲しいんです。そうすればほら、貴女達の望む、王子が遠征に行く状況だって生まれるかもしれない」
「おいおいラフェリト。お前、どっちの味方だよ」
すかさず王子からの鋭いツッコミ。
頬杖ついて呆れながら半笑いになっている王子に、俺もニヤリと半笑いで返した。
「いや、それでも王子は追い込まれまないと思ってますよ。たぶんね」
「はっ馬鹿野郎」
この人が追い込まれる状況なんて、それこそ隕石が空から降って来るとかそういった類だろうし。
「でもま、やる気を出して貰うためにも彼らにも希望があった方がいいでしょ……とにかく」
俺は側近達に向き直った。
「貴方たちを処刑はしませんから、これから南の土地で農業を頑張って下さいね」
「は、はあ」
生憎だけど拒否権はない。死ぬより全然良いだろう。
まだ現実を受け入れられていない彼らに向けて、俺はにっこりと手のひらを振った。
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