ヒロイン不在の悪役令嬢はハッピーエンドを望んでいる〜幽霊になった天然ヒロインとシスコン兄がいるのは想定外です〜

椿谷あずる

文字の大きさ
上 下
3 / 29

3.疑問質問お任せください。答えはいつもお部屋の中に。

しおりを挟む
 
 物が散乱して荒れた部屋。
 私の名誉の為に宣言するが、決して私が普段から部屋を汚くしている訳では無い。私が寝てから彼女が歌っていた間、さっきの今でこうなったのだ。

「この部屋の惨状は何かしら?」

 そんな私の問いかけに、フィーネは黄金色の瞳をくりんと丸くさせた。それから、二度瞬きをしてこう言った。

「たっ」
「た?」
「大変、お部屋が荒らされているわ!」
「はあっ!? ちょっ……」

 私は一瞬思考が止まった。
 部屋が荒らされている。
 それはそれで間違いないのだが、まさかその原因だと思っていた張本人にそんな肩透かしを喰らうとは。

「お掃除しなきゃ!」
「待って、待って。待ちなさい!」

 私は声を張り上げて、勝手に意気込んでいるフィーネを制止した。

「?」

 フィーネは不思議そうに首を傾げた。

「掃除しようにもその体じゃ、ちりとりはおろか何も掴めないでしょ?」
「あっ、そうか」

 今気づきましたと言わんばかりに、彼女はポンと手のひらを叩く。駄目だ、もう疲れてきた。

「それに」

 私は部屋を見回した。

「これは貴女が原因なんじゃないの? 貴女が歌っている……いえ、私が眠っている間に何かしたとか」

 本当は相手の肩を揺さぶって問い詰めたかったけれどそれはやめた。
 だってもし、彼女の肩を掴んだにも関わらず、私の手がするりとすり抜けてしまったら絶叫だけでは済まないからだ。
 たぶん三日は寝込む。だって今のこの状況でさえ夢であって欲しいとまだ願っているんだから。
 
「……確かに」

 当然、その願いを彼女が知るはずもない。
 フィーネは真剣な表情で本棚から崩れ落ちた本の一つにそっと手をかざした。

「私が歌っていた時、本やペン、花瓶、他にも何か動いていたかも」

 じゃあもっと早くに気付きなさいよ。

 つっこみを入れる代わりに、私の口からは溜息が漏れていた。

「貴女いつから風の精霊になったのよ」
「……私って、風の精霊だったんですか?」
「知らないわよ。っていうか、そんな訳ないでしょ」

 ほんの皮肉のつもりが、真に受けられて返ってくる。
 やはり私は彼女が苦手だ。
 そもそも質問を質問で返さないで欲しい。

「……全く、何がなんだかさっぱり分からないわ。それともこれは悪い夢かしら」

 ふわふわと掴みどころのない少女。
 ああ、どうして神様はこんな子に美貌も頭脳も美しい心も人気も何もかも与えたんだろう。
 こっちが嫌がらせをしても、嫌味を交えて褒めたたえても、風とやり取りしてるみたいに、ふわりするりとかわされる。

 そう思い悩んでいた時だった。


「じゃあ僕が代わりにお答えしよう」
「…………え?」

 言葉を失っていた私の耳に、新たな声が届けられる。それはさも当然のように会話を続けた。

 私でもフィーネでもない。じゃあ一体誰なのか。

「それはいわゆる」
「なん……なの?」

 振り返ると、そこには一人の男が立っていた。

「ポルターガイストってやつじゃないかな?」
「……」

 もう一度言う。
 一人の男が立っていた。

「ああ、ポルターガイストってのはつまり……」
「違う。そっちじゃなくて」

 私が知りたいのはポルターガイストっていう言葉の意味ではない。私が知りたいのは。

「どうして貴方がここにいるの? ルドルフ」

 キラキラと輝く美しい金の髪。フィーネにも似通った整った顔立ち。黙ってそこに立っているだけならば、きっと誰しもが振り返ってしまうだろう。

 それはフィーネの双子の兄、ルドルフ・ユクラシアだった。

「どうしてって」

 彼は戯けるように笑う。フィーネそっくりの顔をこちらに向けて彼は答えた。

「彼女がここにいるんだ。当然、僕がいたっておかしくない。そうだろう? フィーネ、僕の可愛い大切な妹!」
「ふふふ、お兄様ったら」
「………………は」

 ルドルフ・ユクラシア。
 別名、残念なシスコン兄。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

悪役令嬢は天然

西楓
恋愛
死んだと思ったら乙女ゲームの悪役令嬢に転生⁉︎転生したがゲームの存在を知らず天然に振る舞う悪役令嬢に対し、ゲームだと知っているヒロインは…

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

処理中です...