85 / 154
85.そこで私は気付いてしまった
しおりを挟む「いいよね? レイズ」
私のアイコンタクト失敗に気付いたのかは定かではないが、滑らかな会話運びでベルさんがレイズ様に確認を取る。
「んなもん俺に聞く必要もないだろ」
クソみたいに雑な返事だった。お前をこの物語の題名から抹消してやろうか。
手でパッパッとあしらうような素振りを見せたレイズ様の様子にベルさんは変わらず笑みを浮かべている。
「んじゃ、レイズもオッケーってことで」
何がオッケーだよ。全然駄目だよ、ベルさん。
多分この人、マリアさんの一件で花嫁選びから脱落になったから興味無くしてるだけだし。全く、元はといえば誰のせいでこんな目に……ん? 待てよ。
「どうしたの?」
再びベルさんと目があう。
「あ、いや」
私は目をそらし、一旦自分の思考を整理した。
もしかして、いや、もしかしなくても、レイズ様が敗退するならこれ以上、私はこのイベントに参加しなくてもいいんじゃないか?
新しい道が切り開かれたような気がした。
そもそも私がこれに参加した理由って、レイズ様が参加するからだし。多少、本来のシナリオとは違くなっちゃったけど、優勝は出来なかったってことでレイズ様は受け入れてるし、敗北エンドってことでこの国から出て行ってもよくないか?
――うん、そうだ。そうしよう!
チラッ。恐る恐るみんなの顔色を確認しながら、そっと発言する。
「話もまとまってきたことですし、私はそろそろこの辺で撤退しようかなーなんて……」
反応は……っと。よしよし、驚いてるみたいだけど、怒っている感じではないな。続けて良し。
「ほ、ほらー私ってレイズ様のメイドじゃないですか」
「普段否定してるくせに」
ぼそりと悪態が聞こえた。いや、聞こえない。聞こえませーん。
「こほん、えー、あー、私はレイズ様のメイドなので」
「……」
気を取り直してやや強引にtake2。今度はレイズ様も何も言わなかった。表情は心の底から不服そうだけど。
「レイズ様が敗退されるのであれば、勿論その下女である私も撤退するのが筋かと思うのですよね」
「……」
やっぱりレイズ様は何も言わない。でもお願いだからもう少し優しい顔でこっちを見てくれ。
「なるほど」
代わりにベルさんが深く頷いた。こっちはこっちでそんなに怒っている感じでも無い。笑ってはいないけど、いつものなんてことない雰囲気のベルさんだ。
「じゃあ今回の彼女の件は」
「じじ、次回っ、永遠の花嫁を見つけましょう!」
「えーっ、ルセリナちゃんは花嫁にならないのー?」
なーらーなーいー。
困っているのかよく分からないような、気の抜けた軽い落胆の声と共にベルさんは天を仰いだ。
うん、ごめん。本当にごめんよ、ベルさん。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。


婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
ねがえり太郎
恋愛
江島七海はごく平凡な普通のOL。取り立てて目立つ美貌でも無く、さりとて不細工でも無い。仕事もバリバリ出来るという言う訳でも無いがさりとて愚鈍と言う訳でも無い。しかし陰で彼女は『魔性の女』と噂されるようになって―――
生まれてこのかた四半世紀モテた事が無い、男性と付き合ったのも高一の二週間だけ―――という彼女にモテ期が来た、とか来ないとかそんなお話
※2018.1.27~別作として掲載していたこのお話の前日譚『太っちょのポンちゃん』も合わせて収録しました。
※本編は全年齢対象ですが『平凡~』後日談以降はR15指定内容が含まれております。
※なろうにも掲載中ですが、なろう版と少し表現を変更しています(変更のある話は★表示とします)

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔
しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。
彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。
そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。
なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。
その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる