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120.らしく無い? そんな話。
しおりを挟む「……まあいいでしょう」
淡々として冷え切った言葉。
しばらく無言でベルさんと向き合っていたシュタイン先輩は、そう言ってベルさんから視線を外した。
「今後は一切関わることも無いでしょうし」
その表現が怖いんですが。
私は今後も可能な限り先輩を怒らせないようにしようと心に誓った。
「それよりも今は」
「ん?」
誓った矢先に先輩が今度は私の方を見つめている。あれ、私ったら早速先輩の逆鱗に触れてしまった感じですか。
不安になったのでレイズ様にアイコンタクトを送ってみた。
「制限時間の話だろ、馬鹿」
「あ」
そうだ、制限時間の話。
こっそり問題の答えを教えてくれるクラスメートのように、珍しく小声で指摘してくれたレイズ様。たまに親切な時がある。まあ、当の本人はかなり呆れた顔をしていたけど。
気を取り直して私はシュタイン先輩に疑問をぶつけた。
「先輩、制限時間って何なんですか。そもそも私、そんなものがあるなんて聞いてませんでしたけど?」
出会った日の夜だってそんな事言って無かったじゃないか。それなのに、私の不手際を責められたんじゃたまったもんじゃない。
「確かに言ってませんでしたね」
よし認めた。これで私に過失はなし。
「今回の追放には制限時間というのがあるんですよ」
「へぇそうなんですか」
今更説明されても遅いけどね。どちらかといえば、説明し忘れた先輩の責任だ。ま、フォローくらいは入れてあげるか。
うんうんと訳知り顔で頷きながら、私は先輩に言葉を返した。
「先輩、その大切な説明を私に伝えるの忘れちゃったんですね。大丈夫ですよ、失敗は誰にでもありま……」
あれ?
顔を上げると何故か先輩は笑っていた。非常に笑顔。うん? なんだこれ、嫌な予感。
「分かってますよ、ルセリナさん」
本当? 本当に分かってくれた?
「でもそこはそれ」
「ちょっ」
待った、やっぱり嫌な予感しかしない。
「ルセリナさんが最短でしっかりと任務をこなせていれば、何も問題無い話です」
で、出たーー! 謎のブラック企業理論!! どうしてそうなるの。違うでしょ、ねえ違うでしょ。そこは私の伝達ミスでした、ごめんなさいって言うところでしょ。
あーあ、結局は私が無駄な時間でベルさんの花嫁になるために奔走した話に戻ってくるわけだ。なんだろう、この腑に落ちないがっかり感。
「……ったく」
あまりの私の体たらくにレイズ様も溜息を吐いている。最悪だ。こんな事ならプライドなんて捨てて、意地でもレイズ様と追放されてりゃ良かっ……
「おいシュタイン」
「はい、なんでしょう。レイズ様」
「コイツをからかうのもそのくらいでいいだろ」
「おや」
先輩はお決まりのエセスマイルから一瞬だけ驚いた表情を見せた。というか、何? 今からかうって言った?
「別に。時間が無いって言ってるだろ」
レイズ様は、誰に向けるわけでもなく小さくそう口にした。
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