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16.見ていたから知っていた
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その日は朝からにぎやかだった。
「普段はどんなお勉強を?」
「是非私も教えてもらいたいわ」
「今度一緒にお茶でもいかが?」
教室に入るなり、少女たちの可愛らしくはしゃぐ姿が視界に入った。とある人物を中心に花が咲くような人だまりが出来ている。
「……テストの結果って、こうも人の認識を変えてしまうものなのかしらね」
話題の中心にいる人物。それはフィーネの兄、ルドルフだった。
「おはようございます、エレナさん」
「おはよう」
席につき、教科書を取り出したところで、声をかけてきたのはフィーネだった。
「今日は朝から随分と賑やかね」
「はい。どうも昨日は様子見をしていた子達が、皆さんで思い切って声を掛けたみたいです」
それはきっと抜け駆けを許さない少女特有の集団意識のようなものなのだろう。私には縁遠いものだ。
「そう、でもそれ大丈夫なの?」
「というと?」
「あの人、みんなと仲良くするタイプじゃないでしょ」
私が知ってるルドルフといえば、妹にしか興味を示さない変人だった。それがこうして、少女達の好奇の的に晒されている。まともな受け答えなど出来るとは思えなかった。
「言われてみれば……そうですね」
フィーネは少し考えるようにしてから頷いた。
「大丈夫でしょうか」
「知らないわよ。でも外見的には貴女と同じ素材が揃っていてよく見ればいい方だと思うし、多少の失敗は……ん?」
ぺらりと教科書の一ページをめくろうとした時、私はフィーネがじっとこちらを見ていることに気が付いた。
「何?」
「エレナさんって案外お兄様のこと見ていますよね」
「は?」
「見ていますよね?」
私は渋々顔をあげた。
少女は何か言いたげにこちらを見つめている。
でも、見ていたのは彼ではない。
「……違うわよ。貴女よ、貴女」
「え、私?」
フィーネは不思議そうに首を傾げた。
「貴女を見ていたら、やたら彼が視界に映りこんできたの」
本当はあまり言いたくは無かった。
こんな執着とも思えるライバル心なんて、醜い上に気持ち悪い。嫌われても仕方ないと思った。
けれど返ってきた反応は、こちらが予想していないものだった。
「へへへ、私を見ていたんですかぁ」
何故か満足気に笑っている。
「なんでそんなに嬉しそうなのよ」
「いやぁもう、だってそれなら仕方ないかなぁって」
「仕方ないで済むの? 軽蔑とかあるでしょ普通」
「ありませんよ?」
その言葉の通りフィーネの様子はとてもスッキリとしていた。
「……やっぱり貴女のことよく分からない」
私は諦めて教科書に視線を落とした。そして新たに次のページをめくる。
「ここのページの説明、分かりにくいから解説お願いしていいかしら」
「はい、喜んで!」
隣では相変わらずルドルフがチヤホヤされていた。
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