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138.正体バレそうだからと力押しで来るやつは大抵雑魚
しおりを挟む「く、くくくくく……」
聞いたことも無いような、ねっとりとした陰湿な声。
私の投げたその一言で、男の顔は不気味な笑顔に歪んだ。
「やっぱりあなた、レイズ様じゃありませんね」
男から二、三歩ほど距離を取った私は、注意深く周囲の様子を観察した。
いつからこんな事になっていたのだろう。
地面がものの見事に綺麗になっていた。
さっきまで、レイズ様と共闘で倒したモンスター達が転がっていたハズなのに。
それはまるで最初から何事も起こっていなかったかのように、綺麗な土が敷き詰められていた。
「魔法で幻覚を見せられているのか、それとも変な毒でも浴びたのか」
目の前で起きた不思議現象の答えが見当たらない。
顔を覆い隠し、笑いをこらえる相手に私は苛立ちを覚えた。
「これは一体どういう仕掛けなんでしょう、宜しければ教えてくださいよ」
「いーや」
「!」
笑いを止めた男。
音はゆっくりと、覆ってた顔から手を離した。
「そんなものは知らなくて結構」
顔がはっきりと露わになる。
やはり、それは別人だった。
顔だけじゃない、体もいつの間にか変貌している。
邪悪な顔つきの悪魔のような姿。これは間違いなく――
「ちっ、モンスターじゃないですか」
人に化けたモンスター。
その姿は私とレイズ様で倒した相手より強そうで。
「お次は『どうせお前は死ぬんだからな!』とか言うんでしょ。もう、なんて王道展開! それなのによりにもよって、レイズ様がいないとか喧嘩売ってるんですかねぇ」
レイズ様に化けていたということは、本物のレイズ様もどこかに居るはずだ。
しかし見る限り、それらしい姿が何処にも無い。
「トイレとかだったら流石に怒りますからね」
「気にするな、どうせお前は死ぬんだからな!」
「あ、ほら、やっぱり言った!」
当たったけれどちっとも嬉しくない。
私は目の前のモンスターと一対一で対峙した。
「私一人でなんとかするなんて無理な話……っと!」
私は体を大きく後ろにそらした。
「くくく、逃げ足は速いんだな」
相手の爪先が私の喉元をかすめる。
ピリリとした空気が肌に触れた。
全く冗談じゃない。
「いきなりファンタジーなバトル展開になるんじゃないっての」
「ファンタジーなバトル? なんだそれは?」
二撃、三撃。
長い爪から繰り出される攻撃を、私はギリギリのところでかわした。
あーイライラする。体力の無駄消費。非戦闘員を舐めるなよ。
「終わりだ」
「ああもう、仕方ない!!」
相手の攻撃が突くように真っ直ぐに伸びる。
私は声をあげた。
「いでよ、私の高級家具達!」
次々と現れるベッドやタンス達。
それらはあっという間にヤツの上へと降り注いだ。
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