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24.恋バナ少女と憂鬱な空
しおりを挟む「さて今年もそろそろ『夜光祭』の季節です」
それは教師の一言から始まった。
夜光祭。
それは年に一度、この学園で行われるダンスパーティ。
男女がペアになるのはもちろん、一番輝いたペアには、何でも願いが叶うと噂の『夜光のティアラ』が贈呈される。物欲的にも名誉的にも憧れ的にも欠かせないイベント。
「ねえ貴女は誰と組む?」
「そうね私は……」
「あのティアラって本当に何でも叶うらしいわよ」
「ルドルフさん、ペアは決まってるかしら」
「あっ待って。私もそれ知りたいわ」
放課後になると早速、話題は夜光祭のことで持ちきりになった。誰とペアを組むかとか、誰が一番になりそうかとか。
とにかく男子生徒も女子生徒も、色々な思惑から相手の出方を窺っているようだった。
そしてここにもその熱に当てられた少女が一人。
「エーレナさんっ」
「なに?」
「エレナさんは夜光祭、誰とペアを組むんですか?」
突然席にやって来たかと思うと、フィーネはまるで恋バナでも楽しむ少女のように、そう私に訊ねた。いっそ清々しいくらい呑気な笑顔。
「知りたいの?」
「知りたいです!」
「知っても楽しくないわよ」
「そんな事ないです! エレナさんのような素敵な方とペアが組めるなんて伝説レベルの出来事ですよ。私だったら楽しみで夜も眠れません! さあ、誰ですか?」
キラキラと好奇心に満ち溢れた目。明らかに眩しすぎるオーラ。
私が受け止めるには荷が重い。
「……さあね」
そう言って私はそっと席を立った。
「どこ行くんですか?」
フィーネが後からついてくる。
まだ雑談に盛り上がっているクラスメイト達を横目に、教室の後ろ側の扉に手をかけた。
「飼育小屋」
「飼育小屋?」
フィーネがはてと首を傾げた。
「そういえば前も飼育小屋に行ってましたよね。でもエレナさんって飼育委員じゃありませんよね?」
「そうね」
私が廊下に出てからも彼女はめげることなく、私の後ろをついて歩いた。
「じゃあウサギが好きなんですか?」
「違うわ」
「そこに落とし物をしたとか?」
「それも違う」
「じゃあどうして」
「さあ、何ででしょうね」
いくつかの質問を適当にかわし、気付いた頃には本来の目的地である飼育小屋に辿り着いていた。
小さなウサギ達が相変わらず自由に走り回っている。
私は目を細め、その光景を眺めた。
「……」
「エレナさん、何だかさっきから様子がおかしくありませんか?」
「気のせいよ」
「でも」
彼女にしては珍しく、一瞬言葉を鈍らせる。
そして少しだけ間を置いてから、それが言うべき事ではないと判断したのか、彼女は言葉を飲み込んだ。
かわりに私の隣でちょこんと屈み、ウサギ達をそっと見つめた。
「私はウサギ、好きですよ」
「……知ってるわ」
「え?」
フィーネは不思議そうにこちらを見上げた。
「だってこれ、貴女に少しでも近づきたくて真似した行動だから」
分からないのも無理はない。
なおも目を丸くする彼女を見て、私は自虐的に笑った。
「ずっと一位になりたくて、愛される存在になりたくて、でも結局、貴女のようにはなれなかった」
風がさあっと吹き抜ける。
風に揺られ、私の髪だけがなびいた。
「正直に言うわ。私ね、実は全く踊れないの」
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