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43.それはまるでバナナの叩き売りのように……
しおりを挟む「そして君は花嫁になる。そうすれば、もう一生遊んでだって暮らせる」
さっきまでのふざけたような口調ではない。冷静で合理的な言葉。
確かにベルさんの言葉は間違っていない。
普通の人ならば、たとえ相手を追放しても、本当に追放されたかを確認する為に、国中に数ある街一つ一つを確認はしないだろう。
この街で第二の人生を歩んでも多分バレない。
「ぐぅ……」
一生、遊んで。なんて魅力的な言葉なんだ。いやーでも、でも!
「は、花嫁になれると確定した訳ではありませんし」
自信が無いわけではない。でも世の中には、自分より素晴らしい運命性と人間性を兼ね備えた子がいるのも知っている。アリスちゃんとか。
「うーん。そう来たかー」
そう来たかって。
まるでオセロかチェスでもやっているかのような口調だ。
「よし、じゃあこれでどうだ!」
「これでどうだ?」
何を出してくる気だ。王手か? チェックメイトか? 神の一手か? バナナの叩き売りみたいだな。
「ルセリナちゃんが花嫁になれるまで、パートナーとして俺が何度でも協力しよう!」
「……」
「……」
うん、なるほど。そうかそうか分かった。……でも、例え私が相手とはいえ、そういう言葉を軽々しく口にするのはいかがなものだろう。
「や、やだなあ。じゃあなんですか。私がもしずっと花嫁に選ばれなかったら、ベルさんはその間ずっと協力してくれるっていうんですか。死ぬまで、一生」
死ぬまで一生。そんな約束が出来るなら、それはまるで愛の告白だ。
「うーん……そういうことになるかもね」
「でしょう? そんな適当な言葉で私を乗せようったってそうはいか……なっ!?」
あれ、今なんて言った。
「任せて。上級市民権を持ってる俺なら、そのくらいは簡単だよ」
簡単って。ワクワクさんが工作作ってるんじゃないんだぞ。
セロハンテープとトイレットペーパーの芯をぺたり、とか言ってるんじゃないんだぞ!?
「どうかな?」
「いや、どうかなって!」
甘い、甘い言葉の誘惑。
これは夢か? 夢なのか?
本来であれば断って、予定通りレイズ様とおとなしく街を出て行くのがセオリー。だが、あの男こそ今回の話に意欲的であり、私を強制参加させた張本人。そんな奴に配慮して、自分の人生のジャックポットチャンスを無駄にしてもいいのか。
「……」
――この物語に私をさらう王子様はいない。ならば。
「……分かりました」
この選択に落ち度はない。
「いいで――」
「駄目に決まっているじゃありませんか」
「!?」
「おや、君は」
見知った口調、見知った声、見知った態度。
「せ……」
「全く、いつまでも約束を果たさないと思ったら。こんなところで油を売っているなんて」
「せ、んぱい……シュタイン先輩?」
愛想笑いの優しい雰囲気をまとったお兄さん。
それはどう見ても紛れもなく、かつての同僚、冷血執事ことシュタイン先輩ではないか。一体どうしてここに。
「先輩、本物……?」
「別にもう、私は貴女の先輩でもなんでもないんですけどね。まあいいでしょう。そうですよ、私です」
「あわ、あわわわ」
え、怖い。なんで、ここにいるの。嘘。だってここって屋敷から離れた、とある一つの街じゃないの。ベルさんだって言ってたじゃん。判断できるはずもないって。冗談だろ。
「ヒューベル様」
「うん?」
「彼女をしばらくお借りしますね」
「……どうぞ」
……私は夢でも見てるのだろうか。
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