20 / 29
20.事故回避の真相
しおりを挟む人間とは実に残念な生き物で、どんなに気を張って生きてきても、ほんのちょっとのきっかけでいともたやすく崩れてしまう。
あーあ……この私がこんな単純なミスをするなんて。
『エレナさん! どうして!?』
意識の彼方でそんなフィーネの声が聞こえた気がした。
ああごめんなさい、私もそっちに行くわね。
その時はよろし……
「……って死んでない?」
私ははっと目を開けた。
おかしい。体がどこも痛くない。
「死んでないよ」
それはレオンの声だった。
彼は覗き込むように私を見つめている。
ようやく現状を把握した。私は倒れていたのだ。
「……私はレオンをかばって、爆発に巻き込まれて死んだと思ってた」
「そんな事にならなくてよかったよ。まあ、いきなり君が飛び出した時は、どうなることかと思ったけどね」
立ちあがろうとする私に手を差し伸べ、彼は苦笑いを浮かべながら答えた。
「飛び出したエレナさんの手を引いて、逆にレオンさんが爆発から守ったのよ」
何者かが、レオンの後ろからひょこりと姿を現す。
それは彼を普段から取り巻いている女子生徒の一人だった。
「咄嗟の判断、素敵でしたわ」
「ええ、本当に」
「やっぱりレオンさんは違いますわね」
一人の言葉に続くように他の少女たちも次々と褒めたたえた。
私が守られていたのか。
彼女達の言葉に何故かあまり実感が湧かなかった。
自分が彼を守るために飛び出したつもりだったからだろうか。
私がそんな事に思考を巡らせていると、彼女達の怒りが私の方へと向けられ始めた。
「エレナさんもボーっとしていないで、少しは感謝したらどう?」
「それにいつまでもくっつき過ぎ。レオンさんが迷惑してるわ」
「え、ええ、ごめんなさい」
私はそそくさと彼から距離を取った。
「いやいや、元はといえば俺が悪かったんだよ。こんな事になったのは俺の不注意だ、本当にごめん」
少女達の批判には耳を貸さず、そう言ってレオンは深々と頭を下げた。
「い、いいのよ全然。私も手伝うなんて言ってこんなトラブル引き起こしたんだもの。ツメが甘かったわ。それよりも、庇ってくれて本当にありがとう」
今度は私の方が頭を下げた。
「感謝するのは俺の方なんだけどな……」
困ったように彼は笑った。
「このままじゃ謝罪合戦になってしまいそうだ……あ、そうだ」
彼は思い出したようにポンと手のひらを叩いた。
「それなら彼に感謝した方がいい」
……彼?
「さっきの爆発が大参事になるのを食い止めてくれた張本人さ。ほら、あそこで囲まれている」
「あそこって」
私はレオンの視線の先を見つめた。
あそこは私の机だ。
「?」
彼の言葉の通り、その周りには生徒達が集まっていた。
「それってまさか」
私は恐る恐るその人込みに近づいていった。
近づくにつれ、徐々にその正体が明らかになる。
私がその姿をこの目で確認するのとほぼ同じくらいのタイミングでレオンは言った。
「ルドルフだよ」
「……」
やっぱりそうだった。
なんとなくだけど、そんな予感がしていた。
「彼が今回の立役者。あの爆発が起こった時、先生よりも早い判断で爆発事故を回避する中和薬を用意してくれたんだ。彼が居なきゃ今頃クラスメイト全員、体が麻痺して病院送りだったんじゃないかな」
「それは……素敵な判断だったわね」
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説



婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。
サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる