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23.人気者のお悩み相談室
しおりを挟むそして翌日。
いつもと何も変わらない一日が始まろうとしている。
いや、私は違う。だってテストで一位を取ったから。
今日こそは羨望の眼差しで、みんなに愛される存在になるはずだ。
はずだったのだ。
「おはよう、ルドルフさん」
「おはよう」
「おはよう、ルドルフ」
「ああ、おはよう」
なんだろう、この最近見慣れた光景は。
「今日もいいお天気ね」
「……そうだね、今日は温かくなりそうだ」
「休日は何をされているの?」
「読書とか」
「まあ、それであんなに成績が良いのですね」
「……たまたまだよ」
きゃっきゃうふふと、花が咲いたようにクラスメイト達が明るく盛り上がる。昨日同様、今日もまたルドルフの周りには生徒達が集まっていた。なぜ?
「どうも昨日の調合実習での活躍が影響して、またお兄様、人気者になっちゃったみたいですね」
私の心の疑問に答えるように、そう言ってひょっこりと姿を現したのはフィーネだった。
「まあ、あの状況で咄嗟にあれだけの判断が出来ましたし」
「……」
「皆さんの注目を浴びるのも仕方ありませんよね……ってエレナさん?」
フィーネの顔が覗き込む。
「大丈夫ですか?」
「ああ、うん……大丈夫」
私は軽く頷いた。
「ちょっと驚いただけだから」
私はもう一度ルドルフの方に視線を向けた。
相変わらず、彼の周りは賑やかで、私に気付く者など一人もいない。
もしもし、テストで一位を取った人間はここにいますよ。……なんて言葉は当然言えるはずもなかった。
「まさかこんな事になるなんてね」
私の華々しい一位の記録が、アクシデントの活躍に上書きされるなんて。
しかもその活躍、自分は気を失って倒れていた為にどれほど凄かったのかも理解することが出来ない。
「ちょっと予想外だったわ」
悔しさとやるせ無さを込めながら、私は俯いて小さくため息をこぼした。
「仕方ない、私は地道に頑張りま……」
「あれ?」
「どうしたの、フィーネ」
突然の彼女からの驚いたような声に、私は顔を上げた。
「お兄様、こっちに来ます」
「は?」
何故。
見ると確かに彼は少女達の会話を終わらせ、私の方へと来るではないか。
そうしてルドルフは私の席の前で立ち止まった。
「やあエレナ」
「何?」
「君に話があったんだよね」
「……私は無いわよ?」
これで会話は終了だ。
しかし彼は諦めなかった。
「そう言わずに。君がこっちを睨んでるって口実で会話を抜け出してきたんだから」
「何してくれてるの?」
なんて厄介な。
折角、テストで一位になってクラス内の好感度を上げようとしているのに。今、人気急上昇中のルドルフにそんな事してたとなれば、みんなの私を見る目は逆に冷たくなる可能性が高い。
「出来れば会話するフリをして、このままここにいさせて欲しい」
「嫌よ。戻って、そして訂正して。私が睨んでたのは勘違いだったって伝えて」
「でもこっちを見てたのは確かだろ?」
まさかこの男、気付いてたのか。
誰も私の存在なんか気にしてないと思ってたのに。
「どうせあらかた、僕が好かれているのが気に入らなかったってところかな」
「そ、それは」
「なるほど、そういうことでしたか!」
関心したように言葉を漏らしたのはフィーネだった。
「それでエレナさんの様子がおかしかったんですね」
「あ、えっとフィーネ、それは違っ」
これは恥ずかしい。
せっかくクールに決めようとしていたのに、彼のたった一言で一生懸命取り繕った何かが見事に崩れ去ろうとしている。
「気にすることはない。魅力的な人間に視線が向いてしまうのは当然のことだからね」
おのれルドルフ、そうじゃない。
「ふーんでも」
フィーネがぽそりと呟いた。
「そう言ったら、そこに気付くお兄様も意外とエレナさんのこと見てるって話になるのかな?」
「!?」
「!?」
「……違うな。僕が見てたのはフィーネだよ」
どこかで聞いたような台詞だ。
「うーん……ま、それもそうですね!」
フィーネがぽんと手を合わせる。
そうこうしているうちに授業開始のチャイムが鳴り、私達の会話はお開きとなった。
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