俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる

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「君、何をしでかしたのか分かっているんですか!」

 王子との会談が終わり、部屋を退出したところで、例の上司の男が真っ先に駆け寄ってきた。随分と顔色が悪い。ちょっと水でも飲んで落ち着いたらどうだろう。
 だから俺はしれっと聞いた。

「何がです?」
「約束が違うでしょう!」
「約束?」
「ああもう」

 焦ったそうに頭を掻く眼鏡の男。彼は俺の肩を鷲掴みにして告げた。

「君が上手いこと進言して王子を暗殺の舞台に誘導する手筈だったでしょう? それなのにどうして??」
「あれーそうでしたっけ?」
「そうでしょう!」

 ギャンギャンと子犬のように喚く彼に、俺は若干哀れみを感じた。
 遠くを見つめるようにしてもう一つだけ問いかける。

「で、この任務が達成されないとどうなるんでしたっけ?」
「なっ、そんなこともお忘れですか? あなたの大事な家族が今頃はネミア様の手によって亡き者に……」
「ほー。それでそれで?」
「だから今からでも発言撤回して、王子に再打診を……あ、あれ?」

 彼ははたと首を傾げた。だって最後に自分に向けて応答したのは目の前にいる俺ではなく、背後からの声だったから。

「え、ええっと」

 ゆっくり恐る恐る。
 それはまるでスロー再生のようなゆっくりとした動きで彼は後ろを振り返った。そしてまるで青い信号のように真っ青に顔色を変えるのだった。

「お、王子?」
「や」
「い、い」

 いつからそこに?
 そう言いたかったのだろうけど、思うように言葉が出ない。そりゃあそうだ。だって、会談が終わった後の王子はまだまだやることが残っていて、部屋を出てくるなんて、ましてや自分達の話に耳を傾けているなんて、これっぽっちも思っていなかったんだから。
 これがテレビなら「志村後ろー」なんて言っていたかもしれない。ま、言わないけど。

「話は分かった。お前と王妃がよからぬ事を企んでいることもな」
「ま、待って下さい。それは誤解っ」
「誤解じゃないでしょう。あれだけ堂々と、王子を背に黒幕発言を連発していたんだから」
「く、くそっ! 裏切りましたね、ラフェリト」
「裏切るも何も俺は最初からあんた達の味方をしたつもりはないよ」

 本来のラフェリトは置いといて、彼に転生した俺は間違いなく味方をしたつもりは一切無い。

「さて、あとは俺の弟ですが」
「安心しろ。そっちは別の部下に身の安全を守るよう指示をだしてる」

 さすが王子、手際がいい。

「もうすぐ王妃も連行されて来るはずだ。罪はあらためてその時はっきりとさせようか」
「そんなぁ……」

 こうしてこの件は無事に幕を閉じようとしていた。
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