ヒロイン不在の悪役令嬢はハッピーエンドを望んでいる〜幽霊になった天然ヒロインとシスコン兄がいるのは想定外です〜

椿谷あずる

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14.誰か私に謝罪の仕方を

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 カタカタカタ。

 台車の音が廊下に響く。
 なんの皮肉か、私は一人空しく、ライバル視していた少女の遺品を運んでいた。
 あれから私が書類運びを手伝ったのは、一人だけにとどまらなかった。行く先々で教師にフィーネのノートを頼まれる。一体どこにそれだけ勉強する時間があるのかと思うほどに、彼女の品は溜まっていった。

「エ、エレナ?」

 なんだ、また依頼か。

「その荷物、一人じゃ大変じゃない?」
「レオン」

 声をかけてきたのは教師ではなかった。
 この学園の理事長の息子レオン・ウェールズ。
 容姿端麗、スポーツ万能、人当たりも良く、彼はファンが百人いると噂されるほどに周囲にも好かれていた。さしずめ男版フィーネといったところだろうか。

「手伝うよ」

 そう言って彼は、さっと崩れそうな段ボールの山から荷物をいくつか取り除いた。
 やはり彼は違う。

「ありがとう」

 そうして私達はしばらく教室まで一緒に歩いた。

「そうかこれフィーネの勉強ノートだったのか……」
「驚くわよね」
「うん、そうだね」

 レオンは首を縦に振った。
 決して私の感性がおかしいわけではなかった。レオンをもってしても、彼女の取っていた行動は脅威に映るのだ。それを聞いて、私は少しほっとした。

「きっとこれだけ努力を積み重ねていたから、あの成績に結び付いたんだろうね」
「ええ……そうね」

===

「二人ともお疲れ様」

 教室に到着するなりそう言ったのはルドルフだった。

「君の妹の荷物預かってきたよ」
「それはどうもありがとう」

 彼は珍しく丁寧に頭を下げて感謝を示した。

「らしくないわね」

 その言葉に彼の口元がにやりと緩むのが分かった。何かが怪しい。

「いやいや、これは愛する妹の大切なノートだ。このくらい感謝をするのが当然だろ?」
「……さてはこれ、本来だったら貴方の仕事だったわね?」
「どうしてそう思うんだい?」
「だって箱の中身がノートだなんて、私達一言も言ってないもの」
「なるほど。さて、どうだったかな」

 白々しい奴め。

「粗方先生たちに認識を誤認する魔法でもかけて、私を自分とすり替えたのね。最低。それがばれたら、停学じゃ済まされないわよ?」

 むやみやたらな魔法の使用はこの学園では禁止されている。
 だからこそ、私は台車を使ったっていうのに。

「別にそれでも構わないよ。その代わりに君が、フィーネに謝罪出来るんならね」
「……」
「分かっただろう。いかに一位といえど、そこに苦労はある。軽率に『二位の気持ちなんて貴女には分からない』と切り捨てられないほどにはね」

 この男、一体いつから話を聞いていたんだろう。
 いや、奴なら最初からと答えるかもしれない。

「何がしたいの」
「言っただろう? 謝罪だよ」

 私は隣をちらりと確認した。
 レオンはフィーネが見えていない。
 私がここで懺悔を始めたら、彼は私を変な風に見るだろうか。

 ……でも、まあいいか。
 歪んだ気持ちで彼女を認めないよりはずっと。

「悪かったわ……自分が一位になれないのが悔しくて、それでフィーネのこと、楽して一位になっていた能天気な女だと思って強く当たって……ごめんなさい」

 私は静かに頭を下げる。彼女が二度と目の前に現れないかもしれないと思いながら。
 それからゆっくりと顔を上げた。

「荷物、運んでくれてありがとうございました」

 そこにはフィーネの微笑みがあった。

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