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78.ヒロインのような微笑み

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 とても微妙な空気のまま私達のダンスは終わった。ま、私のせいだけど。

「こういうのって本当はもっと、急接近してドキドキの展開があってもいいと思うんですけどね」
「いや、俺はお前の人間性に」
「ドキドキしました?」
「ズキズキした。頭が」
「風邪ですか?」
「頼むから何も喋るな」
「御意」

 お口にチャックっと。
 レイズ様ったら予想以上に困惑してるなあ。なんだかんだ言って根はお坊ちゃんなんだから。

「世の中にはそういう人もいますって、元気出してくださいよ」
「喋るなって言ったろ」

 でしたね失礼。

「……あの事件でロクでもない事する奴だとは思ってたけど、まさかそれに輪をかけて、本当にロクでもない奴だったなんて」

 そりゃすまんね。
 でもこの口ぶりからすると、あの事件がなければ私は普通のメイドだと思われていたらしい。まあね、レイズ様、下々のことは眼中に無かっただろうしね。

「うちの家は今までこんな奴を雇って……」
「お雇いいただきありがとうございます」
「……」

 うわっ心底うんざりな顔してるわ。

「それで、どうするんだ?」
「どうするとは?」
「この後だよ。ベルのこと捕まえに行くんだろ?」

 レイズ様がひょいと視線を送った先には問題の彼の後姿が見えた。

「捕まえるってそんな。犯罪者じゃあるまいし」

 いちいち発言が物騒なんだから。

「自分が突然置き去りにされた癖に、よくもそんな呑気に構えてられるな」
「え、だって結局なんとかなりましたし」

 ちらとレイズ様の顔を見上げた。
 嫌そうな顔。

「どうしたんですか?」
「……なんか腹立ったわ」
「何故に?」
「知るか」

 ノーヒントですか。

「はいはい、じゃーとりあえずレイズ様の言うとおりベルさんの所に行きましょうか」

 残念だけど、今は答えの出ないクイズ大会をやっている暇は無い。
 話題をパッと本筋に戻して、私はクルリと会場内を見渡した。賑わった会場は似たような背格好の人達でごちゃごちゃしている。

「そんで後は」
「ああ」

 私が言うより早く、言葉の続きを察したレイズ様は小さく頷いた。

「マリアだろ」
「正解」

 レイズ様を置き去りにしたその名前に私も小さく頷いた。

「そっちは俺がなんとかする」
「おや心強い」
「最初からどうせそのつもりだっただろう」

 まあね。
 にっこり笑顔で返した。

「ニヤニヤしてるし」
「……?」

 あれ、思ってたのと違うな。
 生み出したのはヒロインのような笑顔ではなく、ゲスい笑いだったようだ。

「ま、いいや。とにかくいつもの場所で落ち合うって事でいいな」
「はいはい、そんな感じで」

 控室前に集合っとね。
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