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9.シスコンの度数が酷すぎる
しおりを挟むみすみすこのシスコン兄の話を鵜呑みにはしたくないが、信ぴょう性は確かにある。
「……ねえ」
どうしてなのかさっきから、背中を向けているフィーネの元に私はそっと歩み寄った。
「ちょっと聞きたいのだけれど」
「なっ、なんでしょうか?」
怯えた小動物のようにフィーネは体を震わせた。
さっきの威勢はどこへやら。
「さっき貴女のお兄さん、ルドルフが言った話聞いてた?」
「は、はい……聞いてました」
「そう、じゃあ訊ねるわね。彼の話は本当のことかしら? 貴女、私が友達になることを拒否した場合、こっそり私のことを四六時中監視する気でいたのかしら?」
否定をして欲しかった。
そんな変なことしないですよって、いつものように可憐な笑みで何事も無かったかのように受け流して欲しかった。
だって私の知っているフィーネ・ユクラシアは憎くもまともな女の子だったから。
「…………か、監視なんてしませんよ」
よかった。
それでこそ、私が今までライバル視してきた少女、フィーネ・ユクラシアだ。
「そう、そうよね」
私は彼女の元を離れた。
「……ただ」
「ただ?」
「そうなったら、エレナさまの一生を草葉の陰からずっと見守ろうって誓うだけで……」
「……」
変わらない。
なあんにも変わらない。
監視だろうか草葉の陰だろうが、やる事は実質ルドルフの言ったプライベート含む永久監視。
本人もうっすらとそう思っているのか、どうもさっきから私と目を合わせない。
「ね、言った通りだっただろ?」
「ルドルフ」
「独り言独り言。でも僕が君の立場なら、友達だろうが永久監視だろうが、どちらでも即OK出すのにな。だって結局はフィーネと一緒にいれるんだよ?」
それはルドルフが針の振り切れたシスコンだからだ。
私と同系列に並べて貰っては困る。
「まーでも今回、君の返答次第によっちゃ僕にも一つだけ問題が発生するなあ」
「……一応聞くわ。それは何?」
本来ならルドルフの問題などどうでもいい事だった。けれど、今回に限っては耳に入れておいた方がいいような気がした。たぶん。
「フィーネがもし君と友達になることを拒まれて、君の人生をこっそり見守るプランに変更になったとするだろう?」
「ええ」
そんなのは死んでもごめんだけど。
「するとだ、当然フィーネと一心同体である僕は、彼女同様、君のことを永久監視しなきゃいけなくなる」
そんなさらりと。
兄妹セットのストーカーとか容量一杯、お腹一杯である。
「僕とフィーネの間に君が一生付いてくるなんて、そんなの迷惑だろ?」
「迷惑ね」
ルドルフの立場からじゃない。
私の立場から見て迷惑なのだ。
これはプロポーズじゃない。最悪な拷問だ。あとは実行に移すだけの。
この男が本当にやる気なら、それは始まってしまう。
「ルドルフ、貴方」
「ん?」
「本気でそんな馬鹿なことする覚悟あるの?」
「どう思う?」
「…………」
やりかねない。
この男なら、やりかねない。
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