王子様を放送します

竹 美津

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本編

金の優勝者は

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司会のパージュさんが、審査員からのメダル獲得数を発表してゆく。

「吟遊詩人、ドゥアー!メダル獲得数120枚!」
わっ!
緊張で失神、皆の力と工夫で勇気を取り戻し、故郷を思う歌を歌ったドゥアーも、なかなかの好成績である!
観客席からも、歓声が上がる。
ドゥアー自身も、中々の良い結果に、ふわ、と嬉しそうな表情で、胸に手を当て一礼した。
サラリ、と視線を隠す前髪が揺れて。その穏やかで、でも、若さと情熱と、やりきった清々しさをもった瞳が見えた時、キャアッ!と裏高い声も聞こえて。

「歌い手、アマンド!58枚!なかなか接戦です、吟遊詩人アラシド、54枚!」

審査員達は8名であるから、800枚のメダルが振り分けられて発表される。
審査員によっては、この人もいいし、あーあの人も、と沢山に振り分けて。この人とこの人と、この人!と3等賞までを考えて3人にだけ割り振った人もいる。
ハルサ王様は、3等賞まで3人に振り分けた。全員、予選を勝ち抜いたのだから、一定以上の素晴らしい歌い手なのであるが、その中でも!と、賞を決める責任感をもって選んだのである。

ネクター王子は反して割合に人情家で、誰からも入ってない人がいたら、ヤダな•••という考えで、長考していたのだけれど。

マルグリット王妃様に。
「素直に、この人が良かったな、っていうのに入れたら良いのよ。皆、一生懸命に心も技も尽くして歌ったのだから、ただ、可哀想だからといってメダルをもらったら、それは、プロに対する評価として、どうなのかしら?貰えなかった人が、来年、またやるぞ!って事もあるでしょう?誇り、ってこと、考えてみてね。」
と言われて、ハッとして、ふす!と鼻から息を吐いて。
重々真剣に、でもやっぱり3人には決められず、6人ほどに入れた。

オランネージュは4人に、ニリヤはどーんと1人に全部!である。いっぱい歌ったから、誰いい?この人!って印象深い人しか頭に浮かばなかったのである。

審査員のメダルは、貰えたら誇りだけれど、観客からのメダルの方が多い。ウケが良かった、とハッキリ順位が出るけれど、だからといって、どの歌い手も吟遊詩人も、観客の誰からもメダルが入らない、などという事はないだろう。
分かりやすく大勢にウケなくても、ああ私はこの人を応援したい!と、味があり癖もある、主役になりきれない歌い手を推す者も、大勢の投票者がいれば必ず出てくる。

「それでは、続きまして、観客席の皆様からのメダル獲得数を発表します!こちらは、並んだ順に、端から、重さを計る魔道具に載せて枚数を出していきます!載せれば枚数が出る魔道具計りの製作は、王都でも老舗の有名店、魔道具フレジエが担当致しました!」

ゴロゴロと運ばれてきた魔道具は、昔懐かしいお風呂屋さんにあるような体重計の形をしている。と分かるのは竜樹だけだけれど。
重さを計る台に、ぐるりと針が回って、メダル何枚か、数が出るようになっている。目盛は1枚から、そして上は500枚まで。それ以上の枚数の場合、1回転、2回転をして、数字が1000、1500と表示が変わるようになっている。
まあ、記念の腕輪販売数の全体が2500個程であるので、そうは何回転もしない事であろう。•••会場にいる観客数は、5000人位であるから、その中の2500は、かなり販売できた事になる。そして記念の腕輪は完売したそうである。

重い投票箱は、各出場者の写真が貼ってある。えっちらおっちら、スタッフ達が、出場者の前に箱を持ってくる。

「では、参ります。•••歌い手ベラヴェッカ、メダルの枚数は88枚!吟遊詩人エキュメ、62枚!」

結果というのは残酷である。
誰が1番枚数が多くて、誰が1番少ないか、如実に分かってしまう。
出場者の誰もが魅力的な歌を歌ったというのに。けれど枚数の少ない出場者達は、しょんぼりした顔などしていなかった。
そりゃあ悔しい。だけれど、これだけ大人数に聞いてもらえて、そして、同じ歌い手と歌いあったら分かる。人気がある奴の歌は、やっぱり飛び抜けて、凄かったと。

そして、50枚以下のメダルの者はいなかった。
50枚。記念腕輪は、1つ銀貨3枚で販売した。つまり、銀貨150枚分以上の応援を受けた事になる。普段それだけの出演料やお代をもらう事はない。けれどこの大舞台で、それだけの金を、気持ちを、動かす力があったのである。

ここでも、吟遊詩人ノートは人気で、745枚のメダルを獲得していた。賞される方も。そして票を入れた方も、わくわくしている。
今までこんな風に、ハッキリと応援の数が分かるやり方をした事はないし、それに自分が関係できる事もない。自分の1枚が、推した人の成績になる。結果は興奮をもって。


「最優秀の金の優勝者は。」

しん、と静まる。

「吟遊詩人ノート、総メダル獲得数871枚!おめでとうございます!ノートさん、第1番に歌って、そのまま1番を走り抜けました!」

ワァァァァァア!!!
拍手喝采。
嬉しさに頬綻ばせ、感激に瞳を潤ませたノートが、会場の皆の拍手に応えて手を上げて、胸に戻し。
ぽろり、と溢れた涙に、ぎゅーッと拳を握りぐぐぐっと力を込めて、そして、わっと飛び上がって喜びを表現した。

銀の準優勝は、歌い手麗しのアマンド、銅の3番賞は、何とドゥアーが貰う事になった。アマンドは、審査員メダル獲得数はドゥアーに負けたものの、観客からの票が、その高い歌声の魅力と選曲の良さもあって、多数を集め、抜いた形になった。ドゥアーは失神からの復活と印象的であったが為に票を集めたが、それでも3番手、というところは、まだまだ駆け出し、歌の実力がハッキリと出たのだろう。これからに期待の未熟さが、また魅力で皆推したのでもあろうし。

優勝ではなかったけれど。
ドゥアーもほこほこと、とても嬉しそうな顔をして、ノートに拍手を送っている。
父親のエール子爵ブリックは、感激して泣いて泣いて泣き崩れて、息が苦しくなっている。妻のイーグレットに、満々の笑顔で背中をさすられて。
本当に賞を獲るなんて。
厳しいフリはしていたけれど、その分ヒヤヒヤと心配していた、一人息子を手放せない、本当は弱い父なのである。

金の優勝者、吟遊詩人ノートに、ハルサ王様が最優秀金賞の首から下げる、装飾も美しい金メダルをかけた。
マルグリット王妃様からは、コロンとした、片手で持てるくらいの小さな色とりどりの薔薇と小花のブーケが渡された。後に、お高い保存用ケースに入れて保管もできるようにしてもらえる。

トロフィーって、嵩張るし、家がないかもしれない吟遊詩人達には、持ち歩きしにくいよね。と竜樹が言ったので、メダル方式になった、という経緯がある。薔薇のブーケも、メダルも、貴族の歌い手も吟遊詩人も、持ち歩きでき歌う場に身につけ飾って、今後、賞とったよ!とアピールしながら活動する事ができる。それは何とも箔がつき、実入りも増える事だろう。

銀の準優勝アマンドも、銅の3番賞ドゥアーも、銀メダルと銅メダルを王様にかけてもらい、晴れがましく、吟遊詩人ノートと共にステージの中央で会場に手を振った。

「金賞のノートさんには、賞金として、金貨30枚が贈られます。大金ですから、後ほど、冒険者組合の口座に入金でお渡しする形です。今は、証の、プレートをお渡ししますね。賞金が少ないのではないか?とお思いの方もいらっしゃいますかね。これほどの会場を沸かせたのですもの、と。そこで、急遽、審査員達と竜樹様とで会議が行われまして、なんと!金銀銅の3名には、それぞれ音楽の映像カセットを作っていただけて、その売り上げの半分を、お渡ししようという事になりました!」

ふワァァァァァア!
ノートもアマンドも、目を見張る。
音楽カセットまで作ってもらえるのだ。儲かるかは分からない。いや、これだけ話題になれば、売り上げは約束されているだろうか?

「吟遊詩人ドゥアーさんには、音楽カセットのアイデアをお借りする許可をいただきまして、了承を得ております。そして賞も獲られて、これで1つの夢が、叶いますね。それでは、金の優勝を獲られました吟遊詩人ノートさんに、もう一度歌って頂きましょう!歌は、『実りの時に』です。どうぞ。」

感激して、金賞を受賞したノートの声が上擦り、震える。会場も、感激して涙を流す者も。
それでもノートは、明るく楽しく、時に切なく、歌の後半になるほど力強く歌いきった。
ありがとうございます、という声がまた震えて、く~っ、と涙を拭うのが、大画面に大映りになった。

竜樹も、キャリコ少年と観客席で拍手をしながら見ていて、う~んレコード大賞っぽい。と思っていた。

さて、来るであろう。
来るであろうな、ミュジーク神様が。

眠りの呪い、タイラスの母ミモザ夫人と、その婚約者ポムドゥテール嬢の母ラシーヌ、家族達も勿論、賞ににこやかに拍手を贈りつつ、さあ、さあ、と緊張していた。

ーーーーー

少し11月入りましてお休みいただきました、竹美津です。
また、週休2日くらいを目指して更新して参りますので、どうぞよろしくお願いします。
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