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25.仮病のプロの犯行
しおりを挟む「踊れない……」
「そう、笑っちゃうでしょ」
私は無理矢理笑顔を作った。
「普段あれだけ偉そうなこと言っておきながら、そんなことも出来ない。幻滅してくれていいのよ」
「いえ、そんなことは」
私の偽りの笑いに対して、彼女の目は真剣だった。
「エレナさん、あの」
何かを言いかけたその時だった。
「なるほど、そういう事だったのか!」
ガサっという音と共に裏手の草むらから人影が現れた。
「は? ルドルフ?」
それはフィーネの兄、ルドルフだった。
彼は私達の方へ近付いてくると、フィーネに向かって話しかけた。
「突然いなくなるから探したよ」
「お兄様ごめんなさい」
「いや、いいんだ。僕が目を離したのが悪い」
「……で、結局何が『そういう事だった』なの?」
私が訊ねると、ルドルフはこちらに向き直った。そしてあっさりした様子で私に告げる。
「ん。何って、君がこれまでの夜光祭に参加しなかった理由だよ」
「……え?」
「要は踊れないから、参加しないで逃げ回っていたんだろ?」
「それは……そうだけど」
でも何故この男が、今回だけじゃなくこれまでの私の行動を知っているんだろう。
「なんで貴方がそこまで知っているのよ」
「僕じゃないよ。フィーネが教えてくれたんだ」
「フィーネが?」
「はい。だって私、それはもう毎年楽しみにしていましたから。エレナさんはどんな衣装なんだろうとか、誰と踊るんだろうとか」
「ま、肝心の君は何かと理由を付けて、その日は休んでいたようだけどね」
「……」
私は黙り込むしかなかった。確かに去年も一昨年も、私は夜光祭に参加していない。
でもまさかそれを把握している存在がいようとは。しかもこんな身近に。
「という訳でエレナさん、今年こそ参加しましょう!」
「はいっ?」
「私、見たいんです。エレナさんの踊っている姿」
「ちょっ、ちょっと聞いてた? 私踊れないのよ?」
思わず叫んでいた。するとフィーネは不思議そうに首を傾げる。
「練習すればいいじゃないですか」
「そんな簡単に言わないで! そもそも私には一緒に練習出来る友達なんて……」
「私がいますよ」
「え?」
フィーネの言葉の意味を理解する前に、彼女はさっと立ち上がって私に手を差し伸べてきた。
「だから、参加しましょう。夜光祭」
「……」
白く透き通った手。
文字通りの彼女のそれを見つめ、私は小さく笑みを浮かべる。
本当にこの子は。どこまでも眩しくて温かい。
「……馬鹿ね。幽霊の貴女とじゃ練習にならないじゃない」
「はっ、そうですね。……あ、分かりました! お兄様もお付けします」
「えっ僕も?」
突然自分の名前が挙げられて戸惑うルドルフ。その様子に私はまた笑う。
「じゃあ、お手柔らかに頼むわね」
「任せて下さい!」
空が茜色に染まる夕暮れ時。私は彼女の手に、そっと手を重ねた。
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