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17.宿敵と書いてともと呼ばせない
しおりを挟むあれから何日経過しただろう。何か月も過ぎたような、一週間も過ぎていないような。でも今日ばかりは休めない。
だって今日はテストの結果発表日だから。
「エレナさん。無理するのはやめましょう」
「絶対に嫌よ」
「そんな事言って、フラフラじゃないですか」
フィーネが不安そうに私の周りを浮遊する。しかし、私が足を止める事はなかった。
だってこんなに頑張ったのだ。
フィーネがやっていた勉強量を自分はその倍のスピードで、寝る時間もご飯の時間もお茶の時間も全て犠牲にして捧げたのだ。それなのに、結果発表だけ確認しないなど言語道断。
私は這ってでも今日結果を確認する。
「結果なら明日確認でも見れますって。体壊しちゃいますよー」
「別に構わないわ」
「私が構いますってば」
どれだけ騒ごうが、幽霊の彼女に物理的な制止をすることは不可能だった。
「どうしてそんなに無理するんですか」
「だって一位を取れなくちゃ、私のことなんて誰も見てくれないじゃない」
「そんなことは……あっ!」
【一位 エレナ・ノアール】
掲示板に張り出された順位表。そこには大きくその名前が刻まれていた。
「やりましたね!」
フィーネがはしゃいだように声をあげる。
「……やったわ…………」
やったけど。
「ちょっと……休憩して、いいかしら……」
今日は地面がやけに近い。
「エレナさん!?」
そのまま私の意識は暗闇へと落ちていった。
===
「だから私は明日にしましょうって言ったのに」
次に目を覚ました時、私の体は保健室のベッドの上だった。
案の定、倒れてしまったらしい。
隣にはお怒りのフィーネの姿。彼女を心配させた事だけはよく分かる。こんな時、なんて言えばいいんだっけ。
「……えっと、ごめんね?」
言い慣れない言葉。
フィーネは疎ましそうに私を見つめた。
「もう、今回だけですからね?」
「肝に銘じておきます」
私が頭を下げると、フィーネは納得したように頷いた。
「でもま、これで君が一位になったわけだ」
それはルドルフの言葉だった。
「あら、悔しかったかしら?」
「別に。これでもうクラスメイトに絡まれないで済むかと思うと気が楽だよ」
「やっぱり迷惑してたのね」
「……まあね」
言葉に偽りはないのだろう。
いつもの余裕ある笑みの中にどことなく疲れが見えた。
「でも貴方の期待通りになるかしら」
「どういう意味だい?」
「さあ?」
私は笑って誤魔化した。
これでもフィーネの兄なのだ。一度周知された魅力はすぐにかき消せるものではない。
「……まあいいや。エレナ、次でまた二位に転落しないようにね」
「あら、貴方また懲りずに一位を狙うつもり?」
さっき散々、気が楽だと言っていたのに。
「意図せずそうなってしまう事もあるんだよ、僕の実力的に」
「……嫌な人ね」
この先もいなくならないであろうライバル。
これからも気は抜けない状況だけれど、私は不思議と口元に笑みを浮かべていた。
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