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3.疑問質問お任せください。答えはいつもお部屋の中に。
しおりを挟む物が散乱して荒れた部屋。
私の名誉の為に宣言するが、決して私が普段から部屋を汚くしている訳では無い。私が寝てから彼女が歌っていた間、さっきの今でこうなったのだ。
「この部屋の惨状は何かしら?」
そんな私の問いかけに、フィーネは黄金色の瞳をくりんと丸くさせた。それから、二度瞬きをしてこう言った。
「たっ」
「た?」
「大変、お部屋が荒らされているわ!」
「はあっ!? ちょっ……」
私は一瞬思考が止まった。
部屋が荒らされている。
それはそれで間違いないのだが、まさかその原因だと思っていた張本人にそんな肩透かしを喰らうとは。
「お掃除しなきゃ!」
「待って、待って。待ちなさい!」
私は声を張り上げて、勝手に意気込んでいるフィーネを制止した。
「?」
フィーネは不思議そうに首を傾げた。
「掃除しようにもその体じゃ、ちりとりはおろか何も掴めないでしょ?」
「あっ、そうか」
今気づきましたと言わんばかりに、彼女はポンと手のひらを叩く。駄目だ、もう疲れてきた。
「それに」
私は部屋を見回した。
「これは貴女が原因なんじゃないの? 貴女が歌っている……いえ、私が眠っている間に何かしたとか」
本当は相手の肩を揺さぶって問い詰めたかったけれどそれはやめた。
だってもし、彼女の肩を掴んだにも関わらず、私の手がするりとすり抜けてしまったら絶叫だけでは済まないからだ。
たぶん三日は寝込む。だって今のこの状況でさえ夢であって欲しいとまだ願っているんだから。
「……確かに」
当然、その願いを彼女が知るはずもない。
フィーネは真剣な表情で本棚から崩れ落ちた本の一つにそっと手をかざした。
「私が歌っていた時、本やペン、花瓶、他にも何か動いていたかも」
じゃあもっと早くに気付きなさいよ。
つっこみを入れる代わりに、私の口からは溜息が漏れていた。
「貴女いつから風の精霊になったのよ」
「……私って、風の精霊だったんですか?」
「知らないわよ。っていうか、そんな訳ないでしょ」
ほんの皮肉のつもりが、真に受けられて返ってくる。
やはり私は彼女が苦手だ。
そもそも質問を質問で返さないで欲しい。
「……全く、何がなんだかさっぱり分からないわ。それともこれは悪い夢かしら」
ふわふわと掴みどころのない少女。
ああ、どうして神様はこんな子に美貌も頭脳も美しい心も人気も何もかも与えたんだろう。
こっちが嫌がらせをしても、嫌味を交えて褒めたたえても、風とやり取りしてるみたいに、ふわりするりとかわされる。
そう思い悩んでいた時だった。
「じゃあ僕が代わりにお答えしよう」
「…………え?」
言葉を失っていた私の耳に、新たな声が届けられる。それはさも当然のように会話を続けた。
私でもフィーネでもない。じゃあ一体誰なのか。
「それはいわゆる」
「なん……なの?」
振り返ると、そこには一人の男が立っていた。
「ポルターガイストってやつじゃないかな?」
「……」
もう一度言う。
一人の男が立っていた。
「ああ、ポルターガイストってのはつまり……」
「違う。そっちじゃなくて」
私が知りたいのはポルターガイストっていう言葉の意味ではない。私が知りたいのは。
「どうして貴方がここにいるの? ルドルフ」
キラキラと輝く美しい金の髪。フィーネにも似通った整った顔立ち。黙ってそこに立っているだけならば、きっと誰しもが振り返ってしまうだろう。
それはフィーネの双子の兄、ルドルフ・ユクラシアだった。
「どうしてって」
彼は戯けるように笑う。フィーネそっくりの顔をこちらに向けて彼は答えた。
「彼女がここにいるんだ。当然、僕がいたっておかしくない。そうだろう? フィーネ、僕の可愛い大切な妹!」
「ふふふ、お兄様ったら」
「………………は」
ルドルフ・ユクラシア。
別名、残念なシスコン兄。
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