528 / 581
本編
ホップの花
しおりを挟むジャーン!
ノンアルブース全体に見えるように、高い位置に備え付けてある、そこそこ大きなモニター。
先程から様々なソフトドリンクの、おすすめポイントが流れていたが。
ふっ、と無音。その後、軽快な音楽が鳴って。画面では物語が始まる。
ピロポンピン♪
『俺、早く大人になりたいんだぁ。』
『うん、だな。もっと稼げるように、なりたいよな。』
あどけない子供達が、冒険者としてデビュー、小さな兎を罠で捕らえて。やんちゃそうな男の子。剣などまだ持てない。何にでも使える値ごろなナイフを腰に。
比べたら背の高い、色白でひょろっとした男の子。弓を背中に。
そこに現れる冒険者、先輩チーム。腕っ節の強そうな、顔に傷、使い込まれた剣。後衛の、いかにもビリビリ凄そうな、スタンガン持ち。
『おぅ、お前ら、チビ兎か。うんうん、良くやった。そういうのを地道に獲るってエライんだぜ。すごく増えて困っちまうしな。そうだ、先輩が、ちょっと奢ってやろうか。』
ニカ!と気の良い先輩。
カランコロン、とドアベルの音。
『おう、おやっさん。未来の大物冒険者達に、ちょっと良いやつ頼むぜ。エールでいいだろ、お前ら?』
え•••、とちょっと戸惑う子供達。
けれど。
『酒なんて、おれ、飲んだことないのに•••。』
『でも、先輩が、おごってくれるんだ。いらないなんて、言えないし。お酒だけど、一杯だし•••。』
おやっさん、渋い顔をしながらエールを人数分、ダン!とテーブルに出す。
『固いこと言うなよ。舐める位良いだろう。大人の世界を、チラッと、な?』
エールを片手にパチンとウインク。
顔を見合わせて、子供達は、エールを、手に取り、飲んーーー。
『ダメ~~~!!!』
ブブー。
画面に大きなバッテンが。
飲みかけ驚き子供達のアップ、その後ろで先輩が、え、とエールを口元にやったまま、目を見張る。
バッテンの前に、白衣を着た研究員が出てきて解説する。
『皆さん、こういうことって、ありがちですよね。ですが、飲む前に、飲ませる前に、私の話を聞いて下さい。子供のうちから飲むと、アルコール依存症になりやすいです。また、大人になってからもアルコール依存症になって途切れず大量に、お酒を飲むと、こんな事が起こりますよ。この脳の、カラダスキャナの画像を見て下さい。』
正常な人の脳、萎縮した人の脳、と2つの脳の下に書かれている。
『こちらは正常な人の脳。ちゃんと、満遍なく詰まっていますね。こちらが、脳が萎縮している人の脳。比べると分かりますか?目で見て分かるくらい、縮んでいるでしょう?脳は、考えたり、行動したり、人が生きていくのに大事なところです。萎縮すれば、注意力・記憶力が低くなる、感情の制御ができない、歩くとふらつく、手が震える。』
エレバージュ神様が、画面をジッと見つめたまま、憂い、ふうと息を吐く。
「恐ろしいだろうよねえ。あんなにはっきり、目で見て損なわれているのが、分かるのだ。あんな魔道具を作るとは、竜樹は、なかなか凄い。ーーー酒の神としては、実は嬉しい事でね。」
嬉しい?
お酒の神様なのに、お酒の怖さを伝えて皆を遠ざけさせる事が、なぜ?
ハテナ?と不思議そうな顔の竜樹達に、エレバージュ神様は、チラッと目線をーー雄々しいのに色っぽいーーくれて、ふふ、と微笑。
「私はね、酒の齎す闇の部分から、明るい浄め、祝い寿ぎの部分まで、まるまる含め、全てを愛しているよ。酒は人生、渋みも甘みもある。でも、でもね。」
画面では、白衣の研究員が、お酒を子供に飲ませない、子供のみんなも、素敵な大人になるために、大人になってから飲もう!雰囲気を楽しんで飲むなら、美味しいソフトドリンクや、お子様用のノンアルを。とおススメしている。
サンジャックもそれを見上げて、ふす、と鼻息を吹く。目は輝いて、竜樹が差し出した希望に、キリッと真面目顔で未来を。
「人の子を悲しい事にさせて、酒のせいだ、酒を憎むと、させたい訳じゃあ、ないんだよ。」
柔らかな視線は、酒で酷い目に遭ってきた子に落ちる。
「エレバージュ神様は、お酒がお好き。なら、お酒が、人の輪を、笑顔を作り、特別な記念に飲まれ、日常でほどよく、美味し味わい。乱雑に飲めればいいんだって、アルコール依存症で、がぶがぶ粗雑に扱われるより、愛しんで大事に飲まれる方が、より、よろしいでしょうよね。」
竜樹がサンジャックと繋いだ手を揺らして、うんうん、頷き言えば。エレバージュ神様も、ニッコリ。
笑って、コックリ頷き。
「ノンアルの、お酒風飲み物も面白くて好きだよ。皆、工夫していかにもお酒な雰囲気をどうやって出そうか、ってね。まあ、そりゃあ、本物のお酒には敵わないよ。けど、それを取り入れる事で、本物のお酒の価値が下がるどころか、竜樹は上げているだろう?」
画面の物語は続く。お酒の美味しい、そして健康的な飲み方について。ノンアルも組み込んで、休肝日を作り、適量を楽しく。
「飲むな、って言わないのだよね。我慢しろ、止めろ、って。お酒を造っている製造、酒屋、飲み屋、どこも、皆が飲むお酒を減らしても、他にやりようがあって、かつ今までより大事に、特別に飲まれるようになる。造る方だって、より大事に造るようになるよ。子供新聞も買ったよ。お酒の失敗談なんかも面白いし、お酒っていう飲み物に纏わる文化を、丸ごと良いも悪いも、取り込んで一歩先へ向かっていると思う。」
ワイナリーの跡取り息子で試飲売り場のテイトが、かの神に跪きたいのに、それをしてしまっては竜樹と、せっかくお忍びで来ているエレバージュ神様の対話を邪魔してしまう、とふるふるしている。
サンは、ニコッとしたまま、大人のお話をしている竜樹とーさを見ている。とーさ、ほめられているみたい。ヤッタネ!
「これからも、竜樹よ。酒を憎まず、人が愛し愛される酒を楽しめるように、力を貸しておくれな。」
そう言って微笑んだ神様のお願い。だが、そうでなくても竜樹は、自分の一番の芯にある、子供達の事を思えば、それは自分の仕事なのだと思っていたから。
「はい、エレバージュ神様。まずは身近なこの国から、ほどよく、健康的に、飲みたい人が美味しいお酒を飲めるように、そして飲みたくない人が無理矢理飲まされたりしないようにーーーお酒を楽しい特別なものだ、って思って貰えるように、頑張ります。やっぱり私は年に一回だけ飲む約束は、変えられませんが。それがあるから、毎年、美味しいお酒品評会を開けそうでもありますし。」
鼻歌でも出そうな勢いで、うんうんうん、とゆっくり頷く酒の神。
「そのご褒美にーーー。」
そろり、伸ばされた尊き御手は、人差し指、とん、と。
パチン、パチリ、瞬きしているサンジャックの額を、軽く押した。
ぽわ、と光が神の指先にサンジャックの額に。ふわっと光の玉、吸い込まれて、•••やがて、消えた。
周りはギョッとしたが、サンジャック当人は光も指先も近すぎて、何だか分からず。
「サンジャック。」
「は、はい?」
何かえらそうな人は、お酒の神様らしい。幼き瞳は、パッチリ開いて、目の前の神様に。
「お前に、お酒の神、このエレバージュ神の祝福を、授けたぞ。」
パサリ。
頭の上に落ちた、ホップの花。
ーーーーー
閑話の企画に呟きありがとうございます!
まだのんびり募集してますので、思いついた方は、お気軽に近況ボードまで。
お題もらう、って、ワクワクしますね!(*^^*)
91
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる