2 / 13
2
しおりを挟む「えーっ……そんなことあるー?」
色白の頬を撫でながら、俺は自分の顔をまじまじと確認した。頬を引っ張ってみたが勿論痛い。夢では無いようだ。いっそこの窓から飛び降りれば、強制的に現実に帰れるとかそんな漫画みたいな展開を期待する気にはなれなかった。
だってこの現状が漫画みたいですもん。
「何が何だか分からない。誰でもいいから説明してくれよ」
しかしもちろん返事はない。
広い廊下に自分の声だけが響いた。
「はあ、とりあえず大人しく一度戻るか」
そう思ってドアノブに手をかけた時だった。
「ああもう、大丈夫ですか!?」
俺がドアを開けるより早く、向こう側から扉が開けられた。
眼鏡のヒョロヒョロとした男だった。
「あ、いや、今戻ろうと」
「そんな事言って顔色が真っ青じゃないですか! 王子、申し訳ありませんが私は彼を休憩室に連れて行きます。よろしいですね」
「ああ、分かった」
「え、でも俺は大丈……」
「ほら、いいですから。こっち! 早くしてください!!」
ぐいぐいと眼鏡の男に力強く腕を引かれた。
抵抗する俺の声が届かない。というよりも、この人が俺をこの場から引き離したいような気さえ感じる。
「わ、分かったって!」
声を張り上げる俺の顔を王子と呼ばれたイケメンの男が、眉をひそめてみつめている。この人、王子だったんだな。
「じゃあさっさと歩いてください」
「はいはい」
金髪のイケメンの正体が王子様だという驚きの余韻も与えられないまま、半ば強引に俺は休憩室と呼ばれる場所へと連行されることになった。
===
「ふう、焦りましたよ」
休憩室に着くなり男はだらしなく椅子にもたれかかった。俺も遠慮なくベッドに腰かける。
「何がだよ。俺は別に大丈夫だって」
部屋を飛び出したのは、いきなり訳の分からない状況に置かれたからであって、精神的にはそりゃあダメージがあったけど、体力的には問題ない。だからこんな病人みたいな扱いされなくても良かったのに。
そう言った俺の顔を男はジト目で見返した。
「なーにが大丈夫ですか」
「いやいや、身体の持ち主である俺本人が言ってるんだから大丈夫でしょ」
「そうじゃないです」
「そうじゃない?」
俺が首を傾げると、相手は絶望に絶望を塗り重ねたような大きなため息を一つ零した。
「あのですね、貴方は……」
「ラフェリト、ここね!」
「えっ?」
彼が何かを言いかけようとした時、休憩室の扉がバタンと大きな音を立てた。
音の先には、綺麗に着飾ったドレス姿の妙齢の女性が立っていた。
「……こちらの方は?」
「ばっっっか! こちらは王の妃のネミア様だろっ」
敬語も抜けるくらい慌てた様子で、小声で呟き俺の腹をどつく。
通りでお綺麗な事で。でも、そんなお方が俺に一体何の御用で。
その疑問に対する答えは、すぐに判明することになった。
「どう? 上手く行ったかしら。王子暗殺計画は」
「はあ。あんさ……」
暗殺……計画!?
527
お気に入りに追加
537
あなたにおすすめの小説
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます
瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。
そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。
そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。
魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
僕のユニークスキルはお菓子を出すことです
野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。
あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは??
お菓子無双を夢見る主人公です。
********
小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。
基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。
ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ
本編完結しました〜
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる