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本編
打ち上げ会はわやわやと
しおりを挟む何でも実現バーニー君が、にこやかに話に加わってくる。
「ノートさん、お金の使い途、なかなか素晴らしいですね!生きたお金の使い途ですよね。おめでたいにおめでたいが重なりますしね!じゃあ、これから、プロポーズするって事なんですね?良いお返事はもらえそうですか?」
吟遊詩人ノートは、照れ照れっと頭を掻いて。
「いや~どうだろう。その、彼女は家族で、食事のお店をやってまして、今日はきっとお客さんで賑わっただろうから、俺のその、結果をまだ知らないだろうと思うんですよね。これから、行って、そんな話もできたらな、って•••。」
旅暮らしで、歌の競演会前に、今回の結果も楽しみにしてくれな、って話はちょこっとしたけど、ノートは歌に旅に、彼女はお店の立ち上げに、お互い忙しかったから、将来の話などはしていなくて。
彼女の店は王都にあり、明日も明後日も感謝祭で混むだろうし、本当だったら、祭の後に話した方が、彼女も稼ぎどきに考えさせるような事をしなくて済むからな、って。
「思うけど、思うんですけど、でも、俺、今日の報告くらいはしておきたくて。」
ポポッと赤らむ。
そりゃそうだろう。金の優勝を獲ったのだもの、恋人に言いたいだろう。
バーニー君は、うんうんと頷きつつ。
「でしょうね!そしてノートさん、賞金の使い途、ノートさんが獲ったんだから貴方が決めていい、とは思いますけど、お相手と結婚なさるのなら、相談はしておいた方が良いですよ。まさかお金目当ての彼女なんかではないだろうけど、女性目線で、将来に向けて必要な事があったりも、するかもですしね。それに、お相手さんは今、実家暮らしなんです?」
「はい、家族と暮らしていて、皆で、おにぎり屋をやってます。」
あ、知ってる!出来たばっかの、おにぎり屋。『おにぎり・まんまや』だろ、と他テーブルから声。
美味しいよね、あそこ。ご飯が握りすぎてなくて、ほろっとしてさ。
何言ってんだ、爆弾ぎゅうぎゅう握り、ってキツく握った味ご飯に半熟煮卵や角煮、具がいっぱいの、デカいのもあんだぜ。一回食べるべき!
え~知らなかった!
お弁当にも、カウンターで握ってもらうのも、良いんだよね。
種類が一杯あって、楽しいんだぁ。
あそこの看板娘って、2人いるじゃん。どっち、どっちよ!
獣人さんだったよねぇ。
確か、あそこの旦那さんが怪我で、工事とかの身体仕事が出来なくなって、奥さんが一念発起したんだったよ。
あ、そうそう!家族仲良しでさ、ワイルドウルフから、普通なら出稼ぎ仕事で単身だろうに、離れがたいって一緒に、何年も来ててさ。
と、吟遊詩人達は、流石情報通である。口々に、ノートの彼女のおにぎり屋、まんまやの情報を擦り合わせる。
貴族の歌い手達は、ヘェ~!行ってみたいな、まんまや、と興味津々である。
バーニー君は、それらの情報を、うーん吟遊詩人達、侮りがたし、と思いつつ。
「ご実家でお店をやってるなら、お家を借りるのは相談してみてで良いかもですね。新婚となれば、2人で過ごしたい、って気持ちもあるでしょうが、お店の都合や、ノートさんが旅に出ている間、奥さんが、せっかくこちらで家族がいるのに、1人きりで住む、ってのも寂しいし物騒でしょう?」
彼女にオッケーもらえたとして、そして相談してみてですけど。と言いつつ、バーニー君の怒涛のプレゼンが始まる。
「ご夫婦の時間は、竜樹様発案の、王都の宿屋を仲良しお泊まりで、のコースを使ったりもできますしね。トータルで言えば、新しく家を借りるより、その方が安上がりかも。」
ニッコリ、でどこまで見通しているのか、続く続く。
「ご実家でお店をやっていてなら、一緒に住めば、子供が出来ても、奥さん1人での子育てにならないでしょうし、お店も出来たばかりなら、一生懸命に仕事がしたいって女性だっていますでしょうしね。まあ、相談、相談ですよ?でも、彼女が安心して結婚できる、そんな条件を差し出すのも、男の甲斐性ですから、相談しながら、こんな事もできるよ、ってね?•••そして、そこで浮いたお金で、国内の転移魔法陣の、5年分くらいのどこでも何回でも行き放題定期券、ってやつを買う、って選択肢もあります。あまり知られていなくて、広報を行いたいとこだから、利用してもらえると嬉しいですね。それなりのお値段しますけど、そうすれば、旅をしながら、王都にちょくちょく帰って来れて、新婚さんが仲良く生活をする、なんて、旅と家庭を持った生活が両立しやすく出来ますよ。お子さんを持ちたいなら、その、仲良くする時間も沢山あった方が良いですしね。私の記憶によれば商人などでない、個人の転移魔法陣5年分は金貨10枚ほど。お試しに1年にすれば、金貨2枚ほどですからね。携帯電話魔道具は、魔法院からの直売割引で金貨5枚くらい。そんなに高くもないんですよ。ただ、定期券も携帯電話も、身元をきちんと調べられたり登録されたりするんでーーー犯罪に使われないように、ですね。携帯電話は神の目と同じく、身元が固い人じゃないと買えないですよ。冒険者組合の口座があると作りやすいんだけど、今回ノートさんは賞金で作りますしね、金の優勝を獲ったし、顔が売れましたしねぇ、ある意味世の中で変な事が出来ない、身元が保証された事にもなりますし、何よりおめでたい事に関わりますし、許可が出るでしょう。いや、口座は元々お持ちだったりしますかね?この後、手続きのご説明もあるんだけど、それより彼女にプロポーズしたいですかね?」
「•••は、はあ。」
ぴょん、とノートの髪が一筋、乱れて立っている。呆気にとられて。
バーニー君の口上に、流石の吟遊詩人歌い手達も、しんと聞いている。
3王子や竜樹は、お口をハム、と閉じてそれぞれ、パチクリ。キャリコ少年は黙って竜樹の袖を握るばかりである。
バーニー君の怒涛の説明なんて珍しいなあ、いつもチリ魔法院長に聞いてもらえなくて、その時はわーわー言ってるけど、普段は相手を尊重する感じなのに。
竜樹はニリヤを抱っこし、お背中ぽんぽん、様子見である。
「•••と、ね。全てはプロポーズに成功しての話で、そして相談してみてから、ですよね。このように一方的に話をどんどんしますと、場合によりますが嫌がられたりもしますので、ご一考を。」
ニカッ、と笑う。確信犯なバーニー君である。
「はっ、はい!」
(やべえ、優勝した興奮で一方的に話をしちゃうとこだったかも。)
吟遊詩人ノート、心に忠告を刻むである。
そこからざわざわ、携帯とカメラの使い方講座はうっちゃって、作戦会議である。
「どうなのよどうなのよ、これから結果を報告ってさ、おにぎり屋も朝から仕込みがあるから、夜早いんじゃない?」
吟遊詩人アラシドお母さんが、胡麻団子を、パクリもぐもぐしながら、フォークをぐるぐるする。
「お店の事は分からないですが、そうですわよね。お祭りともなれば、飲食店は、お仕事で疲れて、早く寝たそうですわ。呼び出したら、可哀想ですわね。•••でも、その、結果的に優勝したよ、だとか、2人の将来の事を考えているよ、だとか、深い話は後でするとしても、そこら辺はなるべく早く教えてほしいですわよ!女性にも心づもりってものがありますわ!」
歌い手アマンドが、携帯を両の手に、ころんころん転がしながら、ふふふ、と嬉しそう。他人の恋話、嬉しいじゃないの。
「この感謝祭の仕事を、プロポーズ話で邪魔されると、怒りそうな彼女かしら?仕事に一途で、不器用な子もいるからね。私だって、大仕事の前に、他の細かい事言われたら、待って待って!ってなっちゃう。人となりは大事だよ。」
吟遊詩人ベラヴェッカが、自分の事だとしたらな感想を一言。多分、不器用で一途なのは、彼女なのだろう。
恋にベテランな貴族の歌い手、ペティバーンは、良いねぇ若い2人のプロポーズ話、とニコニコしているが。他の者達は、いつ言うかねぇ、と楽しみながらも悩む。
吟遊詩人ノートも、キュム、と両手を膝に置いて、拝聴の姿勢。
ニリヤが竜樹の抱っこから降りて、ノートに懐くと、ポムポムお膝を叩いて力づける。
「ぷろぽーず、がんばって。」
「は、はい、ニリヤ殿下。」
「頑張れ、ノートさん。」
「頑張って~!」
オランネージュとネクターも、椅子をガタガタ、ノートの側に持ってきて、ワクワク!と聞く。
何でも実現バーニー君は、ニン、としたまま見守りだし。
お天気ADコメット君は、携帯とカメラの話が後回しでも、全然良いよ、って感じでのんびり待っている。
竜樹は、口を出さずに、でも吟遊詩人と歌い手達で、きっとこれ、面白い事になるかな、何か危なそうな事だけ止めようね。と目をショボショボさせて、楽しみに。
そこで、事態を打開する、吟遊詩人少女シトロンちゃんの、邪気のないシンプルな発言。
「こいびとなんだから、プロポーズされたら、嬉しいに決まってるんじゃないの?私たちには、歌があるじゃない!明日の朝、お店がまだ開いてすぐの頃に、歌ってお花をあげたら、喜ぶっておもうな!混んでないでしょ?開いてすぐなら。お店のお客さんだって、一緒に喜んでくれるんじゃない?テレビも行っちゃえば!わーっ!って、お祝いなるじゃない?」
うふっ!
と少女の、結婚に対する夢いっぱいの提案に、元来イベントを盛り上げ創る側の、ノリの良い歌い手達は、そうかもー!?コロッと意見を変えた。
「私たちのカメラのお試しに、皆で撮影しちゃおうよ!誰が1番素敵に撮れたか、競争しない?」
「良いね良いね!テレビのプロカメラマンとも比べられるじゃん!全員がカメラじゃなくて、皆で歌ったの楽しかったし、後ろで囃そうよ!」
「電話使って、ひみつにそーっと皆で連絡とりつつ近づこう!忙しそうだったら、やめたら良いんだし!」
やろーやろー!わー!
ノート、やれぇえ!
「•••うぉおおお!やってやろうじゃん!」
ノートが煽られて、すっくと立ち上がり拳を握る。
「おかねのつかいみち、どするの?」
あ、ちゃんと聞いていたんだね、ニリヤ。合わせて、ぽちょん、と立って、ノートのズボンをタシタシ叩く。
そうだ、その報道を、仮にでもしておかないと、吟遊詩人ノートの身が危険だよね。
「ニリヤ殿下、まずは護衛が付く旨を、報道しておけば良いんじゃないですかね。使い途は貯金などではなく、寄付なども含めて、大体考えてあるそうです。位で、彼女さんと上手くいって、相談した後で放送してもね。」
バーニー君が、しゃがんでニリヤに目線を合わせて応える。
「俺もそれで良いと思うけど、寄付はするまで、予定を言わない方が良いよ。」
竜樹が、ちょい、と突っ込む。
「え、何でですか?」
ノートは、盛り上がる周りの歌い手達に、やったろか!したままの形で、不思議の顔である。
「俺の元いた世界ではさ。宝くじが当たったのだって、ウチに寄付して下さい!って勧誘が、バンバンくるって。好意を期待されて、知りもしない人に善意を強要される、しかも相手が本当にちゃんとした人かも分からない、そんなのに振り回されたくないじゃない。あと、奢ってよ、ってやたら言ってくる軽い関係の人にも気をつけた方が良いね。皆を黙らせる、なるほどな、って使い方しないと、奢ってくれないしケチ、って嫉妬されたり睨まれたりして。奢ればキリがないしね。金貨30枚にしたのだって、あんまり多くすると、身を持ち崩すかな、って事だったんだ。可能性を信じてない、殺すみたいで、ちょっと考えたりもしちゃったんだけど•••。だから、お金をちゃんと歌で儲けて、賞じゃなくカセットの売り上げで段々と、って、凄く嬉しいなって、吟遊詩人ドゥアーさんの案は、本当、良かったな~ってね。」
ふが。と顔を歪ませて、ノートは、そっか、そっかー、とニリヤの背中に手を当てて、そっと撫でる。ニリヤも、見上げて、心配そう。足にピタッとくっつく。
「お金沢山ある。って面倒な事いっぱいあるんだな。無いと困るけど、あっても困るのかぁ。」
「使い所、使い方なんですよ、ノートさん。お金で出来ることは、一杯ありますよ。貴方はこれから、音楽カセットの事やなんかで、お金を持つようになるかもしれない。使い方も勉強しなけりゃなりません。歌とお金の使い方、って、両立するのかも分からないですが•••そういった所は、銀の準優勝な、貴族のアマンドさんや、銅の3番賞で領地にぶっ込む事が決まっていて、領主教育もされた事がある吟遊詩人ドゥアーさんの方が、心配は少ないんですよね。どうか相談して下さいね。歌の競演会をやって、やりっぱなしで後はどうなっても良い、なんてやり方じゃ、来年から皆さん参加してくれないでしょうし、お祭りの話として後味悪いですからねぇ。」
バーニー君は、実家が厳しい商家の出だ。扱いを知らないのは本人の不勉強、が身に染みているだろうに。
だからこそか、金の怖さ、そして有用さを知っている。
大きいお金の扱いに不慣れだろうノートに、優しいのである。
「うんうん。自己責任、って言葉、俺、責任を周りが放棄するための、無責任な言葉みたいに思えちゃう。やりたいようにやってみれる、を勿論後押しもするし、色々やってみて成功も失敗する権利も当然あるんだけれど、良かったら是非相談に乗らせてね、ノートさん。」
竜樹もニリヤの頭を撫でて、大丈夫だよ、と笑って、ノートに手を差し伸べた。
「あ、ありがとうございます。助かります•••。」
ほえー、となってるノートが、今後どうなるかは、本人次第。
「じゃあ、明日のノートさんの撮影の為にも、携帯電話とカメラのお勉強をしましょうよ。」
「あぁ、学ぶべきだな、私達は。」
「一緒に歌う歌の練習も、したらいいね。」
貴族の歌い手達からそんな言葉も出て、さあ、ここは!とお天気ADコメット君が、ずい、と身を乗り出した。
「皆さん、携帯電話とハンディカメラの魔道具に興味を持って下さって、嬉しく思います!一緒に試しに触ってみましょう!私も持ってますし、やり方を知ってますから、何でも聞いて下さい!」
胸に手を当てて、ニッコリと。
「彼は、コメット君だよ。テレビのお天気のアシスタントディレクターさん。皆さんと電話で連絡を取り合って、今日は誰のお天気中継にしようか、だとか、今どんな天気?とか、密に付き合う人になるから、どうぞ、よろしくね。親切でお世話好きな、中々の好青年ですよ。」
「コメットです、どうぞ皆さん、よろしくお願いします。」
よろしくねー!
お願いします~。
口々の挨拶、挨拶。
「それでは、文字を読めない、書けない方っていらっしゃいますか?馬鹿にしたりしませんよ、皆さん文官じゃない、歌がお仕事なんですから。ただ、名前を登録して、交換して、に必要なので、まずは聞きました。もし分からなければ、絵文字ってやつを足して、区別をつけることも出来ます。安心して下さいね。最初の自分の名前を携帯電話に登録するのは、私が代わりにしましょうね。では、どうぞ教えて下さい?」
コメット君が見回すと、ハイ、と吟遊詩人の1人、ロペラが手を挙げている。
「あの、私、文字が全く読めない、書けないではないんだけど、簡単なのしか•••。」
俺も、私も、書けない訳じゃないけど。と小さく手を挙げる者も。
全く読めない者はいないらしい。
学校もない民の、吟遊詩人達でさえ、文字を知っているのは、情報のやり取りに必要だからか。
「凄い!皆さん優秀ですね!大丈夫ですよ、難しい文字は使わないです。じゃあ、テーブルを周りながら、お教えしていきますね。ゆっくりお話でもしながら、待ってて下さいな。」
コメット君が、吟遊詩人ノートのテーブルから周っていく。
竜樹が元いたテーブルの、バラン王兄や、その婚約者のパージュさんも携帯電話をもらって、オランネージュに教わりながら、ポチポチ、自分の名前を登録している。そして何事かをネクターから聞いて、んん!?と興奮。
「何!?自分で、ちゃくしんめろでぃー?を作曲、登録できるだって!?」
んん!?
耳ダンボな歌い手達、落ち着いて落ち着いて。バラン王兄も、本筋の所と別な部分で興奮しないで、落ち着いて下さい。
緊張の失神から銅の3番賞を獲った、吟遊詩人ドゥアーは、幸せにふわふわしながら、満腹だし、先輩吟遊詩人の遠くの土地の話などを、うんうんと聞いていた。
同じテーブルの、貴族の歌い手、強靭な声はバリトン、エラブルがコクリと一口お茶を飲み、ドゥアーに、ちょいちょい、と手招きする。
先輩吟遊詩人も、んん?と顔を寄せて、そのテーブルの皆で、何となくエラブルに顔を向けて。
「それにしてもだな、ドゥアー君。地方に伝わる、歌の音楽カセットを出すにしても、その•••3番賞で出せる分の、1本だけなのかな?•••私は、地方の歌を好きで、楽譜に書き起こして集めているのだけど、本当に色々、選びきれない!ってほど、素敵な曲が、あるだろう?」
イジイジ、と言いたい事はそれだけじゃないだろう含みをもって、カップを弄るエラブルである。
「あーっそう、そう、地方神殿に伝わる歌では、中々勇壮な叙事詩があったりもするのだな。労働歌や弔い歌、祝い歌に祭歌だけではなくて、そういったものも、カセットにできればなぁ。」
英雄譚や歴史的な事件を好んで歌う、オジサン吟遊詩人ヒストリクが、ふぬぅ~む、と唸る。
「叙事詩はまた、別の括りの方が良いだろうよ。そのぉ、もし、もし、よろしければなのだが、私の、その、地方の歌の楽譜を使ってくれないかなと•••。何、礼は、もし、もし、これも良かったらなのだが!これからの郷土歌の収集選抜録音に、手助けさせてもらえないかな、って!その、タダでやりたい位だが、そうすると責任が取りにくいから、ほんの少しのお代でやるんでだなぁ!」
もじもじ、もじ。
エラブルは胸筋バンとした、立派な体躯全体が楽器のようなのに、小ちゃくなってカップをイジイジ。
「あーっ待って下さらない!?ズルいですわ、私も興味ありますわよ!?地方の歌!」
「私だって!!」
貴族の歌い手、吟遊詩人関わらず、そして吟遊詩人ドゥアーのテーブル以外でも話が飛んで、私も俺も、僕も私も、とワヤワヤ、ドゥアーの周りに人が集まってきた。
皆。歌が大好きなんだ。
そして、貴族の歌い手達だって、ステージを求めて、地方を回るのだ。
そこの歌を尊重しない、なんて事、ある訳なかったのだ。
ニコニコしているドゥアーの周りは。そりゃあ少しは、音楽映像カセットそのものに興味もあるだろうが、歌そのものが大好きで、大好きで、地方の歌のカセットを作るのに、ただ関わりたいという者達が集まって。
「パシフィストの地方歌、シリーズで地方ごとに出ちゃったりもするかもしれないね。ドゥアーさん大人気だ。」
コシ、とお目々を擦ったニリヤを、再び抱き上げた竜樹は。吟遊詩人ドゥアーのテーブルの賑わいを、ショボショボニコリ、見ていた。
歌バトル、歌の競演会を経て、ここに歌い手達は心集い、協力して、お天気中継や地方音楽のカセットを作っていくのだ。
お天気AD、コメット君が皆と電話連絡を取るけれども、今教えているテーブル内の歌い手達全員で、電話番号の交換をしていて、新しくテーブルを周る毎に、ワワワと交換が広がる。
歌い手達で、情報交換共有の、電話連絡網が出来たようなものなのだ。
それはどんな情報を、歌い手達にもたらすか。このパシフィスト、世界に、竜樹に、3王子に、そしてご家族に届ける事になるのであろうか?
自由で何ものにも囚われない、特派員が一気に出来たような状況でもあろう。
「ノートさ、と、おはなし、できぅ。ね、ししょう。あした、ぷろぽずね。ぼくも、いく?」
ムニムニ、とニリヤはおねむ。竜樹の胸に顔を擦り付けて。
キャリコ少年は、竜樹の隣で椅子を持ってきて座って、賑やかな歌い手達を、どんな気持ちで見ているのだか、瞳がゆらゆら、気持ちの動きが、ゆらゆら。
「時間が早いから、テレビで生放送見てようよ、ニリヤ。朝のニュースでやるよ、ノートさんの求婚♡大作戦はさ。お花間に合うのかな、早朝でお花屋さんてやってるかね。」
「王宮の庭のお花を貰えるように、今夜の内に申請をしておきますね。花屋も早起きですけど、王宮の庭師も、きっと多分、凄く早起きですよ。」
バーニー君が言って、竜樹の座る椅子の背に手を当てて、ふゎ、と欠伸をした。
「これで第一日目だっていうんですからねぇ。盛りだくさんですよ、ほんと。」
「つかりたねぇ、•••バーニーくん。ぼく、あしたも、がんば•••。」
•••くたり。
す、す。すすぅぅ。
お顔がコックリと伏せて、ふすー、と鼻から息が深く、出たかと思えば。竜樹の胸に取り縋って、ニリヤはもう限界、寝てしまった。
「寝ちまったか。機嫌は少しは直ったかねぇ。」
護衛のマルサ王弟が、腕を組んでニリヤを覗き込む。
「厳しくして嫌われちまったかなぁ。仕方ないんだが。俺は、竜樹やノートみたいに、別の良い方法、って中々思いつかないしよ。」
ノートと王子直通電話はダメ!のお叱り。叱る方だって、良い気持ちはしないのである。何でも良いよは、そりゃ楽で、好かれもしようが、それって愛情じゃないのだ。
「大丈夫だよ、マルサ。明日はまた、ニリヤにとっても、良い日になるよ。ちゃんと自分の事を考えてダメな時はダメって言ってくれるマルサ叔父様を、嫌いになる訳ないよ。分かるんだ、子供だって、そういう事は。」
「そうだと良いがなぁ。」
照れて、ぽりぽり頭を掻く。
「竜樹様。明日はまた波瀾万丈ですよ、竜樹様は。とりあえず、今日もまだ、ちょっとした、ごちゃごちゃしたお知らせがあります。」
バーニー君が、口だけ笑って、目が笑ってない。
そうだ、バーニー君だって携帯電話の使い方教えられるじゃないか。なのに竜樹に付いている、という事は、ええと。
・・・。
ええ、えええ?なんかやだな。
「•••バーニー君、ごちゃごちゃしたお知らせって。」
ナ、ナニカナ。
ニカッ。
「テレビ、ラジオのお試し見学2次試験。あの、問題多き令嬢が、幾らか騒動を起こしたそうですよ。」
「あの、令嬢って。クピド様かな、もしかして。」
正解、ドーン。
両手の人差し指をピッと横に、フリ!とポーズをとったバーニー君は、スタッと腕を戻して、組んでニヒルに笑う。
「彼女が、竜樹様のお説教位で黙ってる訳はない、と思ってましたけど、案外、案外な結果にもなったんですよね。これって、障がいを持った人たちも働いてもらおう、って決めた竜樹様の、何ていうか、人徳もあるかと思いますけども。」
クピド・ライサンダー嬢。
ライサンダー伯爵の娘。
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物事を解決(しようとはするが解決はしない)の方法が、独りよがりで子供っぽく、結果に無責任な彼女。
そして、この度、何故かテレビ、ラジオの採用試験に応募してきた。
ふっくらした薔薇色の頬に唇。
いたずらっ子じみた得意げな表情が、竜樹の脳裏で、無邪気に小悪魔的に笑っている。
その、何か良い案を思いついた!は、周りにとって面倒でしかないから!
一体、障がいがある人たちが、何を?クピド嬢に?
「ルジュ侯爵家クラシャン嬢。ーーー聴覚障がいがある、彼女が、暴走したクピド様を止めて、叱って、迷惑をかけたお客様に謝って、場を納めてくれたんですよ。」
竜樹様は、こういう結果を見通していたんですか?
バーニー君は言うけど、竜樹は神様じゃあるまいし、そんな訳ないだろう。
けど、俄然、報告を聞きたくなってきたな。
「聞きましょう、バーニー君。クピド様が、クラシャン嬢が、どうしたって?」
ーーーーーーーー
昔、私は、クリームシチューに牛乳を入れなかったのです。
ルーの箱の作り方をよく見てなかったし、牛乳が勿体なく、入れなくてもクリームっぽいシチューの味にはなる。
けれど、ちゃんと入れたら、超美味しいじゃん。
と言う事で、現在は。
料理が物凄く上手い訳ではない人が作るなら、我流で好きに作るより、説明書通り、レシピ通りに作るのが一番美味しいと思っています。
以前、コクを足す為に生クリーム入れるわよ、と主婦の方から聞いた事もありますが、それは上級者。
今日もシチューでした。昔の給食のやつみたいに、ミックスベジタブルも入れました。うま。
小ネタはおいといて、いつも読んで下さりありがとうございます。箱に物語の書き方説明書は書いてないので、勉強不足で基礎も分からず、我流も極まるこの小説ですが、書きたい気持ちを胸に、とにかく日々ちょっとした話をお届けする事を念頭に。それを、毎日読んで下さっている方がいると思うと、やる気が出ます。ハートや応援なども、ありがとうございます。
3王子やちみっこたちがなかなか出ない時もあるんですが、彼等なしには立ち行かないこのお話、今後ともよろしくです。
(o^^o)
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人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
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