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12.あいつをぎゃふんと言わせたい

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 急に飛び込んできた新事実。
 私は耳を疑った。

 トリュスが、私の、用心棒?
 あんなに嫌そうにしてたのに?

「それでどうだ? エイミー」
「え、あの」

 上手く会話が続けられない。
 別に嫌って訳じゃない。ただ、驚いただけで。

 アレンを見ると彼も想定外だったのか、面食らったように固まっている。
 
「ははっ、またまた……そんなこと、信じる訳ないだろ……第一、質だって」

 精一杯、動揺を隠すように、彼はぽつりぽつりと呟いた。
 対するトリュスの応答は早い。

「なるほど、質を示せばいいんだな」

 えっ何、その自信。
 トリュスはその言葉を告げるや否や、何の問題も無いように店員がいるカウンターへと向かった。そして店の休憩室にあった一つのリンゴを貰い受けてきたのである。

「ちょっとそれ、どうする気?」
「ん、いや別に大した事はしない」

 そう言ってアレンの前で立ち止まる。

「アレンさんでしたっけ。ちょっと失礼、それを借りても?」
「それ?」
「その腰にぶら下げている剣です」
「あ、ああ、これかい」

 言われるまで忘れていたのだろう。
 アレンは慌てたように、自分の腰に下げている剣を抜いた。
 それはどう見ても今まで使っていたとは思えない、単に虚勢を張るだけの見せかけの剣。

「ありがとうございます、では」

 彼の目付きが一瞬にして変わった。

 彼はリンゴを放り投げる。
 ふわっとリンゴが宙に浮かんだ。
 そこからの素早い華麗な剣さばき。

 それは。ほんの数秒の出来事。

「なっ……」
「えっ?」

「これでどうでしょうね、質」

 見事、リンゴは8つの櫛切りになり、皿の上に並んだ。

「……いいだろう」

 アレンは渋々、首を縦に振った。
 そう答える他ない。
 だってこんな技術、私もアレンも目にしたことがないのだから。

「じゃあ認めて貰ったついでに、彼女の用心棒として俺から一つ話が」
「……何かな?」
「今日は彼女の体調が優れないので、さっきのお話に関しては、また後日ということで」
「ああ…………分かったよ」

 彼はあっさり了承すると、ふらっとこの場を立ち去っていった。


「ふう」

 彼の背中が遠くなるのを確認し、ようやく私も肩が軽くなった。
 隣を見る。
 トリュスがお店の人にリンゴ代を支払っていた。

「一体どういう風の吹き回し? 用心棒、やる気なかったでしょ」
「まあ」

 彼は単調に頷いた。

「でもなんか、俺が婚約者じゃないって言ったせいで、ちょっと面倒な空気になったから」
「気にしてたの?」
「ああ一応」

 意外だった。
 あの時は責めたけど、普通いきなり婚約者って言われたら断るのが普通なのに。

「それと」
「それと?」
「話聞いてて、嫌なやつだなぁと思って」
「……」

 そう思っていたのは私だけではなかったのか。
 今まで、定められた婚約者として、周りから素晴らしい男性だとかなんとか持て囃されていたから。私がきっと変なんだって、言葉に出来ずずっと押し込めていたけど、そうか、そう思っていいんだ。

「やっぱりそう、そうなのね」
「そうだよ」

 今までひた隠しにしていた感情が、ようやく誰かに認められたような気がして、私は泣きそうな気持ちをぐっと堪えた。


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