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44.このやり取りをするのも本当に久々で涙が出そうです。恐怖で。
しおりを挟むここはさっきの場所からちょっと離れた路地裏。
そんなところで男女が二人。これはどんな間違いがあるか分かったもんじゃないですよ、ねぇ奥さん……というのは冗談で。
「貴女は何をしているんですか?」
ご覧のように冷たい冷たい言葉を浴びせられている最中なのでした。
はいはい、分かった。聞かれたら当然答えますよ。
「何をしているってそれはですね」
「それは?」
「……色々あって、領主の花嫁になろうかと」
「はぁ~」
うわ、深いため息だなあ。気持ちは分かるけどさ。
「先輩、そんなため息だと、幸せがどんどん逃げていきますよ?」
「ルセリナさん」
「はい」
「黙ってくださいね」
「はい」
いやー怖い。爽やかスマイルを浮かべながら言われるものだから、余計に怖い。
俯いて、「ふぅ」と一呼吸置いた先輩は、それからすぐ立ち直ったかのように顔をあげた。
「追放されると出て行って丸二日」
「二日」
言われてみれば、そんなに経っていたのか。ドタバタしすぎてまだ一日くらいだと思っていた。
「馬車に乗って国外に出るだけですから、一日あれば十分と思っていたのですが」
うんうん、私もそう思ってた。
「未だに国内にいる。さて、これは一体どういうことでしょうか」
どういうことでしょう。答えはCMのあと。
「説明してください、ルセリナさん」
ふざけている場合ではないようだ。
「いやー実は、馬車が壊れまして……」
「馬車が壊れた?」
「はい、壊れました」
「あの丈夫な馬車が?」
「丈夫な馬車が」
「ははは、ご冗談を」
冗談ではない。馬車は壊れたんだ。なんせ魔力が漏れて……そうだ、あいつだ――
「本当です! 全てはあのクソガキ様いや、じゃなかったフェリクス様の仕業です」
あいつの仕込んだ爆弾が原因だ。
「貴女、今クソガキって……いえ、いいでしょう。話を続けて下さい」
「あの子がレイズ様に餞別を、それが爆発して馬車が駄目に」
そうだよ、元はと言えばアレが悪いんだよ。アレさえなきゃ、約束通り国外に出ることだって出来たのに。
「信じて下さいよ。なんなら先輩の魔法使ってもいいですから。なんでしたっけ、えっと確か『審美眼』!」
私の不正を見破った魔法。あれで痛い目にあったけど、今度はそれで救ってくれ。
「私の魔法はそういう用途に使える訳では無いのですが」
「そこをなんとか! 優しくて優秀な頼れるシュタイン先輩!」
「はぁ、本当に貴女って人は、本当に何も変わりませんね」
「二日くらいで人間変わったりしませんよ。それよりも、今回の件は本当に……」
嫌だ。アレのせいで私が悪になるとか。はっ、まさか奴めここまで計算を。おのれフェリクス。
「信じないとは言ってないでしょう。分かりました、その話は一旦保留にしましょう。私もフェリクス様には少々気になることがありますので」
「ほ、本当ですか」
よかった……。
さすが、日頃の行いが良い私は違う。持つべきものは日々の信頼だね。先輩もあのクソガキ様に注目してるってのはちょっと気になるけど。あのガキ何をやらかしたんだ? 基本、怪しまれないように猫被って相手を陥れるスタイルじゃなかったっけ。宗旨替えか?
まあいいや、私には関係無い話だ。
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