95 / 154
95.ここで回答によっては好感度が上がっていたかというとそうでもない
しおりを挟む「で、次の審査はさっき相談した通りでいいな」
そう言ってレイズ様は紅茶を一口含んだ。
勿論その紅茶は私が入れたものである。
「うん、告白審査だね。これ以上長引かせてもあれだし、これで最後になるように中央には連絡しておいたよ」
「そうか」
さらりとこのイベントの進行に介入するような発言をしたベルさん。やはり冗談じゃなく本当にこの国の重要人物なんだなあ。
「本当は審査なしにルセリナちゃんが優勝ですってことにしてもいいんだけどさ」
はははと日常会話のごとく笑いながら付け加える。
権力凄すぎだろう。
「それだとこのイベントを楽しみしているお客さんをがっかりさせちゃうからね」
なんてエンターテイナーだよ。完全にお客さんをおもてなしする立場じゃないか。
全く貴方様とは大違いだよ、ねえレイズ様。
「ところで」
ティーカップを片手で弄りながら、おもてなしの「お」も感じない男はベルさんに訊ねた。
「前から思ってたけど、どうしてお前が領主として表に出ないであの爺さんにやらせてるんだ?」
それを聞いて、ベルさんはあっさりとした口調で答える。
「そりゃ勿論、結婚する気が無いからだよ。だって一人の女性としか仲良く出来なくなるなんて俺嫌だし」
清々しいほどのクソ回答である。
「別に結婚後も、愛人でもなんでも作ればいいんじゃないのか」
「えー、奥さんがいるのにそんな酷い事出来ないよ」
……一途なんだか違うんだかよく分からないな。
「結婚しなければほら、そこは自由、フリーダムに恋愛出来るでしょ?」
「あっそ」
そっけない返事。自分で聞いたくせにあまり興味が無いのかこの人は。
「ってこの話、前にしなかったっけ?」
「忘れた」
またこの反応。
さっきの時といい、レイズ様ったらもしかしてベルさんの人間性を私にも一応伝えておこうと思ってたりする?
……あーいや、そんな訳無いか。
私の無意味な邪推の最中にもベルさんは言葉を続ける。
「花嫁を決めるっていうこのイベントさえ無くなれば、俺は晴れて自由の身になると思ったんだけどな」
なるほど、だから潰したいってあんなに言ってたのか。
テーブルに伏せるようにしてだらけているその様子は、なんだか本当に落胆しているようだった。
「今までは結婚相手が爺さんだったし一か月同棲してやっぱり無理でしたとか、愛よりもお金を選ばせるとか、そういった方法で回避出来てたんだけどね。いつか正式に花嫁が決まるかもって不安はあったよ」
そんなに結婚したくなかったとは。
じゃあ今回のこれはベルさんにとっても相当苦渋の選択だったのかもしれない。
「ごめんなさい」
このごめんなさいは割と理にかなったごめんなさいだ。
「あ、いーよいーよ」
想像以上に軽い返事だった。
「ルセリナちゃんのこと嫌って訳じゃないし」
そりゃどうも。
ベルさんのヘラッとした笑みに頭を下げる。
「それに」
「?」
何、どうした。
彼はぐっと前のめりになりレイズ様の顔を見つめた。
「ルセリナちゃんと俺が結婚したら、もっとお前が遊びに来てくれるだろ、レイズ」
……え、そうなの? 私がいるかいないかでレイズ様、そんなに変わっちゃうの?
ベルさんじゃ無いけど、私も興味深くレイズ様の反応を確認する。
「……」
レイズ様の手の動きが止まった。私達二人の顔をじっと見つめる。
まさか本当に……。
「いや、変わらないけど」
「変わらないかー」
変わらないかー。
結論、どうやら別に変わらないらしい。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。



わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
ねがえり太郎
恋愛
江島七海はごく平凡な普通のOL。取り立てて目立つ美貌でも無く、さりとて不細工でも無い。仕事もバリバリ出来るという言う訳でも無いがさりとて愚鈍と言う訳でも無い。しかし陰で彼女は『魔性の女』と噂されるようになって―――
生まれてこのかた四半世紀モテた事が無い、男性と付き合ったのも高一の二週間だけ―――という彼女にモテ期が来た、とか来ないとかそんなお話
※2018.1.27~別作として掲載していたこのお話の前日譚『太っちょのポンちゃん』も合わせて収録しました。
※本編は全年齢対象ですが『平凡~』後日談以降はR15指定内容が含まれております。
※なろうにも掲載中ですが、なろう版と少し表現を変更しています(変更のある話は★表示とします)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる