122 / 154
122.過去の男の記憶は頭の中からどころかこの世から消したい
しおりを挟む一瞬にして場が凍る。レイズ様もベルさんもシュタイン先輩も何も言わない。無言で私を見つめている。
そうか、そういう事なのか。被害者だと思っていた自分が、実は犯人だったのか。そんなミステリー小説みたいなオチ、誰が予想出来ただろう。少なくとも犯人である私は予想出来なかったよ。
これからどうする? とりあえず今は犯人らしく悪い笑みでも浮かべとくか? こう威圧感たっぷりに。
「ぐふふふふ。よくぞ気が付きましたね。そう、私こそが犯人で……」
「何馬鹿なこと言ってるんですか」
「あれ?」
シュタイン先輩に一言でばっさりと切り捨てられてしまった。馬鹿なこと? 折角みんなの空気を読んで悪役っぽい感じで振る舞ったのに。カッコいいポーズまで決めたのに。私、何か間違えてましたか?
「そ、それは……どういう事でしょう?」
私はそっと厨二病感満載の、片手で意味ありげに顔面を覆うポーズを解除して先輩に聞いた。わー、先輩の表情が全然変わってない。本心読めない。
「誰が貴女が犯人だなんて言ったんですか。私はただ『偽装魔法』が使われていると言っただけです」
そりゃあそうだけど。
「でも『偽装魔法』が使えるって言ったら私ぐらいなんじゃ」
「何故そんな風に思うんです。貴女くらいが使える魔法なら、他の人だって使えるはずでしょう?」
「私くらいって」
私の顔を見ると、シュタイン先輩は呆れたようにため息をついた。
「いいですか、これはルセリナさんの魔法じゃありません。フェリクス様の魔法です」
「ふぇり、くす、さま?」
私の聞き間違いだろうか。今、先輩、フェリクス様って言った? もしかしてフェリクス様ってあれ、あの私の大嫌いなクソガキ様か……?
それが何かの聞き間違いであることを切に願い、私は先輩を見つめ、それからレイズ様を見つめた。聞き間違い、なんだよね?
「なんで身に覚えがないみたいな顔してるんだよ。『あの』フェリクスだろうが。俺の弟の」
「はい、レイズ様の仰る通り、そのフェリクス様です」
「忘れてやるなよ。好かれてる癖に」
「や」
好かれてねえよ、馬鹿野郎!! なんで自分の命を狙ってくる奴に好かれなきゃいけないんだ! 私は究極のドMか。悲惨な目に合い過ぎて感性バグっちゃったか!? そんな奴さっさと忘れるよ! 封印したい過去だよ!
……よし大丈夫、私の殺意はまだ健在だ。
「レイズ様」
「なんだ」
「次それ言ったら、本気でこの仕事辞めますからね」
「はあっ?」
私は本気だ。
「さて」
今のやり取りが何事も無かったかのように手を叩くと、シュタイン先輩は再び口を開いた。
「貴女が屋敷を出て行った後、私はある一つの異変に気が付いたのです」
「異変?」
「ええ」
そう言うと、シュタイン先輩は私の手から例の誓約書を抜き取った。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。


好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
ねがえり太郎
恋愛
江島七海はごく平凡な普通のOL。取り立てて目立つ美貌でも無く、さりとて不細工でも無い。仕事もバリバリ出来るという言う訳でも無いがさりとて愚鈍と言う訳でも無い。しかし陰で彼女は『魔性の女』と噂されるようになって―――
生まれてこのかた四半世紀モテた事が無い、男性と付き合ったのも高一の二週間だけ―――という彼女にモテ期が来た、とか来ないとかそんなお話
※2018.1.27~別作として掲載していたこのお話の前日譚『太っちょのポンちゃん』も合わせて収録しました。
※本編は全年齢対象ですが『平凡~』後日談以降はR15指定内容が含まれております。
※なろうにも掲載中ですが、なろう版と少し表現を変更しています(変更のある話は★表示とします)

妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる