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136.見よ、これが恋愛小説だ!
しおりを挟む恋愛要素とまで言ってしまった相手の正体が、レイズ様だったらあなたはどうする?
私はもれなく、死ぬ。
「レイズ様、これを」
「なんだこれは」
「遺書です」
「しまえ」
あっさりと意思は否定され、遺書は行き場を失った。
事態は最悪。
これが物語の1ページなら、即刻非公開にしてお蔵入りにするし、やり直せるなら第一話のあたりからやり直したい。
「もうやだ、帰る」
私はふてぶてしくも椅子に腰かけるレイズ様を一目見ると、その方向とは逆へと体を向けた。
「帰るってどこに」
「お屋敷に」
「何言ってんだ」
深いため息だった。
がたりと椅子から立ちあがる音が聞こえる。
「あ、ちょっと」
背後から強引に手が伸びる。
レイズ様は私から遺書を奪い取ると、ビリビリと音を立てて引き裂いた。
「俺達、追放されてるだろ」
「……知ってますよ」
細かくなった遺書が風に飛ばされていく姿を目で追いながら、私は肩を落とした。
可能なら私も一緒に飛ばされたいものだ。
「じゃあなんで帰るなんて言ったんだよ」
隣に並んだレイズ様は雑な口調で訊ねた。
「それは」
私は視線を落とした。
言えない。
言えるわけがない。
気になっていた相手の正体がレイズ様だと知って、ちょっと意識してしまったからだなんて。
更に加えるなら、そのせいでレイズ様の顔もまともに見ることが出来ない。
「そのー……」
「なんだよ」
私は地面の砂粒に目を泳がせた。
まずい。
これは非常にまずいぞ。
返す言葉が見つからないのもさることながら、レイズ様が隣にいるだけですごくドキドキする。
私とあろう者がそれほどまでにこの男を意識しているというのか。
「俺は帰らないからな」
私が答えを返すよりも早く、レイズ様はそう言葉を口にした。
それだけじゃない。
「お前を帰すつもりもない」
そう言ってレイズ様は私の手を力強く握った。
「せっかくこうしてお前と二人になれたのに、また屋敷に戻って主人と従者の関係に戻るなんて俺は嫌だ……この意味、分かるよな?」
「……」
「……」
………………………………………………っわーーーーーーーーーーーー!
突然どうした!?
何これ一体。何展開が始まったの? どこへの忖度?
この物語、ついこの間まで財産とか陰謀とかが渦巻くクソ展開じゃなかった? 書き手でも変わったか?
「わ、わた、わた、わたしは」
冗談じゃない。こんな展開になるなんて、ほんの数十分前までは微塵も考えてなかったのに!
サクッとお屋敷に戻る方法探して、あのクソガキお坊ちゃまを一発ぎゃふんと言わせたいとか、そんな事しか考えてなかった私に突然の恋愛展開はハードルが高すぎる!
「このまま二人で一緒に暮らす、いいな?」
「あ、う、うん……はい」
同棲エンドでフィニッシュですか!
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