王子様を放送します

竹 美津

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本編

なめんなよ

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竜樹はヘンタイと対峙している。サンジャックを胸に抱いて。

キッと睨んだ、つもりで。
いつものショボショボ目が少し細くなっただけだったが、護衛で仲間のマルサ王弟に、チラッと目線を遣った。
うん、と頷いたマルサは。現行犯で縛られたが、貴族だと言うので偉そうに衛兵に文句をつけていたヘンタイの前に立った。

本当に、貴族だろうか。
平民と貴族とは、見かけで見分けはつくと言える。着ている衣服も違うし、容姿に対するお手入れ具合が違ってくる。良くある、貴族は美形が多いという話については、実際見てみて、どうかなと竜樹は思っている。身だしなみがラフでなく、キチンとしているだけで、何割か美しさは増すのであるから。

ヘンタイは、確かに貴族っぽい。
サラサラの、幾分黄土色じみた金髪に、虎目石の瞳が爛々と。整ってはいるが、サンジャックの方を見ているその視線が、何だか、何だか。熱を帯びてねっとりと。
マルサが前に立っても、まだ物欲しそうに竜樹の背中に隠れた子を見つめていたが。残念そうに、だがニヤッとしたまま、マルサへやっと視線を移した。

「これはこれは、マルサ王弟殿下。野蛮にも拘束されてしまったので、ご挨拶できずにすみません。お久しぶりでございますね。ギフトの御方様とは初対面ですけど。」

フー、とマルサは息を吐き、腕をムンと組んで厳しい目をする。
「危機感なしかよ、全く。お前はいつもそんな感じだな。今度ばかりは見逃してやれないぞ。ルッシュ、お前がサンジャックに痴漢したヘンタイだったとはな。」

タン、タン、タン、とつま先を打って、マルサは、う~と唸る。
「ヘンタイだヘンタイだ、とは思っていたけど、お前、昔は実際には手を出さないのが美学、とかなんとか言っていただろ!」

うん?
初対面じゃないらしい2人。竜樹は訝しく思って。
「マルサ、そのヘンタイと随分な知り合いなの?」

「ああ。」
マルサは頷いて。
「学園で同級生だったんだ。コイツは有名でさ、その当時から、子供に対して特別に、特別に!親切だったんだよな。ちょっとおかしく思う位に。」

衛兵さんが気を遣って。
ヘンタイ・ルッシュが椅子に座っているのに、王弟マルサやギフトの竜樹が立っているので、折りたたみ椅子を、そーっと持ってきた。
マルサは顎で応え、椅子を受け取ると、ガタガタ!と音を立ててルッシュの前に座った。
竜樹とサンジャック、司祭はそれに守られて距離を置いて、やっぱり椅子に、有り難く座る。

「俺、その頃から騎士団志望で、保安関係には目を配るように、国王の勉強してたハルサ兄上から、頼まれてたもんでさ。同級生の連中のふるまいも気にしてた。ルッシュ、コイツ伯爵令息なんだけど、ちょっとおかしいって有名だったんで、直接どんなもんか確かめに行ったんだ。」

ルッシュはニヤニヤしたまま、平然。
「お前、子供を性愛の対象とするヘンタイか、ってザックリお聞きになったんですよね。マルサ王弟殿下は。そんな事、はっきり聞く方は今までいなかったので、とても愉快な気持ちがしましたっけ。」
ククク、と笑う。

「ばかやろ、笑ってんな!いつから本当に、我慢できずに子供相手にいやらしい事をするようになった!」

貴族相手だから、自白なり少しでもはっきりした事を掴んで罪としたいのだろう。マルサが勢い、腹の底から響く声を出して威嚇する。
眉をちょ、と上げて、うるさそうな顔をしたルッシュは、しゃあしゃあ、口端上げて。
「嫌だなぁ。私の美学は変わっていませんよ。サンジャック君にだって、いやらしい事なんか、現実には、していませんから。」
「信じられるか!サンジャックを買っただろう!」

「身柄は買いましたけど、性的に犯すような事はしてませんよ。神に誓って、していません。」

竜樹とマルサが、サンジャックをちろ、と見る。勿論、サンジャックを疑った訳ではない。
だが、保護した時に身体検査をして、裂傷などはなかった事は分かっているし。この世界、神の名に置いてと喋った事は、本当に神様に真偽を判別され、嘘だと神罰をくらうのである。軽くでも、今のルッシュに、神の雷や何かが全くなく、無事だという事は、言っている事が真実なのだ。

「うそだ!いやらしいこと、したんだ!」
サンジャックは必死で叫ぶ。おれの言ったの、嘘じゃない、嘘なんかつかない!と。
「大丈夫、信じてるよ、サンジャック。」

「う~ん、やっぱりサンジャック君はいいなぁ。その反抗心、美しい。」
うっとりルッシュは、それでも続ける。
「まぁ、でも、私も捕まりたくはないのでね。確かに少しいやらしかったかも?しれないですけど、撫でたり、ちょっとキスしたり、したくらいでしょう?それくらい、親御さん、そう、ギフトの御方様だっていつも、しているでしょう?」

「うそつき!お前、なめた!竜樹とーさは、なめない!!」
ムギギギギ!歯軋りの反論。

なめた。どこを。

「ギルティ~~~!!」
竜樹は、ルッシュを睨み、くわと開いた口で有罪を突きつけつつ。興奮してギュッと拳をむぎむぎ、シャツの胸を握って揺らすサンジャックの背中を撫でてやる。

「ちょっと柔らかなほっぺとか、滑らかな首筋や、小さな足先に舌を当てたくらい、いいじゃないですかぁ。あぁ、素敵な体験だったなぁ、また一緒にお風呂に入りましょうよ。丁寧に洗ってあげますから、私と暮らせば、ギフトの御方様と一緒にいるより、もっと素敵な、愛ある、美しい生活が出来ますよ。」
さあ、さあ、と身を乗り出す。

愛。
愛とは聞き捨てならないじゃ、ないか。

「子供を本気で好きなのは、どうにもならない嗜好として、置いといても。ーーー舐めたり、本人に嫌がられる事しといて、愛もないでしょ!そんなのは本当の愛じゃない!とにかくサンジャックはよそへやりません!それと誰であれ子供を舐めるな。いやらしい目で見ながらのお風呂も、ダメに決まってるだろ!」
「きもちわるいんだよ、おっさん!」

「あぁ、もっと冷たく!理路整然とした正しさなんて、どうだっていいから!」
陶然。
おいおい、ルッシュよ。竜樹達、全員へなり、と勢い落ちる。
ヘラヘラした顔が、憎らしい。

「この人、黒よりのグレーなんだね。」
しらーっと、けーべつの顔、大小竜樹とサンジャック。マルサは、頭に手を当てて、むぐウゥ。
「コイツいつもこんなんなんだよ!これで、成績は優秀でさぁ!大人同士貴族同士の正式なやりとりなんかはビシッと決めやがる!文句言わさないだけの知恵は回るから、始末に負えないんだ!」

そう、今回だって。
一緒にお風呂に入って、ちょっと舐めたりなんてのは。サンジャックにとっては、深く心に不快感、傷となって残るかもしれないが。公な罪としては、おそらく咎める事が出来ないだろう。

「ふふふ。先日、やっと父から当主の座を譲られまして。領地も、良く治めているつもりですよ。貴族からも民からも評判良いです、私の領地。ギフトの御方様好みの、民に優しいやり方で、しっかり経済も回ってますし。あ、領地の子とかに手は出してませんよ、仕事と趣味は別ですのでね。そこを混ぜるのって、美学に反しますし。」
パチン、とウインク。

ケッ、と吐くマルサは、マンガだったらグチャグチャの黒いぐるぐるが、もにゃ~と出ているだろう。
「•••コイツがこう言うってんなら、きっと、言う以上に良くやってんだろうぜ。あぁ~やりずれぇ~!!」

「マルサ、サンジャックをお金で買った事自体は、罪にできない?」
「普通に子供を働かせて、金を払ったりもする訳だから、境目が難しいな。実際にはサンジャックは引き渡されてもいない訳だし、罪なぁ。」
ほとほと困る。
精神的には、ギルティだ。
それに、このまま、今後もサンジャックに纏わりつかれても困る。
竜樹の胸の中のサンジャックは、への字口でとーさのシャツを、悔し紛れにカミカミと噛んだ。

「••••••。」
う~ん。

蛇の道は蛇。
ホテル・レヴェのオーナーで、王都宿屋組合の組合長、クレプスキュールこと裏社会のボス、老ミニュイにでも相談•••うーんいやいや、ルッシュが酷すぎる事になりそうなのはまあ、そこそこ、いやいやだが、あんまりホイホイ、ミニュイ老に頼ると、陽の当たる道を誤りそうな気もする。

う~ん。

スッ、とそこで取り出したるは竜樹のスマホ。
サンジャックが、カミカミしていた口でシャツを引っ張り、?の顔で竜樹とーさを見ているから、撫でことしてやり。

ホチ トゥルルルル
『はい、もしもし?』

「あ、文さん?竜樹です、今大丈夫?」

竜樹の弟、コウキのお嫁さん、女優の流麗でカッコいい鏑木文さん。
この事態を解決するには、そこらの事務員だった竜樹だけでは、手に余る。魑魅魍魎の跋扈する芸能界を泳ぐ、プロフェッショナルの力が必要であろう、と判断したのである。

『大丈夫ですよ!今、お仕事とお仕事の間で、台本覚え中なの。この間言ってた、こちらの世界とそちらを繋ぐ、エンタメのテイで情報やりとり、のお話ですか?』
「あ、いや、ううん。それはまだまだゆっくり慎重に、先の話で良いんだ。こちらでちょっと、子供達の事で問題がありまして。俺の子、サンジャックって男の子が、養子に来る前に、ちょっといやらしい事をされてたみたいなんだ。そのヘンタイ的には、性交渉まではしないのが美学だとか言って、舐めたり一緒にお風呂に入ったり、触ったりまでらしいんだけど、サンジャックにしてみたら、とても嫌な事でしょう?子供相手に抵抗できないのを、お金で言う事聞かせたのも、やだよね。」

一段低い声で、文が。
『それは凄く傷つくし、酷い事ですね!可哀想に、とても怖かった事でしょうに。』

「うん、今後も良く見てやらないと、と思っているんだけど、そのヘンタイ、ルッシュっていう人が今ここで捕まっていまして。でも、やった事が、精神的にはギルティでも、現実の罪としては問えない微妙さがあって、貴族でもあるし、釈放されちゃいそうなんだ。罪に問えないのは一歩譲って仕方ないにしても、今後もサンジャック、付き纏われそうな予感がしてる。冷たくして欲しいらしくて、嫌がっても逆効果で。」

ふっ。
不敵に笑う女優、鏑木文。
『お任せ下さい、この鏑木文に。そのヘンタイは、子供好きであると。そして被虐性癖も多分にあり、という訳ですか。大丈夫です、友人に、そういうののエキスパートがおります。ちょっと連絡してみます、一旦切りますが、そのままお待ち下さい。』
「よろしくお願いします、頼りになります。」

ホチ

「•••あのかっこいい、フミさんに頼んだのか?」
マルサ、目を見開いて驚いている。フミさんがルッシュを足蹴にしている姿を想像し、うん、似合っているが、ちょっと違う。

「うん、きっと文さんなら何とかなるよ。信じて待ちましょう。」
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