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19.夫婦やカップルに間違えられる展開があっても我々の答えは揺らがない
しおりを挟むよく考えたらレイズ様の『お前達みたいな悪人』って、私もしかしてフェリクス様と同程度の悪だとみなされてる?
いやいやそんな、さすがに私はそこまでサイコな女じゃないんだけど。
「ここだよー」
道中レイズ様の発言のそんなわずかの綻びに気付いてしまい一人悶々と悩んでいるうちに、体の方は少女の言う『おうち』とやらに辿り着いていた。
「へぇ、ここが。可愛いおうちだねぇ」
見かけ上は普通のログハウスって感じか。入り口にドクロが飾ってあるとか邪悪な要素は含まれてないな、よし。
相手がまだ幼い少女とはいえ警戒を怠ってはいけない。ここからは更に慎重に先に進む必要があるのだ。
「なんだこれは、犬小屋か」
「ちょっとレイズ様」
この野郎。出だしからクソみたいな暴言を。相手の逆鱗に触れて一瞬でハチの巣になったらどうする。こっちは巻き込まれるなんて勘弁なんだからな。
少女に着いていくと決めた上で最も重要なことは、相手の機嫌を損ねないようにすることだ。たとえ相手がとんでもない悪人だったとしても、少しでも見逃してもらえるように。
「あはは、お兄ちゃん面白ーい。ここはね、メイのおうちだよー」
どう考えたって面白いで済む発言じゃないだろ。鋼のメンタルか。
「どうぞ入ってー」
「ですって、レイズ様お先にどうぞ」
「あ、おい押すな」
よし、上から槍とか降ってこないな。安全っと。
レイズ様が特に何も無いことを確認した上で私も慎重に玄関に足を踏みいれた。
「お邪魔します」
「あらあら、可愛いお客さんが二人も」
奥から人。シンプルな白いエプロンを身にまとった清楚な感じの女性だ。
「おかーさん、ただいまー!」
「もうメイったら姿が見えないと思ったら」
「えへへ、お客さんを連れてきたの」
「こんな夜更けに危ないでしょ?」
本当ですよ、気をつけて下さい。お母さん。
「ごめんなさいー」
ぺこりと可愛らしく頭を下げると彼女のおさげがふわりと揺れた。
「……」
「……」
「あら、ごめんなさい。そんなところで立たせちゃって。どうぞそこのソファーでくつろいで下さいな」
「ああ、失礼」
「ではお言葉に甘えて」
ふかふかとしたソファーは馬車に比べるととても心地が良かった。
「それでここは宿屋でもやっているんでしょうか?」
入ってすぐ思った。民家にしては作りが明らかに違う。カウンターがあったり、扉がいくつも分かれていたり。
「ええ、そうなの。この子何も説明してなかったのね」
困ったようにご婦人は笑った。素朴ながらに品のある美しい仕草だった。
「ここには現在お二人で?」
「そう、娘と私の二人。主人はもう随分前に……」
「そうなんですか」
夫が他界し母一人子一人で細々と経営する宿屋。よく聞くような話の内容だ。嘘か本当かを見分ける術はない。ならば。
「この場所は周囲に人気も街も見当たらない場所だったように思います。実際食材やお客さんはどうやって……」
「おい」
「なんですか、レイズ様」
今結構大事なところなんだけど。
「そんなのどうでもいいから夕食を用意してもらえないか? コイツと違って俺は何も食べてない」
「あら、それはいけないわ」
誰のせいだと思ってるんだ。誰の。
「今急いで準備をしますね。メイはお布団の準備をお願い」
「はーい」
パタパタと駆け出していくメイちゃん。そうか、今日のところは布団で眠れるんだ。
「そうだ。まだきちんと確認してなかったけどお部屋は一緒でいいのよね?」
「あ、いえ」
「ご夫婦……? それにしては若すぎるからカップルかしら」
んー残念。どっちも違う!
「私達は――」
「メイドとその主人だ」
回答が早い。
いいんだよ、そこはもっとこう顔を赤らめてカップルと間違われたことにちょっと戸惑ったりしても。年頃の男女の甘い感じを出しちゃっても誰も苦情言ったりしないと思うよ。大体、一回はメイドとして折れたけど、私は自分をメイドだなんて受け入れる気無いからね。どっちも今は追放されて一般人に成り下がった身だっての。
「まあ、そうだったのね」
「まー……そのようなものです」
よくよく考えたら、追放されて無職だなんて説明したところで不審者感が増すだけでなんのメリットもなさそうなので説明するのはやめた。
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