10 / 13
10
しおりを挟む「君、何をしでかしたのか分かっているんですか!」
王子との会談が終わり、部屋を退出したところで、例の上司の男が真っ先に駆け寄ってきた。随分と顔色が悪い。ちょっと水でも飲んで落ち着いたらどうだろう。
だから俺はしれっと聞いた。
「何がです?」
「約束が違うでしょう!」
「約束?」
「ああもう」
焦ったそうに頭を掻く眼鏡の男。彼は俺の肩を鷲掴みにして告げた。
「君が上手いこと進言して王子を暗殺の舞台に誘導する手筈だったでしょう? それなのにどうして??」
「あれーそうでしたっけ?」
「そうでしょう!」
ギャンギャンと子犬のように喚く彼に、俺は若干哀れみを感じた。
遠くを見つめるようにしてもう一つだけ問いかける。
「で、この任務が達成されないとどうなるんでしたっけ?」
「なっ、そんなこともお忘れですか? あなたの大事な家族が今頃はネミア様の手によって亡き者に……」
「ほー。それでそれで?」
「だから今からでも発言撤回して、王子に再打診を……あ、あれ?」
彼ははたと首を傾げた。だって最後に自分に向けて応答したのは目の前にいる俺ではなく、背後からの声だったから。
「え、ええっと」
ゆっくり恐る恐る。
それはまるでスロー再生のようなゆっくりとした動きで彼は後ろを振り返った。そしてまるで青い信号のように真っ青に顔色を変えるのだった。
「お、王子?」
「や」
「い、い」
いつからそこに?
そう言いたかったのだろうけど、思うように言葉が出ない。そりゃあそうだ。だって、会談が終わった後の王子はまだまだやることが残っていて、部屋を出てくるなんて、ましてや自分達の話に耳を傾けているなんて、これっぽっちも思っていなかったんだから。
これがテレビなら「志村後ろー」なんて言っていたかもしれない。ま、言わないけど。
「話は分かった。お前と王妃がよからぬ事を企んでいることもな」
「ま、待って下さい。それは誤解っ」
「誤解じゃないでしょう。あれだけ堂々と、王子を背に黒幕発言を連発していたんだから」
「く、くそっ! 裏切りましたね、ラフェリト」
「裏切るも何も俺は最初からあんた達の味方をしたつもりはないよ」
本来のラフェリトは置いといて、彼に転生した俺は間違いなく味方をしたつもりは一切無い。
「さて、あとは俺の弟ですが」
「安心しろ。そっちは別の部下に身の安全を守るよう指示をだしてる」
さすが王子、手際がいい。
「もうすぐ王妃も連行されて来るはずだ。罪はあらためてその時はっきりとさせようか」
「そんなぁ……」
こうしてこの件は無事に幕を閉じようとしていた。
700
お気に入りに追加
690
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした
Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち
その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話
:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。
めちゅう
BL
末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。
お読みくださりありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる