ヒロイン不在の悪役令嬢はハッピーエンドを望んでいる〜幽霊になった天然ヒロインとシスコン兄がいるのは想定外です〜

椿谷あずる

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7.これぞ人生のプロポーズ!!!

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 突如申しだされるお友達申請。
 この私と友達に? 私に近づくために一生懸命頑張って?

「どう、でしょうか、エレナさん……?」

 ほんのりと頬を染める美少女。これで落ちない男はいないだろう。
 ああ、なんていじらしく羨ましい。

「そうね」

 これまでの沢山の悪行が蘇る。
 決して誰にも負けないように。だって、周りはみんな敵だと思ってたから。
 それなのに、それなのに……。

「い――」

 ならば私も答えねばなるまい。
 悩む必要なんかない。私の答えは最初から決まっている。
 私の答えは。

「嫌よ」
「えっ」

 彼女から視線を外して外を見る。窓ガラスに私の顔が映った。

「何度も言わせないで。嫌よ」

 ああ、なんて醜い顔。
 可愛げのないつり目。全てを威嚇するような赤い瞳。

「自分が死んで同情して貰えるとでも思った? お生憎様。知ってるでしょうけど、私はそんな事で情が芽生えるほど優しい人間ではないの」

 私が散々ライバル視してきた、蹴落としてきた相手。
 今までそんな接し方しかしてこなかったのに、生死の歯車が一つ回っただけで急に仲良くするなんて、そんなの出来るはずがない。

「そう、ですか」
「……」

 悲しそうな声。
 私が悪い訳じゃない。私のせいじゃ。

「だから言ったろ。彼女は絶対断るって」

 フィーネに優しく寄り添うように、ルドルフは呟いた。

「当然でしょ」

 この男に想定されていたのは癪だけど、事実であることには変わりない。

「分かったら、この家を出て行って貰えるかしら。貴女の場所はここにはないの」
「だってさ」

 ルドルフは肩をすくめ、少し屈んで少女を覗き込む。

「帰ろうか」

 まるで幼い子供をなだめるような声。私はそれを黙って見つめた。

 帰ればいいのだ。
 そして私のことなんて、嫌な思い出として過去に葬り去ってしまえばいい。

「か」

 やがて少女の小さな口がゆっくりと開く。

「帰らない」

 ん?

「帰らないです」

 んん?

 帰らない。
 それはつまり、この場を離れる気が無いってことになるわけで……冗談でしょ? この空気感でそれ言える?

「ちょ、ちょっと、フィーネさん。今の私の言葉聞いてた?」
「勿論です!」

 食い気味にフィーネは答えた。

「『自分が死んで同情して貰えるとでも思った? お生憎様。知ってるでしょうけど、私はそんな事で情が芽生えるほど優しい人間ではないの』」
「!?」

 それは間違いなく、私がさっき言った言葉だった。

「フィーネさん、今の言葉って」
「はい、ちゃんと聞いてました」
「いや、そうじゃなくって」
「ええ、そう、そうなのです。全てはエレナさんの仰る通り!」
「えっ」

 私の動揺など遥か彼方にスキップして、目の前の美少女は声高らかに叫んだ。

「私が同情して貰えるなんておこがましい。それはもう、ぼっこぼこのべっきべきに非難されて当然なのです!」
「え、えぇ……」

 確かに私はそのつもりで言ったけど、それを改めて自分で言うだろうか、普通。

「ふふっ。勿論分かっていますわ」

 フィーネはそう言いながら、こちらに向けて微笑んだ。
 そして。

「お兄様っ!」

 今度はくるりと体を兄ルドルフの方へと翻す。

「なんだい」

 半ば狂気のような一部始終を見ていたにも関わらず、彼はなんて事ない様子で言葉を返した。

「見ていただけました? この誰に対しても飾らない厳しい態度、その仕草、その口調。全てにおいてパーフェクト!」
「うん」
「これです、これこそが私が求めていたもの。これが私の理想とする女性、エレナ・ノアール様なのです!」

「…………はいぃ?」
 
 何を言っているのかさっぱり分からなかった。
 分かるのは、さっきまでしおらしく儚げで今にも消えてしまいそうだったはずの薄幸の美少女が、誕生日プレゼントを前にした子供のようにキラキラと瞳を輝かせていることだけ。
 でもほんと、どうしてそうなった。

「エレナさん!」
「な、何よ」

 辛うじて威厳は保ったままに、私は彼女に向かい合う。そんな私を見つめ、フィーネは潤んだ瞳で言った。

「私としたことが、お友達などという対等な関係を望んでしまうなんて、本当にごめんなさい。前言撤回させて下さい」
「そっ、そう」

 ならば話はここで終わりか。

「なので、改めて」

 ああ違う。まだ話は続いていた。

「友達、ではなく人生のお手伝い……いいえ、見守り手にさせてください!」
「…………はい?」

 友達ではなく、人生の見守り手? ……何それ。

「この先、エレナさんの人生をずっとずっとずーっと見守っていたいんです!」
「………………」
「ね。うちの妹、やっぱり趣味悪いだろ?」

「いかがでしょうか」

 いかがも何も。

 突然告げられる激重発言。
 一見すればまるでプロポーズのようにも取れるその発言に、私は言葉を失った。
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