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17.少女をめぐる男達の決闘〜不発編〜

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「何をしているんだ、君たち……?」

 浴室の外から苦々しくとらえる二つの目。
 元婚約者のアレンは、水に濡れた姿の私達を呆然としながら見つめていた。

「狭い浴室で男女が二人……濡れている……しかも、彼の方は半裸……」

 ぽつりぽつりと亡霊のように、見たままの状況を反芻するアレン。

「あの、えっとこれは」
「そうか、君達実はそういう関係だったのか……」
「っ」

 場の雰囲気というのは不思議なもので、別にやましいことなどしていないのに、そう言われると何か私がとてつもなく悪い事をしているように思えてしまう。
 そして意味も無く、否定の言葉を並べたくなってしまう。

 別にアレンに誤解されたって、どうだっていいはずなのに。

「ち、違うってば」

 私は身振りを駆使して大袈裟に彼の言葉を否定した。

「ああ……ああ……君がそんな女性だったとは心底がっかりだ」
「待ってよ!」
「婚約を解消したのをいいことに、君はさっさと違う男と……」
「誤解だってば!」
「言い訳は聞きたくないね」

 酷く空気が悪くなる。
 私の心も不安定に歪んでいく。

「だから!」

 不器用に声を張り上げた。
 その時だった。

「はい、ストップ」

 片手を挙げて、男が一人私たちの間に入って来る。

「ちょっとごめん、そこどいて」
「え?」
「な、なんだ?」

 勿論それはトリュスだった。

 ぽかんとしている私達を無視して、すたすたと私とアレンの隣を横切るトリュス。
 彼は悠々と浴室を出て、それから外にストックしてあった大きめのバスタオルを一枚頭にかぶった。

「あー寒かった。風邪ひくかと思った」
「人が……」
「うん?」
「人が真剣に話をしているのに何なんだ、君は?」

 ……あの温厚なアレンが珍しく怒りを露わにした。

「大体君が」

 そう言って、彼の前に躍り出る。

「僕のエイミーをたぶらかすからこういう事になったんじゃないか」
「は?」
「え?」

 たぶらかす?

「ようし、こうなったら彼女を巡って決闘を」
「いやいやだから、さっきから何言ってるんですか」
「何?」

 アレンが投げつけようとした白手袋。
 トリュスはそれをすんでのところで片手で取り押さえた。

「たぶらかすも何もこれはお嬢さんの無知が招いた事故なんですよ」
「……エイミーの、無知?」

 おやおやおや。思わぬ火の粉が飛んできたぞ。

「この姿はその無知の副産物で、決してあんたが考えているようなものじゃないよ。なあエイミー?」
「えっ、ええ」
「というか、アレンさん? そもそも何勝手に人の家に入ってるんですか。一般的な民家ですよ、ここ。エイミーも、俺とのハプニングじゃなくて、不法侵入されてるところに動揺しろよ。つっこめ、普通に」
「あ……」

 言われてみれば確かに。
 気になってアレンの方を見てみたら、彼もまた『確かに……』って顔をしていた。

「ナチュラルに泥沼の寸劇始めるから、そっちの方が驚いたよ。俺は」

 そう言って彼は、使い終わったタオルを洗濯カゴに放り投げた。

「あっ。あと一応言っておきますけど、決闘とかしませんからね、俺」

 
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