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20.事故回避の真相
しおりを挟む人間とは実に残念な生き物で、どんなに気を張って生きてきても、ほんのちょっとのきっかけでいともたやすく崩れてしまう。
あーあ……この私がこんな単純なミスをするなんて。
『エレナさん! どうして!?』
意識の彼方でそんなフィーネの声が聞こえた気がした。
ああごめんなさい、私もそっちに行くわね。
その時はよろし……
「……って死んでない?」
私ははっと目を開けた。
おかしい。体がどこも痛くない。
「死んでないよ」
それはレオンの声だった。
彼は覗き込むように私を見つめている。
ようやく現状を把握した。私は倒れていたのだ。
「……私はレオンをかばって、爆発に巻き込まれて死んだと思ってた」
「そんな事にならなくてよかったよ。まあ、いきなり君が飛び出した時は、どうなることかと思ったけどね」
立ちあがろうとする私に手を差し伸べ、彼は苦笑いを浮かべながら答えた。
「飛び出したエレナさんの手を引いて、逆にレオンさんが爆発から守ったのよ」
何者かが、レオンの後ろからひょこりと姿を現す。
それは彼を普段から取り巻いている女子生徒の一人だった。
「咄嗟の判断、素敵でしたわ」
「ええ、本当に」
「やっぱりレオンさんは違いますわね」
一人の言葉に続くように他の少女たちも次々と褒めたたえた。
私が守られていたのか。
彼女達の言葉に何故かあまり実感が湧かなかった。
自分が彼を守るために飛び出したつもりだったからだろうか。
私がそんな事に思考を巡らせていると、彼女達の怒りが私の方へと向けられ始めた。
「エレナさんもボーっとしていないで、少しは感謝したらどう?」
「それにいつまでもくっつき過ぎ。レオンさんが迷惑してるわ」
「え、ええ、ごめんなさい」
私はそそくさと彼から距離を取った。
「いやいや、元はといえば俺が悪かったんだよ。こんな事になったのは俺の不注意だ、本当にごめん」
少女達の批判には耳を貸さず、そう言ってレオンは深々と頭を下げた。
「い、いいのよ全然。私も手伝うなんて言ってこんなトラブル引き起こしたんだもの。ツメが甘かったわ。それよりも、庇ってくれて本当にありがとう」
今度は私の方が頭を下げた。
「感謝するのは俺の方なんだけどな……」
困ったように彼は笑った。
「このままじゃ謝罪合戦になってしまいそうだ……あ、そうだ」
彼は思い出したようにポンと手のひらを叩いた。
「それなら彼に感謝した方がいい」
……彼?
「さっきの爆発が大参事になるのを食い止めてくれた張本人さ。ほら、あそこで囲まれている」
「あそこって」
私はレオンの視線の先を見つめた。
あそこは私の机だ。
「?」
彼の言葉の通り、その周りには生徒達が集まっていた。
「それってまさか」
私は恐る恐るその人込みに近づいていった。
近づくにつれ、徐々にその正体が明らかになる。
私がその姿をこの目で確認するのとほぼ同じくらいのタイミングでレオンは言った。
「ルドルフだよ」
「……」
やっぱりそうだった。
なんとなくだけど、そんな予感がしていた。
「彼が今回の立役者。あの爆発が起こった時、先生よりも早い判断で爆発事故を回避する中和薬を用意してくれたんだ。彼が居なきゃ今頃クラスメイト全員、体が麻痺して病院送りだったんじゃないかな」
「それは……素敵な判断だったわね」
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