6 / 13
6
しおりを挟む次の日。
「えっと確かこの辺だったか……」
俺は非番をいいことに、城内の私設図書室に足を運んでいた。ここには歴史ある文献から大衆娯楽まで手広く取り揃えてあるのだ。どうしてそれを城の一側近である俺が使えるのかというと、暗殺計画の遂行に必要だからと、王妃のネミア様にお願いしたからだ。案外簡単に申請は通った。
「あ、あった」
ちょうど棚の最上段に発見したのは、この国の歴史を綴った本だった。
しかし高いな。
「……せーの、よいしょぉ」
誰も見てないのをいいことに脚立を使わず思い切りジャンプする。しかし、俺の右手はあと数ミリのところで空を切った。くそう、元の体だったらもう少し身軽に動けるのに。
ラフェリトに転生してまもない俺は、ジャンプして高所のものを取るのさえ苦労していた。
でも俺はめげないぞ、よし、もう一度。
「そりゃっ」
今度はギリギリ指が触れた。そこから器用に端っこをつまむ。
バッチリだ。
そう思ったところで予想外のことが起きた。
「やばっ」
本が手元から跳ねるように滑り落ちたのだ。そしてそのまま頭の上に落下してこようとしている。
「と、と、と、お、うわっ」
更に最悪だったのは、その体制から体がバランスを崩し後ろに倒れそうになったことだ。このまま倒れたら脳震盪は免れない。絶対痛いだろうな。
回想するには取るに足りない走馬灯が頭の中を駆け巡ろうとした時だった。
「大丈夫か?」
とすんと俺の体を誰かが受け止めた。
「お、王子」
金髪碧眼の美青年が何とも絶妙なタイミングで俺を支えていた。
「何やってんだよ」
「ははは、すんません。ありがとうございます」
「ったく」
そう言って俺の顔を呆れたように見下ろす。
「まるで王子様みたいですね」
「馬鹿いえ。正真正銘の王子だよ」
「….…でしたね」
この時の王子様とは、お伽話に出てくるお姫様を助けていそうな王子様示したつもりだったけど、自分でも何言ってんだと思ったのでそのまま言葉を飲み込んだ。
「で、ここで何を?」
「いやあ、急にこの国の歴史を知りたいな、なんて……」
嘘はついてない。
俺はそれを読んで、この王子の置かれている立場を理解しようとしたのだ。
「その、料理の本でか?」
「料理……? あっ」
地面に落ちて乱雑に広げられていたそれは、確かにお料理の本だった。色とりどりの野菜達が美しくページを飾る。
「……」
「お前が読みたかった本はこっちだろ? よっと」
そう言って王子は身軽な感じで飛び上がると、あっさりと必要としていた本を取ったのであった。俺がやりたかったのはこれだよ、これ。
「ほら」
「う……ありがとう……ございます」
この人、顔もいいのに運動神経もいいなんて、ズルくないですかね。
747
お気に入りに追加
690
あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした
Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち
その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話
:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)


末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。
めちゅう
BL
末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。
お読みくださりありがとうございます。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる