5 / 13
5
しおりを挟む俺は次第におぼろげながら、今の自分ことラフェリトがどういう人物かを思い出してきた。
王子に信頼を置かれている、真面目で誠実な人物。両親は幼い頃に他界していて、今は何とか病気の弟と二人暮らしをしている。そんな彼だからこそ、さぞかし自分の立場に頭を悩ませていただろう。
王子暗殺計画。
これはウィル王子の義理の母であるネミア様が、自分の実の息子である第二王子のレイチェル様を真の後継者たらしめるために行われるものだ。いわゆるお家騒動ってやつか。
そんなものに俺は全く興味は無いが、そこで目をつけられたラフェリトには同情する。
「ただいまー」
記憶を頼りに帰路へついた俺は、そう言って玄関の扉を開けた。
「おかえり、兄さん」
「……ああ」
そうして現れたのが、俺の唯一の肉親、病弱な弟クリフトだった。
歳は俺より五つくらい下だろうか。くりっと丸い瞳と色白の肌。どこか儚さを感じさせるその容姿は、女性だったら母性本能をくすぐられるのかもしれない。
「お腹すいたでしょ? 今日は僕、体調が良かったから夕飯を作ってみたんだ」
人懐こい笑みを浮かべたクリフトは、お玉を手に取ると、鍋から何かをすくってさらに盛り付けた。匂いからしてシチューかな。
「今日は兄さん、お城で体調崩したんだって?」
「何故それを」
「ウィル王子の使いの人から聞いたよ。だから今日は美味しいもの食べるようにって、王子から鳥肉をいただいたんだ」
「……なるほど」
道理で。
親を亡くした二人暮らし。食事だって当然豪華にいただけるはずがない。それなのに、こうしてチキンシチューをいただけているのは、あの王子のおかげだと。
「明日、お礼を言っておいてね」
「あ、ああ」
これはますます暗殺しにくくなってきたな。
貧乏な部下の身を案じて、こっそり支援してくれるなんて。
「ああ、それと」
今度は何だ。
「向かいの家のおじいちゃん、王子が畑までの道を直してくれたおかげで随分作業が楽になったって喜んでたよ。これもお礼、伝えてあげてね」
「わ、分かった」
王子、優しいし、有能じゃないか。
「えっと他にはね……」
「おい、まだあるのか?」
それから俺はウィル王子に対する近隣住民の感謝の言葉を更に二、三件承ることになった。
これ、本当に俺、暗殺計画に乗っていいのか?
駄目だろ、たぶん。
815
お気に入りに追加
690
あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした
Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち
その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話
:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。
めちゅう
BL
末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。
お読みくださりありがとうございます。


侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる