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10.身を守る約束
しおりを挟む最初から嫌な予感はしていた。
「……分かったわ。友達になってあげる」
それが結局、辿り着いた結論。
「ありがとうございます、エレナさん!」
それを聞くなりフィーネは目を輝かせた。
ああ、どうして私は死んでも尚、彼女に振り回されることになるのだろう。
「その代わり、隠れてこそこそと私を監視……見守る事だけは止めなさいよね」
「勿論です」
「……それならいいの」
結局のところ、私は彼女に負けたのだと思った。
「さて、それはそうと」
「?」
「問題はもう一つあるわね」
視界の隅には、言いたいことだけ言い切って、一人部外者を装う男の姿が映った。
===
「じゃあエレナさん、また明日学校で」
夕日を透き通り、ほんのり橙色に染まって手を振る少女。
その姿に目を細めながら、私は社交辞令的な挨拶を交わした。
「ええ……またね」
「これからもうちの妹をよろしく頼むよ」
彼女の隣が定位置と言わんばかりの兄は、そう言って軽々しく笑った。
「……その代わり、きちんと約束は守ってね」
「ああ、勿論」
フィーネと友達になるために取り決めたもう一つの約束、『友達として良識の範囲内で接する事』。
私に四六時中つきまとうのではなく、学校など本来友達として接するであろう場所に限り仲良くするというものである。
じゃないと、幽霊になり時間も身分も自由になった彼女は、友達としていつでも私の周りをうろうろすることになるだろう。当然兄も付随して。そんなの気が休まらないったらない。
「僕もさすがに女性の部屋にいつも出入りするのは気が進まないからね」
「貴方にその良識があって助かったわ」
だから私はフィーネに、ルドルフが部屋に入るのは嫌だという事を盾に、この約束を強制させたのである。
実際本心は、兄だろうが妹だろうがどっちが部屋に入るのもお断りなのだけれども。
「良識? 勿論あるよ。フィーネが絡むと多少優先順位が変わるだけで」
「彼女がもし『私の為に死んで』って言えば、貴方、本当に死にそうね」
「ははっ、かもね」
「……」
この頭のおかしな兄妹から少しでも距離を取れたのは、本当に良かったように思えた。
===
「大丈夫。こんなところで負けたりなんかしない」
小さくなった二つの背中を見送りながら、私は小さく言葉を口にした。
いよいよ明日からフィーネがいなくなって初めての学校生活が始まる。
ライバルがいなくなった教室で、今度こそ私が一番の幸せを掴むのだ。
大丈夫、邪魔する者はもういない。
だって、フィーネ・ユクラシアはもう生きてはいないのだから。
さっきまで夕暮れだった空は、いつの間にか藍色に染まっていた。
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