29 / 154
29.多くを語らない男はかっこいい……訳ない。言え、最初から。
しおりを挟む人生、別れなんてのは意外とあっさりしているものだ。
「もうここに用はない。さっさと出て行くぞ」
「はい」
たとえそれが結婚相手(詐欺)だったとしても。
「あら、もう行っちゃうのね」
と言いつつ玄関の扉は彼女によって開かれていた。悲しいなあ、一夜を共にした仲だってのに。
そんな戯言は相手にされず、終わりの時は過ぎていく。
彼女の前を通り過ぎ、私達は再び外へと歩き出し――
「うぉあ」
今いい感じにモノローグで締めてたんだけど。
どむっという壁に当たったような軽い衝撃がその全てをぶち壊してくれた。
「ちょっとレイズ様、何立ち止まって……」
いきなり止まると危ないでしょうに。鼻が潰れたらどうしてくれるのかと。
「忘れてた」
「は、何を。替えのパンツですか?」
「やぁね。パンツなんて次の街で新しいの買いなさいよ」
「……」
チャキ。金属が擦れるような音がした。おや、それはもしや剣。
「!? な、なーんて、冗談ですよ。やーだなぁそんな風に構えちゃって……え、待って、待って下さいよ」
「二人とも動くなよ」
「ちょ」
それ攻撃する時に見せそうなモーションに見えるんだけど。え、斬るの。本気? 冗談でしょ。
「は、やだ、何よそれ――」
ほら、メイちゃんもそう言ってますしその剣は収め……
「きゃっ」
「うぎゃ」
言葉が言葉として生まれるよりも早く、その剣はあっさりと振りぬかれた。
ルセリナ死亡、享年20歳。
チャラリ~タラララ~(自作バッドエンド音)
ああ私よ、死んでしまうとは情けない。次に生まれ変わるときは、どうかもっと豪遊できる美人でチートなお姫様でありますように。
ん……いや、待てよ。手足が動く。生きてるなこれ。
「……」
ゆっくりと目を開けた。
瞳にはメイちゃんが狼狽している姿が映った。何故か両手を広げて。
「何よ、何も無かったじゃない」
まあとりあえずこっちも無事だったようだ。
「単なる脅し? バカバカしい。どうせ私に一杯食わされて面白くなかったんでしょ。脅しなんて私には通用しな……っお母さん!?」
え、どうした!? 強気だったメイちゃんが急に慌てだしたぞ。お母さん? 後ろのお母さんがどうしたって…………お母さん!?
縛られていただけだったはずのメイちゃんのお母さんが、力なくぐったりとうなだれていた。
「お母さん!」
まさか、遂にやっちまったかレイズ様。染めちまったか、俺という名の赤い色に。
「レイズ様、こりゃあイカンですよ」
「何がだ」
「何がってそりゃあ」
「う、うん……メイ」
生きてた。ちょっと朦朧とした感じだけど、一応、命は失われていなかった。犯罪者にならなくてよかったね。
よく見ると、彼女を縛っていた縄だけが、パラパラと細切れになって地面に散らばっていた。
「よかった、ちゃんと守れてた。私、一人になっちゃうかと思った」
……ああそうか。メイちゃんが両手を広げた立ってた理由。あれ、お母さんを守ろうとしてたんだ。
まあ多分、実際のところは守ったんじゃなくて、この人が『そうした』んだろうけど。
「何か言いたそうだな」
「いえ、別に。随分器用だなあと思いまして」
「お前よりはな」
「おや、では是非今度メイド役を交換し……」
「するか」
交渉失敗。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
ねがえり太郎
恋愛
江島七海はごく平凡な普通のOL。取り立てて目立つ美貌でも無く、さりとて不細工でも無い。仕事もバリバリ出来るという言う訳でも無いがさりとて愚鈍と言う訳でも無い。しかし陰で彼女は『魔性の女』と噂されるようになって―――
生まれてこのかた四半世紀モテた事が無い、男性と付き合ったのも高一の二週間だけ―――という彼女にモテ期が来た、とか来ないとかそんなお話
※2018.1.27~別作として掲載していたこのお話の前日譚『太っちょのポンちゃん』も合わせて収録しました。
※本編は全年齢対象ですが『平凡~』後日談以降はR15指定内容が含まれております。
※なろうにも掲載中ですが、なろう版と少し表現を変更しています(変更のある話は★表示とします)

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる