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85.そこで私は気付いてしまった
しおりを挟む「いいよね? レイズ」
私のアイコンタクト失敗に気付いたのかは定かではないが、滑らかな会話運びでベルさんがレイズ様に確認を取る。
「んなもん俺に聞く必要もないだろ」
クソみたいに雑な返事だった。お前をこの物語の題名から抹消してやろうか。
手でパッパッとあしらうような素振りを見せたレイズ様の様子にベルさんは変わらず笑みを浮かべている。
「んじゃ、レイズもオッケーってことで」
何がオッケーだよ。全然駄目だよ、ベルさん。
多分この人、マリアさんの一件で花嫁選びから脱落になったから興味無くしてるだけだし。全く、元はといえば誰のせいでこんな目に……ん? 待てよ。
「どうしたの?」
再びベルさんと目があう。
「あ、いや」
私は目をそらし、一旦自分の思考を整理した。
もしかして、いや、もしかしなくても、レイズ様が敗退するならこれ以上、私はこのイベントに参加しなくてもいいんじゃないか?
新しい道が切り開かれたような気がした。
そもそも私がこれに参加した理由って、レイズ様が参加するからだし。多少、本来のシナリオとは違くなっちゃったけど、優勝は出来なかったってことでレイズ様は受け入れてるし、敗北エンドってことでこの国から出て行ってもよくないか?
――うん、そうだ。そうしよう!
チラッ。恐る恐るみんなの顔色を確認しながら、そっと発言する。
「話もまとまってきたことですし、私はそろそろこの辺で撤退しようかなーなんて……」
反応は……っと。よしよし、驚いてるみたいだけど、怒っている感じではないな。続けて良し。
「ほ、ほらー私ってレイズ様のメイドじゃないですか」
「普段否定してるくせに」
ぼそりと悪態が聞こえた。いや、聞こえない。聞こえませーん。
「こほん、えー、あー、私はレイズ様のメイドなので」
「……」
気を取り直してやや強引にtake2。今度はレイズ様も何も言わなかった。表情は心の底から不服そうだけど。
「レイズ様が敗退されるのであれば、勿論その下女である私も撤退するのが筋かと思うのですよね」
「……」
やっぱりレイズ様は何も言わない。でもお願いだからもう少し優しい顔でこっちを見てくれ。
「なるほど」
代わりにベルさんが深く頷いた。こっちはこっちでそんなに怒っている感じでも無い。笑ってはいないけど、いつものなんてことない雰囲気のベルさんだ。
「じゃあ今回の彼女の件は」
「じじ、次回っ、永遠の花嫁を見つけましょう!」
「えーっ、ルセリナちゃんは花嫁にならないのー?」
なーらーなーいー。
困っているのかよく分からないような、気の抜けた軽い落胆の声と共にベルさんは天を仰いだ。
うん、ごめん。本当にごめんよ、ベルさん。
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