ヒロイン不在の悪役令嬢はハッピーエンドを望んでいる〜幽霊になった天然ヒロインとシスコン兄がいるのは想定外です〜

椿谷あずる

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21.背後に注意

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 ルドルフがみんなに囲まれている。
 何だかんだと声をかけられ、興味が無いないであろう話に強制参加させられている。こうなったのは恐らく一部私のせい。
 出来ることなら今は話しかけたくないなぁ。

 もちろん私がそんな事を考えているなど、彼は知るはずもない。

「やあ、ルドルフ」

 レオンはそう言って、みんなの輪に入り込むようにルドルフに声をかけていた。

「ああ」

 対するルドルフの短い返事。機嫌がよくないのがはっきり分かる。また余計な人が増えたとでもいうように、彼は重々しく顔をあげた。

「何かな」
「お礼を言いたくて」
「それならさっき聞いたじゃないか」
「俺じゃないよ」

 そこでレオンがちらりと私の顔を伺う。
 やはり出番は来てしまった。

「エレナがだよ」
「あ……ありがとう」

 私はぎこちなく一歩前へと躍り出ると、月並みな感謝の言葉を告げた。

「おかげで助かったわ」
「君ね」

 ルドルフの突き刺さるような冷ややかな視線。
 これは確実に怒っている。
 私はすぐさま頭を下げた。

「ごめんなさい!」
「……」
「……」

 不気味な沈黙。

「二人とも大丈夫?」

 レオンが不思議そうに訊ねた。 
 
「……私、きちんと聞いていたのに。麻痺の蔦花は刻む回数が大事って。それなのにこんなトラブル起こして貴方に迷惑までかけて」

 変な汗が流れる。
 まだ顔を上げる事が出来ない。
 だってまだルドルフが怒っているような気がするのだ。 

「エレナ、だからそれは俺のミスで」

 レオンが慌ててフォローに入る。
 でもそんなの関係ない。

「本当にごめんなさい」

 私は再度謝罪した。

「いや、ルドルフ。それなら俺がそもそもの原因で」
「さっきから何を言ってるの?」
「えっ」

 何をってだからそれは。
 私はゆっくり顔を上げた。

「そんなの僕にはどうでもよくてさ」

 冷たい声色。
 これならいつものシスコンモードの方がマシだ。
 フィーネに似た整った顔立ちも相まって、真面目な表情になると恐ろしいほど緊張感が増す。

「君はもっと周りを見た方がいい」

 そう言って彼はゆっくりと人差し指をこちらに向けた。
 私に向けてじゃない。私の後ろに向けてだ。

「ん?」

 レオンが振り向く。
 私も合わせて体を捻る。

 なるほど、これはやっぱり私が悪い。

「この意味、分かるかな?」

 ええ、とっても。

 それが見えているのは私とルドルフだけ。
 そこには、悲し気に顔を覆っているフィーネの姿があった。

「本当に、ごめんなさい」
「うん、それでよろしい」

 何も見えないレオンは、ただ不思議そうに首を捻るのみだった。




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