王子様を放送します

竹 美津

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本編

気象風船はギフトの御方様案件

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「竜樹様。マルサ殿下。オランネージュ殿下。ネクター殿下。ニリヤ殿下。•••皆様、よろしいですか。それでは、気象風船魔道具、打ち上げまで、あと10。」

ワクワク、と魔道具を取り囲む3王子は、注意をしてもしても、にじにじしゃがんで近寄ってしまい、竜樹とマルサ、タカラとミランに、肩を抑えられている。
邪魔しちゃめーよ。

まだ街中ではなく、王都の外の草原で。夏の終わり、天高く、空気が少し冷んやりし出した頃。
上手くいった試作38号を更に調整し、一応これでいってみよう、の形となった気象風船魔道具と魔法陣を広げて、トレモロとテクニカは配置に付く。
トレモロはモニターを、小さなテーブル置いてセットして、しゃがんでカメラ映像録画を確認。テクニカに頷き、2人で発射台に魔道具をカチリと留めて、数を数え始める。

周りには、竜樹達だけではない。
開発部3人衆に、おやっさん。
試作に手を貸してくれた、風魔法に造詣が深い、同僚のロワズィや、魔法使い達。
それから、空気砲の風魔法陣を、応用すれば色々使えるよ、と竜樹のアイデアに触発されて集まった魔法院の面々。チリ魔法院長も、何でも実現バーニー君もいる。
天気予報と風魔法の応用に、期待を寄せるお助け部隊偉い人達。
魔法院経理部の女の子達まで、休みをとって、見にきてくれた。
鑑定師のレスピオ兄が、ソワソワふわふわした青ざめた表情で見守っている。
今日は1人で来られなかったようで。気象鑑定師を引き受けずに、今は虫の鑑定でキャッキャと楽しくやっている、弟のマジェスティが、ニンマリして背中をバンバン叩いている。

トレモロの。
一部から馬鹿にされていた、トレモロの。
皆に助けられながらも、自分の仕事として精魂込めた。

「8。7、6、5。」

見習いだったテクニカ少年の、初めての仕事が。

「4、3。」

その時、走ってこちらにやって来る女性に男性2人。流し目も眠たげなままだが、それはデフォルトなのだろう、トレモロを事務のおじさんと呼んでいた、魔法院のフゼア。賛美者のドロワ、ゴーシュが、焦って打ち上げに間に合わせようと駆け寄るが。
まだ、研究室2つ分程も離れている。

「ま、待ってよ!私も、わ、私!」
「お、俺たちも!」
「風魔法、見たい•••!」

「2、1」

「発射!」

シュバババッ!



ヒュルルルルルルリルリルラル~


サッ、と風船打ち上げに合わせて天を向いた3王子が。ふわぁ、とお口を開けて、みるみる点になる魔道具を、ほち、ほち、と瞬いて額に手をかざして見て。

「あがった!」
「風船、あがったね!」
「やったね!やった!」

「3人とも、トレモロさんのお邪魔をしないように、モニターをご覧よ。」
竜樹も上を見上げていたが、パッカンと開いた3王子のお口を、ふふは、と笑って、おいでおいでした。
周りの人達、皆がお口を開けていたのだけど、3王子が跳ねてモニターに近づくのに便乗して、どわどわ、とトレモロに近寄った。

きゅううううう、と映像が草っ原から王都を俯瞰で、高度を上げながら映してゆく。

「ふわぁぁぁあ!」
「すごいすごい!」
「街って、こうなってるんだね!」

「後で録画を見たら、殿下達が立っていて、そこからどんどん小さく映って上がるのが見られますよ。」
モニターから目を離さず、トレモロが言うので、3王子は興奮に堪えきれなくなって、わーいわーい!ふうせん、あがった!てんきよほう、できる!くも、うちゅう、みられる!とぴょんぴょんした。
周りの大人達は、ふぅおお、おおお、と感嘆しきり。

「上手く風を調整したもんだね!」
「竜樹様が言う通り、これ、空を飛ぶ魔道具が色々作れちゃうかもね!!」
ニマニマしているチリ魔法院長は、新しく面白い仕事が出来そうで嬉しいのか。バーニー君はチラッと面倒くさい事を言ってきそうなチリ魔法院長を見ながらも、やはり興奮して頬赤く。

トレモロの、空気砲の、応用で。
魔法使い達や、開発部、お助け部隊の偉い人の皆が沸く。
経理部の女の子達は、拍手でキャア~すごい~!と小声で邪魔しないように歓声だ。

トレモロの目尻が笑う。モニターからは、目を離さない。テクニカが、トレモロの横にピッタリ付く。感動に、得意な気持ち2割、最後まで失敗しないで上がるかに、心配5割、これからの仕事のワクワク3割で、瞳がキラキラしている。
少年の夢みる情熱の瞳とは、なんと綺麗なものだろうか。
そして、おじさんの、少し寝不足の瞳だって、やっぱりキラキラなのだ。

「酷い!私、ま、待ってって言った!打ち上げちゃうなんて、もっと近くで見たかった!」
フゼアが、足を草っ原にダンダン踏みならしながら近づいて、トレモロに文句を言う。
賛美者ドロワとゴーシュは、日頃の運動不足か、ひいはあ息を荒くして、それでもモニターを必死で覗き込む。

呼んでもいない3人の為に、打ち上げ待てない、とはトレモロは言わず、ごめんねー、と軽く謝った。
フゼアは一応気がおさまったのか、口をムンとしたまま、黙って人集りの隙間からモニターを見詰めている。

風船に空気砲の後押しがあるので、1時間位で高度は上がりきる。
大きくお国の、そして細かく地方ごとに天気予報をするには、高度を高くと低くとで、幾つも上げて精度を上げるべきだろう、とは話し合っている。だが、まあ、今日まずはお国全体の天気予報を、宇宙を、と高度を高くとる予定だ。

「さて、1時間、お茶でもしながら待ちましょう。私は見ていますので、そろそろ見所になったらお知らせします。」
トレモロが言うと、ホワッと皆の緊張が緩んだ。
冒険者魔法使いの、事故保守担当アクチェが、ふへへ、やったな、と小さく言ってトレモロとテクニカを見たが、誰にも聞こえてはいなかった。

お助け侍従のタカラが、3王子と竜樹に折りたたみの椅子を出す。でも3王子はモニターの映像に食いつき過ぎ、目が離せないらしくて、お目々がでっかくなりながらトレモロににじにじ近づいていく。

「お邪魔しないんだよ、オランネージュ、ネクター、ニリヤ。でも、面白いねぇ。見ちゃうねぇ。」
竜樹が笑って、椅子に座ってお茶を貰い、手を温めて。

「ウン。みちゃう。」
「面白い~!」
「騎士団とか大喜びするんじゃない、これ。天災の救助活動にも使えるし、他国の上空からを知れば、軍隊の配備とか丸わかりだしさ。」

ギフトの御方様関連で争いを放棄しているパシフィストにも、国同士のいざこざに備える騎士団、軍はあるのである。戦争とまではいかなくても、備えないでも良い平和は、まだまだ人のある所、夢物語であるだろうか。国の難に救助活動をするための力も、持たない訳にはいかないし。
オランネージュが、上空からの俯瞰図を、そんな争い事の技術として、他国に先んじるお得に気づいて触れると。

フゼアが、サササカサカ!と竜樹の側に寄ってきて。
「竜樹様!私はフゼアと申します!オランネージュ殿下の仰る通り、この技術は我が国の軍を、一歩他国より先に、有利な状況に置く事が出来ます!私は火魔法の大規模発火の研究をしています!私にこの、気象風船魔道具から派生した飛行具の案をお任せ下されば•••!」
ゴーシュとドロワも、ワタ、ワタワタ、私も!と勢い込んで。

竜樹は、ショボショボ、と目を瞑って、落ち着いて。すす、とお茶を啜る。

「フゼア。ドロワ、ゴーシュ。空気砲の魔法陣とか風関係の、気象風船魔道具から派生するもの諸々はね。ギフトの御方様案件だからね。」
トレモロが、目をチラッと3人に配って、ふっ、とモニターを見つつ刺す。

「平和利用以外には、使えないっていう魔法誓約を、もう他国とも調整してるんだ。調停者、エルフのリュミエール王にも通達してあるから、もう絶対そうなる。他国も平和利用する限りは、幾らか、高くも低くもない、見合うお代になるものを払えば、この知識や技術を手に入れられるし、これでどの国も、お天気の苦労が今までよりもっと」

「アンタ何自分の魔法の価値下げてんのよ!?平和利用なんて誰でも使えちゃ、安売りじゃない!軍に持っていけば、もっと高く、この国で待遇も、地位も•••!」
フゼアはトレモロに激しく叫ぶ。
ドロワとゴーシュは、むぐ、と口をつぐんで、トレモロと、お茶を落ち着いて飲み続ける竜樹を見て。

「安売りねぇ•••。」
竜樹は、呟くと、お、茶柱立った、とカップを覗き込む。
「トレモロさんは、お金とか、地位とか、待遇とか、それらを低く見てる訳じゃないだろうけどさ。それらはほどほどで良くて、平和利用に安売りする事で、もっと良いもの手に入れたんだよね。」
ニコニコ、と竜樹が笑うと、トレモロも、ニッコリして頷く。

「竜樹様が、気象風船を教えてくれたんだ。だからギフトの御方様案件なのは、当然だし。私は欲しいものを手に入れてるよ。一生を捧げられる仕事を、もらった。」

それに広めれば皆が、今よりずっと助かる。なのに、自分の国だけ得して、自分の仕事を争いに使うようにするなんて、全然ダメだろ。気持ちが良くないじゃないか。

「平和利用に使えば、どこの国の軍でも上から丸見えだよね。それって、どこも有利じゃない、って事で、条件は一緒になるじゃない。竜樹様の世界では、個人で上から見た地図が、道なりに見ることが出来たりして、すごく便利だし、それでも軍はあるらしいよ。やっぱり救助活動とかしてて。」

うんうん、と竜樹が頷く。
「平和と争いは、糸を引き合う人の裏表みたいなものだよね。魔法や技術が進みに進んで、お互いに滅亡し合ってしまっても仕方ないのに、どうして争い合っちゃうんだろう?自分の方が得したい気持ちが、全部ダメじゃないけど、相手を落としてでも、ってなった時、自分も傷つかずにはいられないのにね。俺、それならお互いに助け合って上がっていかない?っていう、頭を何とでも使った、平和の案を推したいんだよね。」

オランネージュが、ネクターが、ニリヤが。竜樹の言葉を聞いて、ニコリとする。
手を取り飛んでくれる大人がいる、幸せ。
トレモロも、テクニカも、そして周りの大人達も、皆、それぞれニッコリとした。

フゼアはギュリ、と歯軋りする。
「攻撃にしか使えない、私のような魔法の研究は、無駄だと仰いますか。」

「無駄っていうかなー。」
竜樹が言い淀む。
トレモロが、竜樹の代わりに。
「攻撃だって平和の為に使えるだろ、魔獣のでっかい奴とか出た時、便利じゃないか。まあ、なるべく周りを壊す範囲が少ないように、制御がきめ細かく必要なら、研究はどれだけやっても無駄じゃないだろうし。」

そうだねえ、と竜樹も受け取って。
「もしこの国に、大きな大きな隕石が落ちてくる!なんて天災が起こったとして、そうしたら、その隕石を撃ち落とす魔法は、攻撃であって平和のための魔法だろうよね。」
何に使うか、なんだよね、力ってやつはさ。

竜樹は、お茶を飲み干して、タカラにカップを返してお礼を言った。タカラは、お代わりございますよ、お菓子も、とニコニコ、トレイを差し出して、3王子にも、周りの大人にも、サブレを1枚ずつ。
カシュリ、と口に含み、モグモグしつつ、オランネージュは、トレモロにニッコリする。
「トレモロ。気象風船の仕事をしたのが、あなたで良かったな。私だって軍が嫌いな訳じゃない、必要な者達だけれど、在ってなるべく争い以外で、誇り高く働いて欲しいと思うもの。周りの国と仲良くしたいし。」

「ありがとうございます、オランネージュ殿下。私も、殿下が次代の王様で、嬉しいです。」
トレモロとオランネージュは和やかに言葉を交わし合う。

フゼアは、攻撃する方が簡単なのに、それよりもう一つ難しい事を望むやり方が、何だか。上から見られているような、子供扱いされているような、ムギュっとする気持ちがして。むっすり黙って、急には考えを変えられなくて。
トレモロに近づいて、背中をバチン!と叩いた。

「イテ!」
「もう!アンタ達、面倒くさい!」

ドロワとゴーシュは、何だか黙って、トレモロのモニターをジッと見ていた。



試験は無事終わった。
美しい宇宙の始まりが見え。
雲と大陸の俯瞰映像で、天気予報も鑑定師兄レスピオが。どもりながら沢山喋って勇気を見せ、皆、明日どれだけ当たったか結果を教えてもらえる事になった。

二頭立ての一角馬車で、パカポコ王都の魔法院へ帰る。
帰りながらも、竜樹周りには人がいっぱい。天気予報と飛行魔道具の話がしたくて、だ。

「空を飛べる乗り物が出来れば、魔力が濃くて転移魔法陣が描けない土地にも、気軽に行けますね!」
お助け偉い人が、ところどころにあるそんな、移動格差が出来つつある土地への解決策を嬉しそうに語る。

「道がなくても真っ直ぐに飛べますものね。まあ、実際には、風の道や、空の交通整理が、今後必要なんでしょうけど。」
竜樹が考え考え。
「俺のいた世界にも空を飛ぶ乗り物があったんですけど、ちゃんと安全の連絡や、お互いの国に入る時に許可を得たり、乗り物の空港のどこに止まるか指示を出す管制塔があったりしたんですよね。どこを飛んでるか、無秩序じゃないんです。」
ほう~、と感心の声。

「ばしゃの、みちのにも、はたをふるひとがいるだものね。」
大人の話に、うんうんと自分なりに入ってくるニリヤである。
「そうだね、ニリヤ。事故が起こらないようにだね。」
「国境では、皆、出入りに許可を得たりしてるのでしょ。空も同じだね。」
「そうだね、ネクター。」

飛行船。気球、だけじゃなく。
もっと速い、飛行機。
観光、旅行、生活の移動。
種まき、撮影などに使えるドローンも。

こんなのもありますよ~と、ノリで竜樹が。物語の中での一人乗りの風乗り飛行機があって、と、実現させた写真をスマホで見せながら言えば。
これ、強い魔獣が出ないかどうか、上から見回りするのに良いかも、と雇われ冒険者魔法使いのアクチェが言い出して、風魔法使い達もノリノリに。

地図も詳しく作れるし、などなど、広がりそうな話に皆、ほっぺがふくふくになって、さて。

「それで、いつから天気予報をお披露目しますか?」


それはね。

「歌の競演会で、お披露目しましょう。トレモロさん、テクニカ君、良いですか?」

「はい!!」
「もちろん、いつでも!!」


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