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34.お一人様で何が悪い
しおりを挟む「あ―暇だ」
待てど暮らせどレイズ様らしき人影が通ることも無く、私はだた窓の外をぼんやりと眺める人になっていた。
恋愛の街アロマスク。恋愛の街というのは本当のようで、至る所でグループでだったり二人きりでだったり、楽しそうにしている姿が拝める。平和な街だ。治安とかどうなってるんだろ。
「お姉さん、一人なら一緒にお茶でも」
「しません」
このように誰しもが一人でいると平然と声をかけられる状況にある。そういうのが好きな人はいいかもしれないけど、私のように自分以外は基本疑ってかかりたい人間にとっては居心地の悪い街である。
だから極力話しかけられないように喫茶店の片隅で陰気なオーラを放つ私は、妖怪の類と間違えられてもおかしくない。
そんな中にも物好きはいる。
「お姉さん暇なんだよね?」
「さあ」
「さあって、さっきそう言ってたよ」
「ははっ……かもしれませんねぇ」
面倒くせえ。
レイズ様が一人か二人くらい私に声をかける人間もいるだろうといった予測は見事に的中し、このように根気よく話しかける人間も中にはいるのだ。
その場合は最終手段。
「じゃあ一緒にお茶でも」
「すみませんね。私、お金が恋愛対象なんですよ」
こう言って引かない人間はまずいない。
聞いたが最後引きつった笑顔で何事も無かったかのように立ち去るのがオチだ。
「そっかー……」
はい、おしまい。
何気に言った自分も傷つくが、発生原因の不明な突然の好意を素直に受け止めるよりはマシだ。
さらば、ちょっと軽い感じのモノ好きな男性よ。
「レイズ様来ないなー」
何となくだけど今日は戻って来ないかもしれない……宿屋でも、探すか。
よく考えたら昨日の夜だってまともに寝れなかったもんな。そう考えたら急に眠くなってきた気がする。今日は早めに休もう。
「すみませーん。お会計お願いします」
「はーい。えっと、お会計は……900,000マニーです」
「900,000……マニー?」
私が頼んだのはアイスコーヒー一杯だったはずだが?
「えっと、900マニーの間違いですかね」
「いいえ。お一人様料金になりますので900,000マニーですね」
ですねって、そんな笑顔でサラッと。お姉さんドSの素質ある。
「あの、一応聞きますがお一人様料金って……」
「あらっ? もしかしてご存じありませんか。この街は恋愛を推奨する街でして、その施策でお一人様には本来の1000倍の料金をお支払いいただくことになっているんですよ? ほらメニューの下の方にも小さく」
見えねえよ! 終わりの方とかほぼかすれてるじゃん。
「これ文字がちょっと見にくくありませんかね」
「あらそうですね。この街でお一人様なんて今までなかったから……」
おかしいだろこの街。
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