ヒロイン不在の悪役令嬢はハッピーエンドを望んでいる〜幽霊になった天然ヒロインとシスコン兄がいるのは想定外です〜

椿谷あずる

文字の大きさ
上 下
21 / 29

21.背後に注意

しおりを挟む
 
 ルドルフがみんなに囲まれている。
 何だかんだと声をかけられ、興味が無いないであろう話に強制参加させられている。こうなったのは恐らく一部私のせい。
 出来ることなら今は話しかけたくないなぁ。

 もちろん私がそんな事を考えているなど、彼は知るはずもない。

「やあ、ルドルフ」

 レオンはそう言って、みんなの輪に入り込むようにルドルフに声をかけていた。

「ああ」

 対するルドルフの短い返事。機嫌がよくないのがはっきり分かる。また余計な人が増えたとでもいうように、彼は重々しく顔をあげた。

「何かな」
「お礼を言いたくて」
「それならさっき聞いたじゃないか」
「俺じゃないよ」

 そこでレオンがちらりと私の顔を伺う。
 やはり出番は来てしまった。

「エレナがだよ」
「あ……ありがとう」

 私はぎこちなく一歩前へと躍り出ると、月並みな感謝の言葉を告げた。

「おかげで助かったわ」
「君ね」

 ルドルフの突き刺さるような冷ややかな視線。
 これは確実に怒っている。
 私はすぐさま頭を下げた。

「ごめんなさい!」
「……」
「……」

 不気味な沈黙。

「二人とも大丈夫?」

 レオンが不思議そうに訊ねた。 
 
「……私、きちんと聞いていたのに。麻痺の蔦花は刻む回数が大事って。それなのにこんなトラブル起こして貴方に迷惑までかけて」

 変な汗が流れる。
 まだ顔を上げる事が出来ない。
 だってまだルドルフが怒っているような気がするのだ。 

「エレナ、だからそれは俺のミスで」

 レオンが慌ててフォローに入る。
 でもそんなの関係ない。

「本当にごめんなさい」

 私は再度謝罪した。

「いや、ルドルフ。それなら俺がそもそもの原因で」
「さっきから何を言ってるの?」
「えっ」

 何をってだからそれは。
 私はゆっくり顔を上げた。

「そんなの僕にはどうでもよくてさ」

 冷たい声色。
 これならいつものシスコンモードの方がマシだ。
 フィーネに似た整った顔立ちも相まって、真面目な表情になると恐ろしいほど緊張感が増す。

「君はもっと周りを見た方がいい」

 そう言って彼はゆっくりと人差し指をこちらに向けた。
 私に向けてじゃない。私の後ろに向けてだ。

「ん?」

 レオンが振り向く。
 私も合わせて体を捻る。

 なるほど、これはやっぱり私が悪い。

「この意味、分かるかな?」

 ええ、とっても。

 それが見えているのは私とルドルフだけ。
 そこには、悲し気に顔を覆っているフィーネの姿があった。

「本当に、ごめんなさい」
「うん、それでよろしい」

 何も見えないレオンは、ただ不思議そうに首を捻るのみだった。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

悪役令嬢は天然

西楓
恋愛
死んだと思ったら乙女ゲームの悪役令嬢に転生⁉︎転生したがゲームの存在を知らず天然に振る舞う悪役令嬢に対し、ゲームだと知っているヒロインは…

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

処理中です...