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「えーっ……そんなことあるー?」

 色白の頬を撫でながら、俺は自分の顔をまじまじと確認した。頬を引っ張ってみたが勿論痛い。夢では無いようだ。いっそこの窓から飛び降りれば、強制的に現実に帰れるとかそんな漫画みたいな展開を期待する気にはなれなかった。
 だってこの現状が漫画みたいですもん。

「何が何だか分からない。誰でもいいから説明してくれよ」

 しかしもちろん返事はない。
 広い廊下に自分の声だけが響いた。

「はあ、とりあえず大人しく一度戻るか」

 そう思ってドアノブに手をかけた時だった。

「ああもう、大丈夫ですか!?」

 俺がドアを開けるより早く、向こう側から扉が開けられた。
 眼鏡のヒョロヒョロとした男だった。

「あ、いや、今戻ろうと」
「そんな事言って顔色が真っ青じゃないですか! 王子、申し訳ありませんが私は彼を休憩室に連れて行きます。よろしいですね」
「ああ、分かった」
「え、でも俺は大丈……」
「ほら、いいですから。こっち! 早くしてください!!」

 ぐいぐいと眼鏡の男に力強く腕を引かれた。
 抵抗する俺の声が届かない。というよりも、この人が俺をこの場から引き離したいような気さえ感じる。

「わ、分かったって!」

 声を張り上げる俺の顔を王子と呼ばれたイケメンの男が、眉をひそめてみつめている。この人、王子だったんだな。

「じゃあさっさと歩いてください」
「はいはい」

 金髪のイケメンの正体が王子様だという驚きの余韻も与えられないまま、半ば強引に俺は休憩室と呼ばれる場所へと連行されることになった。

===

「ふう、焦りましたよ」

 休憩室に着くなり男はだらしなく椅子にもたれかかった。俺も遠慮なくベッドに腰かける。

「何がだよ。俺は別に大丈夫だって」

 部屋を飛び出したのは、いきなり訳の分からない状況に置かれたからであって、精神的にはそりゃあダメージがあったけど、体力的には問題ない。だからこんな病人みたいな扱いされなくても良かったのに。
 そう言った俺の顔を男はジト目で見返した。

「なーにが大丈夫ですか」
「いやいや、身体の持ち主である俺本人が言ってるんだから大丈夫でしょ」
「そうじゃないです」
「そうじゃない?」

 俺が首を傾げると、相手は絶望に絶望を塗り重ねたような大きなため息を一つ零した。

「あのですね、貴方は……」
「ラフェリト、ここね!」
「えっ?」

 彼が何かを言いかけようとした時、休憩室の扉がバタンと大きな音を立てた。
 音の先には、綺麗に着飾ったドレス姿の妙齢の女性が立っていた。

「……こちらの方は?」
「ばっっっか! こちらは王の妃のネミア様だろっ」

 敬語も抜けるくらい慌てた様子で、小声で呟き俺の腹をどつく。
 通りでお綺麗な事で。でも、そんなお方が俺に一体何の御用で。

 その疑問に対する答えは、すぐに判明することになった。

「どう? 上手く行ったかしら。王子暗殺計画は」
「はあ。あんさ……」

 暗殺……計画!?
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