うちの悪役令息が追放されたので、今日から共闘して一発逆転狙うことにしました

椿谷あずる

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25.思春期ボーイ(20歳)

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「お兄ちゃん」

 一歩。歩み寄るメイちゃん。

「お兄ちゃんは私が起きて隠れてたこと、本当はずっと気付いてたよね」 
「……」

 うんとかすんとか言えばいいのに、この人はまた黙ってる。思春期ボーイか。20歳だろ。

「レイズ様」
「……ああ、そうだよ」
「黙っててくれてありがとう」

 小さなお礼。かわいい。
 真っ当な人間ならここで心が浄化されて笑顔の一つでも見せるだろう。

「もしもの時は人質に取ることも考えてたからな」

 もちろん例外もある。
 悪魔に魂でも売り渡してるのか、お前は。

「ううん。お兄ちゃんはそんな事しないよ」

 いや、そういう奴だよこの男は。
 メイちゃんの笑顔で心を開くような奴じゃない。ほんと立場が下の相手には容赦ないな。

「それでね」
「何かな?」

 という訳でここは優しきメイド、ルセリナさんがコミュニケーションを引き継ごう。

「もし良ければ、その移動魔法、貰ってください」
「!」

 移動魔法を……貰う?
 え、いいの。移動魔法って結構いいお値段するよね? 嘘じゃないよね。貰うよ? 全然貰う。

「その代わり」
「!?」

 な、なんだ。お前の命を貰うとか言うのか。だよね、どうせこの物語に純粋な善人なんて存在しないんだ。知ってるぞ。もちろん命をあげることは出来ない。

「お姉ちゃん達の馬車を貰ってもいい?」
「え、馬車?」

 命じゃなくて?

「うん、お姉ちゃん達が乗ってたあの馬車が欲しいな」
「それはいいけど、ね?」
「ああ」

 所有者(仮)も頷いていることだし。

「でもあの馬車、魔力も無いし壊れてるよ?」

 今は私の魔法で形を保ってるだけだし。

「直せばまた使えるよ」
「そうだけど」

 壊れた馬車と移動魔法。金銭的には全然釣り合わない。いいのか、そんな美味しい話。でも一応、取引にはなってるしな。うわ、やばい。久々の美味しい話すぎて気持ち悪くなってきた。

「お母さんもそれでいいよね?」
「メイが、そう言うなら……」
「じゃあ決まりね」

 おおう、決まった。
 あれよあれよと話が進み、何だか上手い調子に移動魔法が手に入ってしまった。いやでも、これで国外追放も楽々ひとっ飛びだ。馬車の中でレイズ様にあーだこーだ言われて肩身の狭い思いをすることも無くなるだろうし。ラッキー。
 不安はまー大丈夫。いざとなったらレイズ様を引き渡そう。

「お姉ちゃんありがとう」

 深いハグ。小柄な頭をわしわしと撫でた。
 うんうん、いーよいーよ。こっちこそありがとう!

「お兄ちゃんもありがとう」

 深いハグ。
 いやいや、いーよいーよそっちは。どうせなんの感謝も感動も無いだろうから。
 どうせなら私みたいに頭の一つでも撫でてあげるくらい……あれ、メイちゃん、そんなに頭の位置高かったっけ? なんか成長した? というか。

「れ、れいずさま」

 私は何を見せられているんだ?

「……」
「前から女好きってのは知ってましたけど」
「……」
「脈絡も無くそんな美女と抱き合うなんてどうしたんですか!?」

 思春期ボーイ!? ボーナスイベントにはまだ早すぎるんですけど!
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