上 下
11 / 30

11.ドキドキ二人の吊り橋効果大作戦

しおりを挟む
 
「レクター様ぁ」

 響き渡る甘い声。
 それは勿論、本日の主役ことエリーナだった。

「お会いしたかったですわ」

 すっかり気取って挨拶をするエリーナ。
 その姿は私やレクター、ジュネとネインから見ると明らかに幼い。

 相変わらず可愛いなあ。

「お嬢様」
「何かしら」
「エリーナ様を温かい目で見るのも勝手ですけど、今日は目的があることをお忘れなく」
「そ、そうだったわね」

 危うくいつものペースになりそうだった私は、首を振って気持ちを引き締めた。

「任せて、今から作戦開始よ。今日はなんとしてもレクターにエリーナを見惚れさせる。ジュネ、ネインさん、協力よろしくね」
「……はい」
「お嬢様が、そう言うのであれば」
「?」

 今日は妙に二人のノリが悪い。
 その様子に疑問を感じながら、私はレクター達の元へと駆け寄った。

「僕、やっぱりやりたく無いんだけど」
「我慢するんだ、弟よ。私も気持ちは同じさ」

===

 子供達が二人の周りに集まっている。

「どう、二人とも順調?」
「ああ」
「勿論ですわ!」

 レクターとエリーナの二人は、子供達に一人ずつお菓子を配っている最中だった。
 彼らは皆、孤児院の子供達である。

 今日は慈善事業の一環でもある孤児院訪問の日だった。

「レクター様は孤児院の子達にも優しいんですのね」

 そう言ってエリーナがうっとりとレクターを見つめる。
 事前に話を聞いていた通り、エリーナはレクターに好意があるようだ。
 後はこちらをなんとかするだけ。

「あら、私としたことがいけないわ」
「どうしたんだい、セイラ?」
「お菓子の配分を間違えて、手持ちのお菓子を切らしそう」

 題して、お菓子切らしちゃった作戦。
 私のミスでお菓子を切らし、追加分を馬車に取りに行っている隙に、二人が急接近する作戦だ。
 問題は……。

「え? じゃあ俺の分を君に譲っ……」

 彼が妙に親切な事。
 早速彼は、自分のお菓子を私に渡して、自分が馬車へと向かおうとしている。

「それは駄目」

 だから私は即、彼の申し出を却下した。

「これは私の準備ミス。責任を持って私が取りに行きます。ああ、私はなんて目論見の甘い人間なのかしら。駄目ね、これじゃ。全然駄目すぎるわ」
「何もそんなに自分を卑下しなくても」
「ううん、これが事実よ。エリーナちゃんはきちんとその辺の調整が上手で流石だわ」
「当然ですわ、セイラ様」
「それじゃレクター、エリーナちゃんとよろしくね」

 そうして私は急ぎ馬車止まっている孤児院の裏手へとかけていった。

 うんうん。
 これで少しは、彼女の評価が上がって私の評価が下がっただろう。一石二鳥だ。

「ばっちり」
「ですかね」

 裏手ではジュネがお水を持って立っていた。

「ありがとう」

 それを手に取り一気に飲み干す。

「それじゃ次は作戦第二弾。急に悪い奴が現れて、レクターが撃退。題してドキドキ二人の吊り橋効果大作戦よ」

 作戦は一つじゃない。
 何重にも張り巡らせてこそだ。

「……本当にやるんですか」
「勿論よ、ネインさん」
「諦めなさい、ネイン。お嬢様は元より、こういうお方なの」
「……はあ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした

みゅー
恋愛
婚約者のエーリクと共に招待された舞踏会、公の場に二人で参加するのは初めてだったオルヘルスは、緊張しながらその場へ臨んだ。 会場に入ると前方にいた幼馴染みのアリネアと目が合った。すると、彼女は突然泣き出しそんな彼女にあろうことか婚約者のエーリクが駆け寄る。 そんな二人に注目が集まるなか、エーリクは突然オルヘルスに婚約破棄を言い渡す……。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

馬鹿王子にはもう我慢できません! 婚約破棄される前にこちらから婚約破棄を突きつけます

白桃
恋愛
子爵令嬢のメアリーの元に届けられた婚約者の第三王子ポールからの手紙。 そこには毎回毎回勝手に遊び回って自分一人が楽しんでいる報告と、メアリーを馬鹿にするような言葉が書きつられていた。 最初こそ我慢していた聖女のように優しいと誰もが口にする令嬢メアリーだったが、その堪忍袋の緒が遂に切れ、彼女は叫ぶのだった。 『あの馬鹿王子にこちらから婚約破棄を突きつけてさしあげますわ!!!』

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

処理中です...