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148.ご主人様にお任せで
しおりを挟む「お二人はこれからいかがなさるおつもりで?」
この空間に違和感を感じていた私達に声をかけたのは、例のお嬢様の従者ヘッセンさんだった。
無事にお嬢様と再会を果たした彼は、安心したのか表情も肌の血色も随分と良い。
「えっとそれは……」
特に返せる言葉は無かった。
言うとすれば、某お坊ちゃまに対する復讐がしたいという話になるのだが、具体的なプランも無ければ、内容が内容だけに相手を困らせるだけだと思ったのでやめた。
という訳で困った時のレイズ様。私は隣にいる彼に視線を送り助けを求めた。
「俺に振るなよ」
「そう言わずに何かお言葉を、ご主人様」
「ご主人様ってお前、普段は一つもそんな事思ってないだろ」
「いやぁ、いやぁ、そんな事はー……ありませんよ?」
「随分と弱めの『ありませんよ』だな」
ま、実際思ってないからね。
そんなこんなで、私達がいつまでもごちゃごちゃ言って話が進まなかったからだろう。レイズ様の返答を待たずして、ヘッセンさんは一人会話を続けた。
「あのですね、実は、この度お二人には大変お世話になったということで、よろしければ当家にご招待したいとお嬢様が」
思いもよらぬ申し出だ。
ふーん、ご招待か。お世話になってご招待……。
「いや、ご招待されるほどのことしてませんよ?」
うっかり流れに乗って消諾しまいそうな気持ちをギリギリで抑え、私は慌てて言葉を返した。
「私はただヘッセンさんと一緒に洞窟にやって来ただけですし、レイズ様にいたっては、ねぇ?」
「は? なんだよ」
曖昧に会話の終わりにそれとなくぼかしを入れてレイズ様に目配せする。しかし残念ながら、我々に意思疎通などという言葉は無縁のようで、レイズ様はただ不快そうな表情を浮かべていた。
いや、だってお嬢様を人質に取ったわけだし。
結果オーライとはいえ、その手法はいかがなものよ? 普通に考えたら悪人ですよ。感謝される訳がない。
「ま、ご招待という名の処罰って話なら納得ですけど」
私は自分で言って失笑した。
酷い冗談だ。
「お前、何言ってるんだよ」
レイズ様が溜息混じりに言葉を漏らす。
まだ分からないのか。
仕方ないな、これだから生粋の悪役令息様は。悪い事してるって自覚無いんだもんな。
「えっと、だからですね」
私は仕方なく、その事実を言葉として表現する作業を始めた。
「レイズ様はお嬢様を人質に取ったんですよ? そんなの悪い……」
「悪くなどありませんよ」
「そうそう、悪くなどあり……あれ、悪くない?」
悪くない。そう断言したヘッセンさんは、決して誰かに言わされている様子ではなかった。
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