ヒロイン不在の悪役令嬢はハッピーエンドを望んでいる〜幽霊になった天然ヒロインとシスコン兄がいるのは想定外です〜

椿谷あずる

文字の大きさ
上 下
24 / 29

24.恋バナ少女と憂鬱な空

しおりを挟む
 
「さて今年もそろそろ『夜光祭』の季節です」

 それは教師の一言から始まった。

 夜光祭。
 それは年に一度、この学園で行われるダンスパーティ。
 男女がペアになるのはもちろん、一番輝いたペアには、何でも願いが叶うと噂の『夜光のティアラ』が贈呈される。物欲的にも名誉的にも憧れ的にも欠かせないイベント。

「ねえ貴女は誰と組む?」
「そうね私は……」
「あのティアラって本当に何でも叶うらしいわよ」
「ルドルフさん、ペアは決まってるかしら」
「あっ待って。私もそれ知りたいわ」

 放課後になると早速、話題は夜光祭のことで持ちきりになった。誰とペアを組むかとか、誰が一番になりそうかとか。
 とにかく男子生徒も女子生徒も、色々な思惑から相手の出方を窺っているようだった。

 そしてここにもその熱に当てられた少女が一人。

「エーレナさんっ」
「なに?」
「エレナさんは夜光祭、誰とペアを組むんですか?」

 突然席にやって来たかと思うと、フィーネはまるで恋バナでも楽しむ少女のように、そう私に訊ねた。いっそ清々しいくらい呑気な笑顔。

「知りたいの?」
「知りたいです!」
「知っても楽しくないわよ」
「そんな事ないです! エレナさんのような素敵な方とペアが組めるなんて伝説レベルの出来事ですよ。私だったら楽しみで夜も眠れません! さあ、誰ですか?」

 キラキラと好奇心に満ち溢れた目。明らかに眩しすぎるオーラ。
 私が受け止めるには荷が重い。

「……さあね」

 そう言って私はそっと席を立った。

「どこ行くんですか?」

 フィーネが後からついてくる。
 まだ雑談に盛り上がっているクラスメイト達を横目に、教室の後ろ側の扉に手をかけた。

「飼育小屋」
「飼育小屋?」

 フィーネがはてと首を傾げた。


「そういえば前も飼育小屋に行ってましたよね。でもエレナさんって飼育委員じゃありませんよね?」
「そうね」

 私が廊下に出てからも彼女はめげることなく、私の後ろをついて歩いた。

「じゃあウサギが好きなんですか?」
「違うわ」
「そこに落とし物をしたとか?」
「それも違う」
「じゃあどうして」
「さあ、何ででしょうね」

 いくつかの質問を適当にかわし、気付いた頃には本来の目的地である飼育小屋に辿り着いていた。
 小さなウサギ達が相変わらず自由に走り回っている。
 私は目を細め、その光景を眺めた。

「……」
「エレナさん、何だかさっきから様子がおかしくありませんか?」
「気のせいよ」
「でも」

 彼女にしては珍しく、一瞬言葉を鈍らせる。
 そして少しだけ間を置いてから、それが言うべき事ではないと判断したのか、彼女は言葉を飲み込んだ。
 かわりに私の隣でちょこんと屈み、ウサギ達をそっと見つめた。

「私はウサギ、好きですよ」
「……知ってるわ」
「え?」

 フィーネは不思議そうにこちらを見上げた。

「だってこれ、貴女に少しでも近づきたくて真似した行動だから」

 分からないのも無理はない。
 なおも目を丸くする彼女を見て、私は自虐的に笑った。

「ずっと一位になりたくて、愛される存在になりたくて、でも結局、貴女のようにはなれなかった」

 風がさあっと吹き抜ける。
 風に揺られ、私の髪だけがなびいた。


「正直に言うわ。私ね、実は全く踊れないの」

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

悪役令嬢は天然

西楓
恋愛
死んだと思ったら乙女ゲームの悪役令嬢に転生⁉︎転生したがゲームの存在を知らず天然に振る舞う悪役令嬢に対し、ゲームだと知っているヒロインは…

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

処理中です...