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87.褒めればいいってもんでもない
しおりを挟む「でもほら、メイドはやっぱり主人ありきのものじゃないですか」
割と広めのそのフロアに、私のカラ元気な声はよく響いた。
あとは一気に畳みかけるだけ。
「主人が参加しないと分かった今、私一人がこのイベントに参加する意味はないと思うんですよね」
「……」
一押し。
「何故なら私は貴方のメイドだから! いつまでもどこまでもレイズ様にお供しますってね」
「…………」
二押し。
「ささっ、そんな訳でこのイベントに用が無くなったのであれば、今すぐここを出発しましょう!! ご一緒に!」
そしてシュタイン先輩から臨時ボーナスとお給料を貰いましょうっと。
念には念をの三押し。
明後日の方向に視線を送り、キラキラとした表情で遠くをみつめた。
これで完璧。どこからどう見ても主人想いの健気なメイドさん爆誕だ。
「………………」
「あれ? レイズ様?」
ノリが悪いな。電池切れか? まったく反応がない。
「レイズ様ってば、一体どうし……」
若干不安になったので、レイズ様の顔を覗き込んだ。
――あらまぁ。
するとそこには、死んだような瞳が静かに光を放っていたのであった。
「あのさ」
「はい」
抑揚のない淡々とした口調。
「その心にもない言葉、言ってて気持ち悪くならないのか?」
「……なりますね」
なりますよ、そりゃ。
「じゃあやめとけよ」
「はい」
こうして私の撤退作戦は失敗に終わった。
「というわけでベル、こいつ使っていいから」
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「いやちょっと!」
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いやいや、そんなの認めませんからね。
「なんだよ」
「私の意思はどうなるんですか。大体、『使っていい』だなんて、そんな私、物じゃないんですから」
断固、抗議する。
「お前さっきと言ってる事、180度変わってんじゃねえか。主人に付き従うメイドはどこ行ったよ」
「もちろんいますよ、ここに。レイズ様に付き従って、この会場を後にするのなら一緒に後にする覚悟のあるメイドならここに」
「言ったな」
「言いましたよ」
「……よろしい」
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「希望」
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うん、それは知ってる。
「だからさ、代わりに勝者になってくれないかな。主人に付き従う優秀なメイドさんよ」
「……はっ!」
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「うっ」
あーやっぱり墓穴を掘ってしまったらしい。
正直撤回出来るならしたい。したいけど、それはそれでこの男に今以上に見下されそうだしな、それもなんか嫌だ。
こうなったら残された策は――。
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