うちの悪役令息が追放されたので、今日から共闘して一発逆転狙うことにしました

椿谷あずる

文字の大きさ
上 下
19 / 154

19.夫婦やカップルに間違えられる展開があっても我々の答えは揺らがない

しおりを挟む

 よく考えたらレイズ様の『お前達みたいな悪人』って、私もしかしてフェリクス様と同程度の悪だとみなされてる?
 いやいやそんな、さすがに私はそこまでサイコな女じゃないんだけど。

「ここだよー」

 道中レイズ様の発言のそんなわずかの綻びに気付いてしまい一人悶々と悩んでいるうちに、体の方は少女の言う『おうち』とやらに辿り着いていた。

「へぇ、ここが。可愛いおうちだねぇ」

 見かけ上は普通のログハウスって感じか。入り口にドクロが飾ってあるとか邪悪な要素は含まれてないな、よし。
 相手がまだ幼い少女とはいえ警戒を怠ってはいけない。ここからは更に慎重に先に進む必要があるのだ。

「なんだこれは、犬小屋か」
「ちょっとレイズ様」

 この野郎。出だしからクソみたいな暴言を。相手の逆鱗に触れて一瞬でハチの巣になったらどうする。こっちは巻き込まれるなんて勘弁なんだからな。
 少女に着いていくと決めた上で最も重要なことは、相手の機嫌を損ねないようにすることだ。たとえ相手がとんでもない悪人だったとしても、少しでも見逃してもらえるように。

「あはは、お兄ちゃん面白ーい。ここはね、メイのおうちだよー」

 どう考えたって面白いで済む発言じゃないだろ。鋼のメンタルか。

「どうぞ入ってー」
「ですって、レイズ様お先にどうぞ」
「あ、おい押すな」

 よし、上から槍とか降ってこないな。安全っと。
 レイズ様が特に何も無いことを確認した上で私も慎重に玄関に足を踏みいれた。

「お邪魔します」
「あらあら、可愛いお客さんが二人も」

 奥から人。シンプルな白いエプロンを身にまとった清楚な感じの女性だ。

「おかーさん、ただいまー!」
「もうメイったら姿が見えないと思ったら」
「えへへ、お客さんを連れてきたの」
「こんな夜更けに危ないでしょ?」

 本当ですよ、気をつけて下さい。お母さん。

「ごめんなさいー」

 ぺこりと可愛らしく頭を下げると彼女のおさげがふわりと揺れた。

「……」
「……」
「あら、ごめんなさい。そんなところで立たせちゃって。どうぞそこのソファーでくつろいで下さいな」
「ああ、失礼」
「ではお言葉に甘えて」

 ふかふかとしたソファーは馬車に比べるととても心地が良かった。

「それでここは宿屋でもやっているんでしょうか?」

 入ってすぐ思った。民家にしては作りが明らかに違う。カウンターがあったり、扉がいくつも分かれていたり。

「ええ、そうなの。この子何も説明してなかったのね」
 
 困ったようにご婦人は笑った。素朴ながらに品のある美しい仕草だった。

「ここには現在お二人で?」
「そう、娘と私の二人。主人はもう随分前に……」
「そうなんですか」

 夫が他界し母一人子一人で細々と経営する宿屋。よく聞くような話の内容だ。嘘か本当かを見分ける術はない。ならば。

「この場所は周囲に人気も街も見当たらない場所だったように思います。実際食材やお客さんはどうやって……」
「おい」
「なんですか、レイズ様」

 今結構大事なところなんだけど。

「そんなのどうでもいいから夕食を用意してもらえないか? コイツと違って俺は何も食べてない」
「あら、それはいけないわ」

 誰のせいだと思ってるんだ。誰の。

「今急いで準備をしますね。メイはお布団の準備をお願い」
「はーい」

 パタパタと駆け出していくメイちゃん。そうか、今日のところは布団で眠れるんだ。

「そうだ。まだきちんと確認してなかったけどお部屋は一緒でいいのよね?」
「あ、いえ」
「ご夫婦……? それにしては若すぎるからカップルかしら」

 んー残念。どっちも違う!

「私達は――」
「メイドとその主人だ」

 回答が早い。
 いいんだよ、そこはもっとこう顔を赤らめてカップルと間違われたことにちょっと戸惑ったりしても。年頃の男女の甘い感じを出しちゃっても誰も苦情言ったりしないと思うよ。大体、一回はメイドとして折れたけど、私は自分をメイドだなんて受け入れる気無いからね。どっちも今は追放されて一般人に成り下がった身だっての。

「まあ、そうだったのね」
「まー……そのようなものです」

 よくよく考えたら、追放されて無職だなんて説明したところで不審者感が増すだけでなんのメリットもなさそうなので説明するのはやめた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎
恋愛
江島七海はごく平凡な普通のOL。取り立てて目立つ美貌でも無く、さりとて不細工でも無い。仕事もバリバリ出来るという言う訳でも無いがさりとて愚鈍と言う訳でも無い。しかし陰で彼女は『魔性の女』と噂されるようになって――― 生まれてこのかた四半世紀モテた事が無い、男性と付き合ったのも高一の二週間だけ―――という彼女にモテ期が来た、とか来ないとかそんなお話 ※2018.1.27~別作として掲載していたこのお話の前日譚『太っちょのポンちゃん』も合わせて収録しました。 ※本編は全年齢対象ですが『平凡~』後日談以降はR15指定内容が含まれております。 ※なろうにも掲載中ですが、なろう版と少し表現を変更しています(変更のある話は★表示とします)

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...