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18.どっちの双子もたぶん変
しおりを挟む授業開始のチャイムが鳴る。
軽く睡眠を取ったおかげで体調も良くなってきた私は、次の授業から復帰することに決めた。
次の授業は魔法薬学の調合実習。
とはいっても中身は簡単な傷薬など些細なもので、蘇生薬のような禁忌に触れる薬について学ぶことはない……はずなのだけれど。
「これをああしてこうすれば、フィーネを蘇生させるための薬が……出来るか? いや、どうかな」
その禁忌を気軽に乗り越えようとする者がここに一人。
「ねえルドルフ」
「何だい?」
「貴方……」
私は彼の様子をまじまじと見つめた。
悪いことなんてしていない、それがさも当たり前であるかのように、彼の机の上には実習とは関係ない怪しい素材がごろごろと並べられている。
「いつか捕まるわよ?」
「別にいいよ」
彼はあっさりと答えた。
「フィーネが無事に生き返るなら、僕は捕まってもいい」
「冗談に聞こえないわよ」
「本気だからね」
まるでそれが世界の常識であるかのような言葉。
いや、きっとこの男の中ではそれが常識なのだ。
彼の思考に不気味さ危うさを感じたのに、どこか理解しまいそうだった私は、咄嗟に頭を振って現実に目を向けた。
「あのね、そうなった場合、フィーネには犯罪者の兄がいることになるのよ? そんなのあの子が可哀想でしょ」
それはきっとハッピーエンドとは言えないだろう。
「ああ、それは駄目だね」
どうやら納得したらしく、彼は手を軽くポンと叩いた。
「じゃあ別の手を考えるよ」
「そうしてちょうだい」
私が呆れて言うと、彼は楽しそうに机の上を片付け始めた。
随分と時間を取られてしまった。
自分の細かく刻んだ『麻痺の蔦花』を見て、私はため息をついた。
「大体、今は実習の時間なんだから、そっちを先に終わらせるのが筋ってものでしょうに……」
彼の実習の評価など知ったこっちゃ無いが、こんなことで時間を無駄に過ごすなら、もっとやるべきことがあったはずだ。
そう思っていると彼の口から思わぬ一言が返ってきた。
「終わってるよ」
「は?」
「もう、終わってる」
「終わってる?」
彼の机を見ると、そこにはいつの間にか今日の課題である麻痺の回復薬が置かれていた。あんなに遊んでいたのに。
「……どうして」
震える声で訊ねると、彼は悪びれもせず淡々と答えた。
「才能かな?」
ああ、この双子はこれだから。
凡人の域を軽々と超えていく。
「それより君の方こそ」
「?」
「君は『麻痺の蔦花』を何回刻んだか数えてた?」
「それは……」
答えられない。
ついうっかり会話に夢中で、途中から数え忘れていたのだ。
「麻痺の回復薬はその刻んだ回数で効果が変わるだろ? やり過ぎると調合した時に爆発するよ」
「えっと、そうね確か」
嫌な汗が流れた。
正直に忘れてたと言ってしまうべきだろうか。いや、さっきの会話の手前、恥ずかしいな。
「42回です」
「え?」
「42回」
それはフィーネの言葉だった。
フィーネは揺るぎない表情で謎の回数を口にしていた。
「それって」
「エレナさんが『麻痺の蔦花』刻んだ回数です」
「……数えてたの?」
「もちろん」
自信に満ちた表情で彼女は胸をトンと叩いた。
今まで静かだったのは、もしかしてこの為?
「あ……」
この場合、どんな反応をするのが正しいのだろうか。
数えていた事に感謝する?
それとも、その行動はおかしいと批判する?
「…………ありがとう?」
「どういたしまして!」
結局、6:4の判定で私は彼女に感謝を告げた。
うん、でもやっぱりおかしくないか?
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