500 / 527
本編
金の優勝者は
しおりを挟む司会のパージュさんが、審査員からのメダル獲得数を発表してゆく。
「吟遊詩人、ドゥアー!メダル獲得数120枚!」
わっ!
緊張で失神、皆の力と工夫で勇気を取り戻し、故郷を思う歌を歌ったドゥアーも、なかなかの好成績である!
観客席からも、歓声が上がる。
ドゥアー自身も、中々の良い結果に、ふわ、と嬉しそうな表情で、胸に手を当て一礼した。
サラリ、と視線を隠す前髪が揺れて。その穏やかで、でも、若さと情熱と、やりきった清々しさをもった瞳が見えた時、キャアッ!と裏高い声も聞こえて。
「歌い手、アマンド!58枚!なかなか接戦です、吟遊詩人アラシド、54枚!」
審査員達は8名であるから、800枚のメダルが振り分けられて発表される。
審査員によっては、この人もいいし、あーあの人も、と沢山に振り分けて。この人とこの人と、この人!と3等賞までを考えて3人にだけ割り振った人もいる。
ハルサ王様は、3等賞まで3人に振り分けた。全員、予選を勝ち抜いたのだから、一定以上の素晴らしい歌い手なのであるが、その中でも!と、賞を決める責任感をもって選んだのである。
ネクター王子は反して割合に人情家で、誰からも入ってない人がいたら、ヤダな•••という考えで、長考していたのだけれど。
マルグリット王妃様に。
「素直に、この人が良かったな、っていうのに入れたら良いのよ。皆、一生懸命に心も技も尽くして歌ったのだから、ただ、可哀想だからといってメダルをもらったら、それは、プロに対する評価として、どうなのかしら?貰えなかった人が、来年、またやるぞ!って事もあるでしょう?誇り、ってこと、考えてみてね。」
と言われて、ハッとして、ふす!と鼻から息を吐いて。
重々真剣に、でもやっぱり3人には決められず、6人ほどに入れた。
オランネージュは4人に、ニリヤはどーんと1人に全部!である。いっぱい歌ったから、誰いい?この人!って印象深い人しか頭に浮かばなかったのである。
審査員のメダルは、貰えたら誇りだけれど、観客からのメダルの方が多い。ウケが良かった、とハッキリ順位が出るけれど、だからといって、どの歌い手も吟遊詩人も、観客の誰からもメダルが入らない、などという事はないだろう。
分かりやすく大勢にウケなくても、ああ私はこの人を応援したい!と、味があり癖もある、主役になりきれない歌い手を推す者も、大勢の投票者がいれば必ず出てくる。
「それでは、続きまして、観客席の皆様からのメダル獲得数を発表します!こちらは、並んだ順に、端から、重さを計る魔道具に載せて枚数を出していきます!載せれば枚数が出る魔道具計りの製作は、王都でも老舗の有名店、魔道具フレジエが担当致しました!」
ゴロゴロと運ばれてきた魔道具は、昔懐かしいお風呂屋さんにあるような体重計の形をしている。と分かるのは竜樹だけだけれど。
重さを計る台に、ぐるりと針が回って、メダル何枚か、数が出るようになっている。目盛は1枚から、そして上は500枚まで。それ以上の枚数の場合、1回転、2回転をして、数字が1000、1500と表示が変わるようになっている。
まあ、記念の腕輪販売数の全体が2500個程であるので、そうは何回転もしない事であろう。•••会場にいる観客数は、5000人位であるから、その中の2500は、かなり販売できた事になる。そして記念の腕輪は完売したそうである。
重い投票箱は、各出場者の写真が貼ってある。えっちらおっちら、スタッフ達が、出場者の前に箱を持ってくる。
「では、参ります。•••歌い手ベラヴェッカ、メダルの枚数は88枚!吟遊詩人エキュメ、62枚!」
結果というのは残酷である。
誰が1番枚数が多くて、誰が1番少ないか、如実に分かってしまう。
出場者の誰もが魅力的な歌を歌ったというのに。けれど枚数の少ない出場者達は、しょんぼりした顔などしていなかった。
そりゃあ悔しい。だけれど、これだけ大人数に聞いてもらえて、そして、同じ歌い手と歌いあったら分かる。人気がある奴の歌は、やっぱり飛び抜けて、凄かったと。
そして、50枚以下のメダルの者はいなかった。
50枚。記念腕輪は、1つ銀貨3枚で販売した。つまり、銀貨150枚分以上の応援を受けた事になる。普段それだけの出演料やお代をもらう事はない。けれどこの大舞台で、それだけの金を、気持ちを、動かす力があったのである。
ここでも、吟遊詩人ノートは人気で、745枚のメダルを獲得していた。賞される方も。そして票を入れた方も、わくわくしている。
今までこんな風に、ハッキリと応援の数が分かるやり方をした事はないし、それに自分が関係できる事もない。自分の1枚が、推した人の成績になる。結果は興奮をもって。
「最優秀の金の優勝者は。」
しん、と静まる。
「吟遊詩人ノート、総メダル獲得数871枚!おめでとうございます!ノートさん、第1番に歌って、そのまま1番を走り抜けました!」
ワァァァァァア!!!
拍手喝采。
嬉しさに頬綻ばせ、感激に瞳を潤ませたノートが、会場の皆の拍手に応えて手を上げて、胸に戻し。
ぽろり、と溢れた涙に、ぎゅーッと拳を握りぐぐぐっと力を込めて、そして、わっと飛び上がって喜びを表現した。
銀の準優勝は、歌い手麗しのアマンド、銅の3番賞は、何とドゥアーが貰う事になった。アマンドは、審査員メダル獲得数はドゥアーに負けたものの、観客からの票が、その高い歌声の魅力と選曲の良さもあって、多数を集め、抜いた形になった。ドゥアーは失神からの復活と印象的であったが為に票を集めたが、それでも3番手、というところは、まだまだ駆け出し、歌の実力がハッキリと出たのだろう。これからに期待の未熟さが、また魅力で皆推したのでもあろうし。
優勝ではなかったけれど。
ドゥアーもほこほこと、とても嬉しそうな顔をして、ノートに拍手を送っている。
父親のエール子爵ブリックは、感激して泣いて泣いて泣き崩れて、息が苦しくなっている。妻のイーグレットに、満々の笑顔で背中をさすられて。
本当に賞を獲るなんて。
厳しいフリはしていたけれど、その分ヒヤヒヤと心配していた、一人息子を手放せない、本当は弱い父なのである。
金の優勝者、吟遊詩人ノートに、ハルサ王様が最優秀金賞の首から下げる、装飾も美しい金メダルをかけた。
マルグリット王妃様からは、コロンとした、片手で持てるくらいの小さな色とりどりの薔薇と小花のブーケが渡された。後に、お高い保存用ケースに入れて保管もできるようにしてもらえる。
トロフィーって、嵩張るし、家がないかもしれない吟遊詩人達には、持ち歩きしにくいよね。と竜樹が言ったので、メダル方式になった、という経緯がある。薔薇のブーケも、メダルも、貴族の歌い手も吟遊詩人も、持ち歩きでき歌う場に身につけ飾って、今後、賞とったよ!とアピールしながら活動する事ができる。それは何とも箔がつき、実入りも増える事だろう。
銀の準優勝アマンドも、銅の3番賞ドゥアーも、銀メダルと銅メダルを王様にかけてもらい、晴れがましく、吟遊詩人ノートと共にステージの中央で会場に手を振った。
「金賞のノートさんには、賞金として、金貨30枚が贈られます。大金ですから、後ほど、冒険者組合の口座に入金でお渡しする形です。今は、証の、プレートをお渡ししますね。賞金が少ないのではないか?とお思いの方もいらっしゃいますかね。これほどの会場を沸かせたのですもの、と。そこで、急遽、審査員達と竜樹様とで会議が行われまして、なんと!金銀銅の3名には、それぞれ音楽の映像カセットを作っていただけて、その売り上げの半分を、お渡ししようという事になりました!」
ふワァァァァァア!
ノートもアマンドも、目を見張る。
音楽カセットまで作ってもらえるのだ。儲かるかは分からない。いや、これだけ話題になれば、売り上げは約束されているだろうか?
「吟遊詩人ドゥアーさんには、音楽カセットのアイデアをお借りする許可をいただきまして、了承を得ております。そして賞も獲られて、これで1つの夢が、叶いますね。それでは、金の優勝を獲られました吟遊詩人ノートさんに、もう一度歌って頂きましょう!歌は、『実りの時に』です。どうぞ。」
感激して、金賞を受賞したノートの声が上擦り、震える。会場も、感激して涙を流す者も。
それでもノートは、明るく楽しく、時に切なく、歌の後半になるほど力強く歌いきった。
ありがとうございます、という声がまた震えて、く~っ、と涙を拭うのが、大画面に大映りになった。
竜樹も、キャリコ少年と観客席で拍手をしながら見ていて、う~んレコード大賞っぽい。と思っていた。
さて、来るであろう。
来るであろうな、ミュジーク神様が。
眠りの呪い、タイラスの母ミモザ夫人と、その婚約者ポムドゥテール嬢の母ラシーヌ、家族達も勿論、賞ににこやかに拍手を贈りつつ、さあ、さあ、と緊張していた。
ーーーーー
少し11月入りましてお休みいただきました、竹美津です。
また、週休2日くらいを目指して更新して参りますので、どうぞよろしくお願いします。
45
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
修学旅行のはずが突然異世界に!?
中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。
しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。
修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!?
乗客たちはどこへ行ったのか?
主人公は森の中で一人の精霊と出会う。
主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。
女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。
※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。
修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。
雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。
更新も不定期になります。
※小説家になろうと同じ内容を公開してます。
週末にまとめて更新致します。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる