9 / 13
9
しおりを挟むやっぱり俺が思っているよりも、王子はまともな人なのかもしれない……。こんな自分の立ち位置がイマイチつかめない俺や、暗殺の指示を出したあの二人なんかよりもずっと。
「王子!」
「うおっ、何だよ……いきなり」
俺は王子の両手をガシッと握りこんだ。
「俺、貴方なら信用しても大丈夫って気がしてきました!」
「……いやだからお前何言ってんだよ。訳分からないって」
王子は押さえられるがまま後ろによろめいた。
しかし勿論離さない。だってこれから大事な話をするんだから。まさか自分自身、こんな行動を取るだなんて微塵も思っていなかった。もう今までの自分の認識を改めざるを得ないだろう。
俺は、この男に全額ベットする!
「あの、王子……」
「な、何だよ」
うんざりした様子の王子に、俺は言った。
「俺がこれから言う話、信じてもらっていいですか?」
「……?」
それは一世一代の大博打。
===
次の日。
「ラフェリト、お前の意見を聞かせてもらう」
それは俺がこの世界にやってきて遭遇した最初の場面。王子から領地拡大の為、新たに遠征を行うべきかどうかを問われるところだった。
どうやらこのラフェリトという男、俺が転生する前は一側近というだけではなく、ここぞという場面で最良の選択をすることにも富んだ男だったようだ。だから信頼も厚く、それゆえに悪い王妃達の政権争いにも巻き込まれたのだが。
「それは」
この場合、ラフェリトこと俺が提示する答えはノーである。領地拡大とはいえ、今回遠征しようとしているのはここよりも更に北国。この国自体も北にあることから、寒さには慣れてるし遠征も問題ないだろうという考えを持った上での問いだが、北国を舐めてもらっちゃ困る。少し緯度が変わっただけでも気候が段違いに変わるのは、俺の元いた世界の知識でも容易に想像がつく。が、しかし。
「どうなのかしら、ラフェリト」
ネミア王妃が圧を持った声で問いかける。
彼女としては俺にイエスと言って欲しいのだ。その狙いは遠征中の事故に見せかけた王子暗殺。万が一暗殺出来なくても、王子が出払っている間に、あの手この手で実子レイチェルを次期後継者として王位を確固たるものにするつもりらしい。
で、俺はというと。
「この遠征には……反対ですね」
「なっ!?」
「は、反対?」
狼狽えるのは当然ネミア様と俺の上司。だって俺の家族まで人質に取った上で成功すると思っていた作戦がこうもあっさり打ち破られちゃあな。
「ラフェリト、ほ、本当に君はそう考えているんだな?」
自称上司の男が目を見開いて俺の肩をゆさぶる。
「ええ、今の発言に誤りはありませんよ」
「……っ」
男は苦虫を噛み潰したように表情を歪ませる。
微妙な空気に包まれる執務室内。この様子だと彼ら二人以外にも、王子失墜派がいたらしい。
「ああ、そうか。分かった」
そんな中、王子だけが密やかにニヤリと笑っていた。
712
お気に入りに追加
690
あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした
Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち
その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話
:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。
めちゅう
BL
末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。
お読みくださりありがとうございます。


侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる