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24.悪役令息感謝デー
しおりを挟む男達と共に縄で縛られている母親を呆然とみつめたメイちゃん。
その視線はゆっくりと私達の方へも向けられる。
「お姉ちゃん」
嘘偽りのない純粋な瞳が突き刺さる。そりゃそんな顔になるよね。
状況としては最悪だ。
母親が縛られていて、その前に自由に突っ立っているのは私達。どちらが悪かと問われたら、十中八九フリーになってる方を指さすね。真犯人に嵌められて逮捕される名探偵ってこんな気持ちかな。
「あーうん。えっと」
なんて説明する? お母さんは本当は悪い奴で、迷惑をこうむっていたのはこっちだって? そんな話で信じるだろうか。いや、その前にこんな小さい子にそんな事実をぶつけるのは酷すぎるな。親が実は悪人とか、下手したらトラウマもんだ。さすがにそんな事はやりたくない。
それならいっそ、自分達が悪人というスタンスを貫くか……
「あっ」
「……」
不機嫌な感じが更に増して、今にも新たな暴言を吐き出しそうなレイズ様と目が合った。
だからか。だからこの人はさっきから事あるごとに私に対して「黙れ」って言ったんだ。メイちゃんが私達を完全な悪人とみなすように。混乱するような余計なことは口走らないようにって。
ってことは……
「レイズ様」
「なんだ」
「メイちゃんって今起きたんじゃなくて、結構前から起きてました?」
「そうだな」
やっぱりかー。だって「黙れ」とか言ってたの結構初期の段階だったもんな。
じゃあその時からメイちゃんは起きてて、ずっと様子見てたんだ。
「気付いてたんならもっとはっきり教えてくださいよ」
「さっき俺の思考をドヤ顔で解説してたくせに」
ぎくり。そんな事もあったな。思いだしたら恥ずかしくて死にそうになるけど、今はそれどころじゃない。
「メイちゃんあのね、これには色々事情があって。そう! 私達旅芸人なの! 今はお芝居の練習中でね、お母さんたちに協力して貰ってたんだよ!」
「はぁ、無理あるだろ」
やめろ。こっちが一生懸命に場の空気を変えようとしてるのにそのため息は。
「ちょっと、レイ……」
「お姉ちゃん、大丈夫だよ。メイ、知ってるから」
「!?」
「……」
知ってる? 知ってるって、え、何が? ん、まさか?
「お母さんがときどき夜に悪いお母さんになるのメイ知ってた」
はーなるほど、なるほどね。メイちゃん、知ってるの、母親の悪行を。しかもときどきって事は、今日に限らず知ってたってことだよね。そりゃあ恐れ入る。
「でも、おうちを助けるためだから。メイと一緒に暮らすためって知ってたから。分かってたから」
「だからいつまでも隠れて出てこなかったのか」
レイズ様問いかけに、こくんと小さな頭が動いた。
「そんな、メイ……」
「お母さん。メイ、これからもっといっぱい頑張るから、悪い事はもう辞めよう?」
「そうね、そうよね……お母さん間違ってた、ごめんね」
涙を流す母とそれを抱きしめる子。
イイハナシダナー。どこかで物語のジャンル設定切り替えたのかもしれない。
「お姉ちゃん」
「は、はい?」
「悪い事してごめんなさい」
「あー……いえいえ……うん、お気になさらず」
色々思うところはあったけど、状況が状況なだけに今回はいい人になっておくか。
「お兄ちゃんも」
「……」
ったくこの人はまた。
「ほら、レイズ様呼んでますよ」
「うるさいな」
「はいはい、照れないで下さい。普段悪人で慣れてないからって、こういう時は空気読んで……痛っ!」
だから私の足は床板じゃないっつうのに。
世に言う悪役令息が、たまには感謝されたっていいじゃないか。
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