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本編
全ては経験値
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「笑う•••?」
確かに今、ドゥアーは笑う気分じゃない。緊張で失神した位だから。だからこそ、自分の持つ問題に、ギッと焦点を合わせ過ぎて、視野も狭くなっている。
こういう時は、ぐん、と問題から距離を置いて視野を広くもてれば、解決策も浮かんでくるのだ。
ルムトン副隊長は、ニン、として青年吟遊詩人ドゥアーをあったかく見つめている。
沢山の舞台、ほんの2人の客だけ立ち止まって、その2人の為に路傍で芸を、から、大きな広場いっぱいの人が注目する中で、テレビ撮影を、など経験豊富な芸人先輩のルムトンの言葉は、不思議と説得力があって。ステューも、同じく舞台の先輩、芸人として、しれっとした顔で、成り行きを見守る。吟遊詩人なりたて2年のドゥアーなんて、まだまだ駆け出しだ。
竜樹と司会のパージュさんは、一理ある、と納得。
はい、はい、は~い!と「ドゥアーさんを笑わせよう大会」に立候補の子供達第一番目は、ルムトン副隊長に。
「はい、じゃあ順番に。手を挙げる勢いがとっても良かった、チームワイルドウルフのアルノワ君!」
と虎獣人のメガネ男子、妹エンリのおにーた、アルノワが指名された。
「はいっ、じゃあ、見ててね!」
とドゥアーの前に、恥ずかしそうに陣取ったアルノワは。
ムニュ。
ほっぺを両側から引っ張って、お口を叫び!の形にして、白目を剥いて。メガネをがたっとさせ、精一杯の変顔をした。
ぶは
「おにーた、へんなおかおでつ!」
ぶぷぷぷ、あはーと、エンリちゃんと小ちゃい獣人の子達が笑って、指さしてキャラキャラ。オランネージュも、ニハ、と笑ったが、多分笑いのツボは小ちゃい子達と同じじゃない。何か変な空気感が、しらっと面白かったという。
「あ、あは、あはは。」
ドゥアーは、えーっと、って感じに。
うん、笑いの敷居って、大人になるほど高くなって、笑わなくなっちゃうんだ。何故なんだろう。もっと笑っていこうよ。
「アルノワ、うん、頑張った。」
ポム、ポム。狼お耳のファング王太子が、ヘニョ、とお耳の先っぽを垂らして、あはー、の口で。しぶとく変顔を続けるアルノワの肩を叩く。
えー、って顔で変顔を残念に直したアルノワだったが。
アハハハ、とルムトン副隊長は快活に笑って手を打って。
「いーのいーの!アルノワ君、ありがとう!素晴らしい!こういうので良いの!数打ってこ!はい、次やってくれる人!」
はいっ!と子虎妹エンリちゃんが、小さなお手てを挙げた。
「はいエンリちゃん。」
「はいでつ。」
むふー、と興奮した虎お耳が、キュワ、キュワ、と動いている。
「エンリ、おもちろかったこと、おはなしするでつね。あのね、こないだ、ぷっておとがしたでつ。おとーたがオナラしたんでつ!そんで、おとーた、オナラだね、ってゆったでつよ。そしたら、おとーたは、ことりがないたね、ってゆーんでつ。」
ことりが! ぷっ、て! なくでつか!?
話ながら笑ったエンリちゃんは、さも愉快げに。
「おとーたオナラじゃない?って、エンリゆったでつよ!でもおとーたは、エンリ、さいきんのとりは、ぷっ、てなくんだよ!ってゆーんでつ!!アハハハ!アハー!エンリ、オナラでるでつけど、おとーたのオナラきいたのはじめてでつた。ほんとにことり、ぷっ、てなくでつか?どうしておとなは、オナラがそんなにしないでつか?エンリは、おなかぽこぽこ、いっぱいでるでつのに。おかーたのオナラきいてみたいでつ。」
うん。エンリちゃん、この正直者め。きっとこの放送を見た君のおとーたは、ちょっと恥ずかしそうにするんじゃないかな。
ムハハハハ、と笑ったルムトン副隊長にステュー隊長、竜樹に、くふ、と笑いを我慢したパージュさん。
「大人は、オナラあんまりしないかい?エンリちゃんはするのに?不思議だねえ。もしかしたら、おトイレで、隠れてプッてしてるんじゃない!?きっと、そうじゃない?」
ルムトン副隊長が、しゃがんでエンリちゃんに真剣な顔でヤメレな事をツッコミ。
「かくねてしてるでつか?オナラかくねるの、どしてでつか?」
「そうだよねぇ、エンリちゃん。オナラは我慢しない方が良いのにねぇ。でも、エンリちゃんのお父さんとお母さんは、きっとワイルドウルフのお国でも偉い人っぽいから、オナラぷーぷーしてたら、皆に、カッコつかないんじゃないかな!ルムトン副隊長は、音がしないオナラにするけど。風下で。」
「ヤメレ~!」
ぷ、のお尻を突き出す格好をしたルムトンのお尻をステューが押して、おたとた、とつま先歩きで中腰で。
アハハハ!
と会場も、ホワホワ笑っている。
「あ、あはは。」
何となくドゥアーの口元も、緩んだ。
その調子その調子。
はいっ、と黒狼のアルディ王子が。
「私、笑わせるのは難しいけど、香油で手を揉み揉みしてあげます。リラックスするよ。ネクター達にもしたげたんだよ。」
「お!良いじゃな~い?色々やってみようよね。では、アルディ殿下、お願いします。」
ルルー治療師を呼んで、腰に付けたバッグから、うーんとうーんと、と色々香油を取り出して。
「竜樹様の葉っぱ鑑定師が見つけてくれた、幸運の3つ葉、クローバーってのに似てる葉っぱと白いお花の香りにしたら、どうかな。落ち着くけど、明るい気持ちになれる香りで、強すぎなくて、少し甘いのにすっきり、土のほっこりした感じもあって。素敵な香りなんだ。」
ヘェ~、と、皆で匂ってみたりしつつ。慣れた手つきでドゥアーの手を取り、香油を試しに匂わせて、嫌いじゃないか確かめたあと、アルディ王子は香油もみもみ、し始めた。
人肌って癒される。体温も、さらりとした肌の感じも。もふもふは更にである。
小さな子供と接触があるだけで、多大な癒しが生まれる。子供は癒しだけではないけれど、お世話で大変なだけでもなくて、そこにいるだけで嬉しい存在なのだ。
もみ、もみ。
「笑わすのって、難しいね。」
馬獣人乙女、シュヴァがポニーテールをゆら、とさせて、もみもみの周りでしゃがんで言った。隣の獅子獣人少年クリニエも、膝を抱えて、くん、と手につけてもらった香油を匂いつつ。
「ね、難しいね。私たち、いつも笑ってるのにね。」
思えばご学友達は、ファング王太子とお泊まりだったり勉強だったり、遊びだったり、いつも笑っている。どうやって笑っているんだっけ。
意識すると、何故かそれはスルリと逃げる。
3王子の一番お兄ちゃん、オランネージュが、ニハハを崩さずに。
「ルムトン副隊長とステュー隊長は、笑いのプロじゃない?プロの笑い、知りたいな~。」
「あっ、知りたい!」
「わらかす、むずい。」
3王子も、クンクン匂いながら。
揉み揉みされて、ドゥアーは、何だかどうにでもしてくれい、という気持ちになってきた。状況に感情が追いつけないのもそうだけど、皆が自分のために色々やってくれているのだ。いつまでも、しゅんしゅんと落ち込んではいられない、と少し追われる気持ちもあって、でも、それを、ゆったりモミモミの揉み、が、何となく、気にしないで良いんだよ、という感じもさせて。
そこでルムトンとステューが、喋りのネタの『失恋した女と新聞配達員』というのをやってみせ、会場がざわっとしながらも、惹き込まれて笑って。
人が、笑っている時、胸の栓のモヤモヤしているところを、抜いてくれるものなのだ。ドゥアーは、まだ心から笑うまではいかなかったけれど。だけど。笑顔を、形づくるだけだって、少しつられて心も浮く。
ああ、でも、この舞台に。
大丈夫、大丈夫、きっと。
縋る思いで、揉んでもらって温かくなった手を、まだまだ一生懸命に押す人肌、アルディ王子に集中する。
拍手万雷。
ルムトン副隊長とステュー隊長は、ニコニコして四方八方にお辞儀した。突然振られても、サッとネタをやれる所、流石である。
「•••ルムトンさん。ステューさん。どうしたら、そんな風に堂々として、やれますか。」
揉まれながら、ドゥアーが真剣に。
ふふふ、とルムトンは笑う。
「硬い硬い。かたいよドゥアーさん。俺ね、ドゥアーさんよりもっと酷いの。俺とステューって、幼馴染なんだけど、ちっさい頃から、こんな風に馬鹿な話ばっかして、人を笑かして、自分らも笑ってたのね。」
楽しいね、嬉しいね、ルムトン、ステュー。小さい頃はそれで良かったけど、デカくなるにつれて、まだやってんのか、とか、馬鹿やって遊んでないで、真面目に仕事しなよ、何をやるの?とか。
「俺ね、俺とステューはね。ずっと遊んでてぇな~、って思ったの。ずっと馬鹿やって、アハハハ、って笑ってたい。それで芸人やる事にしたの。最初はひどいもんだったんだよ、自信だけはあったんだけどさ、それが、もう、けちょんけちょんになるくらい、もう、皆、何でか笑ってくれなくて!」
「プロになる前は、あんなに簡単だと思ってたのにね。」
ステューもツッコミつつ。
「それでも、遊んでたの、ステューと俺は、不真面目にでもなく、真面目にでもなく。遊んでテェな~、を仕事に。遊ばせてくれる場があって、ありがたいんだけど、遊んでるから、どっか気軽に、だけど真剣にやる。遊んでる時って、思いっきりやるでしょ。白けてたら笑ってもらえない。俺の親なんて、とうとうお前たちは遊びを仕事にしちまったよ!って、いまだに認めてくれねぇよ。ちゃんと働く兄弟のが、偉い、って。」
「人を笑わせてくれる職業も、とっても偉いと思うよ。笑うだけで幸せになるんだから、人って。」
竜樹が言えば、ニヒヒヒ、とルムトンは笑ってはにかむ。
「ありがとう、竜樹様。まぁ、だからさ。芸歴がそこそこある俺たちだって、親に認めてもらうのは結構しんどいのよ。ドゥアーさん、まだ2年目でしょ。気楽にいこうよ、長く見てさ。まずは一個一個、舞台に立ってみよ。小さな街しか行けないかも、なんてまだわからないし。まぁ、でも、俺たち今考えても、小さい街を巡ってた頃はそれはそれで、遊びや余裕の少ない土地で、滅多に来ない芸人だっていうんで、心尽くしのもてなしをしてくれたり、はたまた最低な歓迎されない夜もあったり、面白かったなぁ~、なんてね。」
「うん、思うよね。」
過ぎてみればはちゃめちゃな、良き思い出。
「何があっても、俺ら、それを芸の肥やしにできるじゃん?ネタっていうか。吟遊詩人もそうだろ?経験が、歌のネタになるじゃん。だから、今回の歌の競演会も、良いネタなんだって。それくらいの気持ちで良いじゃん。」
「だねだね!」
ドゥアーは、ジッ、とそれを聞いていたけれど。
「そっか。そう、ですね。」
ふー、と息を吐いた。
「ふふ、後は、人の目が怖い気持ちが起こりにくくするようにしようか。」
竜樹も、しゃがんで笑っていた。
「竜樹様。ピティエ様がいらしてます。」
竜樹専属お助け侍従のタカラが、話が切れた所で、ソワッと告げる。
「ピティエ?」
チーム荒野の、視力弱い組、現役モデルとお茶屋さんのピティエである。今日は、会場で、お兄さんのジェネルーや両親達と、歌を聴いているね、と言っていたのに。
「竜樹様?」
サラリとした藍色、サングラスは空色に。モデルのピティエは、今日も自分で選んで、兄や両親に仕上げを確認してもらった、明るいベージュと深い茶色の2色、コントラストカラーの洒落たジャケットに、アイボリーの石の髪留めで素敵だ。手には白杖と、メガネケース?
「ピティエ、よく来てくれたね。どうしたんだい?ああ、実は電話しようと思っていたんだけれどもさぁ。」
迎えて竜樹は、ピティエの背中をポンポン、と叩いた。後ろに控える、一番前の関係者席まで連れてきてくれたジェネルー兄にも挨拶しつつ。
「私に電話を?」
「そう、そう。ドゥアーさんを、助けるお手伝いを頼みたくて。でも、もしかして。」
はい、とピティエはニッコリ笑った。
「予備のサングラス、持ってたので、ドゥアーさんに持ってきました。」
「話が分かる!はやい!さぁさぁ、直接渡してあげて?」
手を触るね、と前もって言ってから、ゆっくり取り、竜樹はピティエをドゥアーの前に連れて行く。
竜樹は、ドゥアーさんだよ、とその手を取って、ピティエの手に触らせる。ピティエは腰を曲げて、ドゥアーの前で藍色の髪をサラリ、落として魅力的に笑った。サングラスの奥の瞳が、神秘的である。
「ドゥアーさん、初めまして。私、ピティエといいます。モデルと、小さなお店の、お茶屋さんをしています。」
「は、初めまして。ドゥアーです。」
「私、視力が弱いのだけど、そのせいで日の光が眩しくって、サングラス、っていう、色付きのメガネを、今もね、してるんです。」
「あ、あ、素敵ですね、はい。」
戸惑いながらも褒めるドゥアーに、ありがとう、と笑って。
「これね、モデルで、ショーをやった時に思ったんだけど、何だか一枚、外と自分との間に、幕があるみたいに思えたりもするんです。•••私、ショーの時、観客の皆さんのこと、海みたいだ、って思った。ザワザワッ、て波があって、揺れていて、きっと見たことない海って、こんなのだって。幕の中から、隔てて見ているのじゃなくて、直に見たくて、サングラスをちょっと外して見たくらい。•••でも、ドゥアーさんは、人の目が、怖いのでしょ。見えすぎる、っていうのも、辛いんだね。私のサングラス、幕があったら、少しは楽にならないかな。これ、持ってきてみたんだけど、かけてみて?」
ピティエもショーで、大勢の目にさらされた経験値がある。わざわざ、会場の大画面で成り行きを見ていて、助けにならないかとやって来たのだ。
銀のメガネケースを、手渡されて、ドゥアーは。
「あの、あの。••••••どうして、こんなに親切にして下さるんですか?私、何も。」
ピティエはニッコリ笑うのである。
「私も親切にしてもらったことがあるから。竜樹様に言わせれば、こういうのは、世界を巡っていくんですって。ドゥアーさんに親切に出来てたとしたら、私、嬉しいです。」
内気だったピティエは、どこにいったか。きっと心の中にいるけれど、それは栄養をもらって、私もお返ししたいね、って、照れながらニッコリしているに違いない。
ーーーーー
世間では三連休だそうじゃないですか。
いっぱい遊べる?小説読める?
皆様。素敵な読書ライフを。
確かに今、ドゥアーは笑う気分じゃない。緊張で失神した位だから。だからこそ、自分の持つ問題に、ギッと焦点を合わせ過ぎて、視野も狭くなっている。
こういう時は、ぐん、と問題から距離を置いて視野を広くもてれば、解決策も浮かんでくるのだ。
ルムトン副隊長は、ニン、として青年吟遊詩人ドゥアーをあったかく見つめている。
沢山の舞台、ほんの2人の客だけ立ち止まって、その2人の為に路傍で芸を、から、大きな広場いっぱいの人が注目する中で、テレビ撮影を、など経験豊富な芸人先輩のルムトンの言葉は、不思議と説得力があって。ステューも、同じく舞台の先輩、芸人として、しれっとした顔で、成り行きを見守る。吟遊詩人なりたて2年のドゥアーなんて、まだまだ駆け出しだ。
竜樹と司会のパージュさんは、一理ある、と納得。
はい、はい、は~い!と「ドゥアーさんを笑わせよう大会」に立候補の子供達第一番目は、ルムトン副隊長に。
「はい、じゃあ順番に。手を挙げる勢いがとっても良かった、チームワイルドウルフのアルノワ君!」
と虎獣人のメガネ男子、妹エンリのおにーた、アルノワが指名された。
「はいっ、じゃあ、見ててね!」
とドゥアーの前に、恥ずかしそうに陣取ったアルノワは。
ムニュ。
ほっぺを両側から引っ張って、お口を叫び!の形にして、白目を剥いて。メガネをがたっとさせ、精一杯の変顔をした。
ぶは
「おにーた、へんなおかおでつ!」
ぶぷぷぷ、あはーと、エンリちゃんと小ちゃい獣人の子達が笑って、指さしてキャラキャラ。オランネージュも、ニハ、と笑ったが、多分笑いのツボは小ちゃい子達と同じじゃない。何か変な空気感が、しらっと面白かったという。
「あ、あは、あはは。」
ドゥアーは、えーっと、って感じに。
うん、笑いの敷居って、大人になるほど高くなって、笑わなくなっちゃうんだ。何故なんだろう。もっと笑っていこうよ。
「アルノワ、うん、頑張った。」
ポム、ポム。狼お耳のファング王太子が、ヘニョ、とお耳の先っぽを垂らして、あはー、の口で。しぶとく変顔を続けるアルノワの肩を叩く。
えー、って顔で変顔を残念に直したアルノワだったが。
アハハハ、とルムトン副隊長は快活に笑って手を打って。
「いーのいーの!アルノワ君、ありがとう!素晴らしい!こういうので良いの!数打ってこ!はい、次やってくれる人!」
はいっ!と子虎妹エンリちゃんが、小さなお手てを挙げた。
「はいエンリちゃん。」
「はいでつ。」
むふー、と興奮した虎お耳が、キュワ、キュワ、と動いている。
「エンリ、おもちろかったこと、おはなしするでつね。あのね、こないだ、ぷっておとがしたでつ。おとーたがオナラしたんでつ!そんで、おとーた、オナラだね、ってゆったでつよ。そしたら、おとーたは、ことりがないたね、ってゆーんでつ。」
ことりが! ぷっ、て! なくでつか!?
話ながら笑ったエンリちゃんは、さも愉快げに。
「おとーたオナラじゃない?って、エンリゆったでつよ!でもおとーたは、エンリ、さいきんのとりは、ぷっ、てなくんだよ!ってゆーんでつ!!アハハハ!アハー!エンリ、オナラでるでつけど、おとーたのオナラきいたのはじめてでつた。ほんとにことり、ぷっ、てなくでつか?どうしておとなは、オナラがそんなにしないでつか?エンリは、おなかぽこぽこ、いっぱいでるでつのに。おかーたのオナラきいてみたいでつ。」
うん。エンリちゃん、この正直者め。きっとこの放送を見た君のおとーたは、ちょっと恥ずかしそうにするんじゃないかな。
ムハハハハ、と笑ったルムトン副隊長にステュー隊長、竜樹に、くふ、と笑いを我慢したパージュさん。
「大人は、オナラあんまりしないかい?エンリちゃんはするのに?不思議だねえ。もしかしたら、おトイレで、隠れてプッてしてるんじゃない!?きっと、そうじゃない?」
ルムトン副隊長が、しゃがんでエンリちゃんに真剣な顔でヤメレな事をツッコミ。
「かくねてしてるでつか?オナラかくねるの、どしてでつか?」
「そうだよねぇ、エンリちゃん。オナラは我慢しない方が良いのにねぇ。でも、エンリちゃんのお父さんとお母さんは、きっとワイルドウルフのお国でも偉い人っぽいから、オナラぷーぷーしてたら、皆に、カッコつかないんじゃないかな!ルムトン副隊長は、音がしないオナラにするけど。風下で。」
「ヤメレ~!」
ぷ、のお尻を突き出す格好をしたルムトンのお尻をステューが押して、おたとた、とつま先歩きで中腰で。
アハハハ!
と会場も、ホワホワ笑っている。
「あ、あはは。」
何となくドゥアーの口元も、緩んだ。
その調子その調子。
はいっ、と黒狼のアルディ王子が。
「私、笑わせるのは難しいけど、香油で手を揉み揉みしてあげます。リラックスするよ。ネクター達にもしたげたんだよ。」
「お!良いじゃな~い?色々やってみようよね。では、アルディ殿下、お願いします。」
ルルー治療師を呼んで、腰に付けたバッグから、うーんとうーんと、と色々香油を取り出して。
「竜樹様の葉っぱ鑑定師が見つけてくれた、幸運の3つ葉、クローバーってのに似てる葉っぱと白いお花の香りにしたら、どうかな。落ち着くけど、明るい気持ちになれる香りで、強すぎなくて、少し甘いのにすっきり、土のほっこりした感じもあって。素敵な香りなんだ。」
ヘェ~、と、皆で匂ってみたりしつつ。慣れた手つきでドゥアーの手を取り、香油を試しに匂わせて、嫌いじゃないか確かめたあと、アルディ王子は香油もみもみ、し始めた。
人肌って癒される。体温も、さらりとした肌の感じも。もふもふは更にである。
小さな子供と接触があるだけで、多大な癒しが生まれる。子供は癒しだけではないけれど、お世話で大変なだけでもなくて、そこにいるだけで嬉しい存在なのだ。
もみ、もみ。
「笑わすのって、難しいね。」
馬獣人乙女、シュヴァがポニーテールをゆら、とさせて、もみもみの周りでしゃがんで言った。隣の獅子獣人少年クリニエも、膝を抱えて、くん、と手につけてもらった香油を匂いつつ。
「ね、難しいね。私たち、いつも笑ってるのにね。」
思えばご学友達は、ファング王太子とお泊まりだったり勉強だったり、遊びだったり、いつも笑っている。どうやって笑っているんだっけ。
意識すると、何故かそれはスルリと逃げる。
3王子の一番お兄ちゃん、オランネージュが、ニハハを崩さずに。
「ルムトン副隊長とステュー隊長は、笑いのプロじゃない?プロの笑い、知りたいな~。」
「あっ、知りたい!」
「わらかす、むずい。」
3王子も、クンクン匂いながら。
揉み揉みされて、ドゥアーは、何だかどうにでもしてくれい、という気持ちになってきた。状況に感情が追いつけないのもそうだけど、皆が自分のために色々やってくれているのだ。いつまでも、しゅんしゅんと落ち込んではいられない、と少し追われる気持ちもあって、でも、それを、ゆったりモミモミの揉み、が、何となく、気にしないで良いんだよ、という感じもさせて。
そこでルムトンとステューが、喋りのネタの『失恋した女と新聞配達員』というのをやってみせ、会場がざわっとしながらも、惹き込まれて笑って。
人が、笑っている時、胸の栓のモヤモヤしているところを、抜いてくれるものなのだ。ドゥアーは、まだ心から笑うまではいかなかったけれど。だけど。笑顔を、形づくるだけだって、少しつられて心も浮く。
ああ、でも、この舞台に。
大丈夫、大丈夫、きっと。
縋る思いで、揉んでもらって温かくなった手を、まだまだ一生懸命に押す人肌、アルディ王子に集中する。
拍手万雷。
ルムトン副隊長とステュー隊長は、ニコニコして四方八方にお辞儀した。突然振られても、サッとネタをやれる所、流石である。
「•••ルムトンさん。ステューさん。どうしたら、そんな風に堂々として、やれますか。」
揉まれながら、ドゥアーが真剣に。
ふふふ、とルムトンは笑う。
「硬い硬い。かたいよドゥアーさん。俺ね、ドゥアーさんよりもっと酷いの。俺とステューって、幼馴染なんだけど、ちっさい頃から、こんな風に馬鹿な話ばっかして、人を笑かして、自分らも笑ってたのね。」
楽しいね、嬉しいね、ルムトン、ステュー。小さい頃はそれで良かったけど、デカくなるにつれて、まだやってんのか、とか、馬鹿やって遊んでないで、真面目に仕事しなよ、何をやるの?とか。
「俺ね、俺とステューはね。ずっと遊んでてぇな~、って思ったの。ずっと馬鹿やって、アハハハ、って笑ってたい。それで芸人やる事にしたの。最初はひどいもんだったんだよ、自信だけはあったんだけどさ、それが、もう、けちょんけちょんになるくらい、もう、皆、何でか笑ってくれなくて!」
「プロになる前は、あんなに簡単だと思ってたのにね。」
ステューもツッコミつつ。
「それでも、遊んでたの、ステューと俺は、不真面目にでもなく、真面目にでもなく。遊んでテェな~、を仕事に。遊ばせてくれる場があって、ありがたいんだけど、遊んでるから、どっか気軽に、だけど真剣にやる。遊んでる時って、思いっきりやるでしょ。白けてたら笑ってもらえない。俺の親なんて、とうとうお前たちは遊びを仕事にしちまったよ!って、いまだに認めてくれねぇよ。ちゃんと働く兄弟のが、偉い、って。」
「人を笑わせてくれる職業も、とっても偉いと思うよ。笑うだけで幸せになるんだから、人って。」
竜樹が言えば、ニヒヒヒ、とルムトンは笑ってはにかむ。
「ありがとう、竜樹様。まぁ、だからさ。芸歴がそこそこある俺たちだって、親に認めてもらうのは結構しんどいのよ。ドゥアーさん、まだ2年目でしょ。気楽にいこうよ、長く見てさ。まずは一個一個、舞台に立ってみよ。小さな街しか行けないかも、なんてまだわからないし。まぁ、でも、俺たち今考えても、小さい街を巡ってた頃はそれはそれで、遊びや余裕の少ない土地で、滅多に来ない芸人だっていうんで、心尽くしのもてなしをしてくれたり、はたまた最低な歓迎されない夜もあったり、面白かったなぁ~、なんてね。」
「うん、思うよね。」
過ぎてみればはちゃめちゃな、良き思い出。
「何があっても、俺ら、それを芸の肥やしにできるじゃん?ネタっていうか。吟遊詩人もそうだろ?経験が、歌のネタになるじゃん。だから、今回の歌の競演会も、良いネタなんだって。それくらいの気持ちで良いじゃん。」
「だねだね!」
ドゥアーは、ジッ、とそれを聞いていたけれど。
「そっか。そう、ですね。」
ふー、と息を吐いた。
「ふふ、後は、人の目が怖い気持ちが起こりにくくするようにしようか。」
竜樹も、しゃがんで笑っていた。
「竜樹様。ピティエ様がいらしてます。」
竜樹専属お助け侍従のタカラが、話が切れた所で、ソワッと告げる。
「ピティエ?」
チーム荒野の、視力弱い組、現役モデルとお茶屋さんのピティエである。今日は、会場で、お兄さんのジェネルーや両親達と、歌を聴いているね、と言っていたのに。
「竜樹様?」
サラリとした藍色、サングラスは空色に。モデルのピティエは、今日も自分で選んで、兄や両親に仕上げを確認してもらった、明るいベージュと深い茶色の2色、コントラストカラーの洒落たジャケットに、アイボリーの石の髪留めで素敵だ。手には白杖と、メガネケース?
「ピティエ、よく来てくれたね。どうしたんだい?ああ、実は電話しようと思っていたんだけれどもさぁ。」
迎えて竜樹は、ピティエの背中をポンポン、と叩いた。後ろに控える、一番前の関係者席まで連れてきてくれたジェネルー兄にも挨拶しつつ。
「私に電話を?」
「そう、そう。ドゥアーさんを、助けるお手伝いを頼みたくて。でも、もしかして。」
はい、とピティエはニッコリ笑った。
「予備のサングラス、持ってたので、ドゥアーさんに持ってきました。」
「話が分かる!はやい!さぁさぁ、直接渡してあげて?」
手を触るね、と前もって言ってから、ゆっくり取り、竜樹はピティエをドゥアーの前に連れて行く。
竜樹は、ドゥアーさんだよ、とその手を取って、ピティエの手に触らせる。ピティエは腰を曲げて、ドゥアーの前で藍色の髪をサラリ、落として魅力的に笑った。サングラスの奥の瞳が、神秘的である。
「ドゥアーさん、初めまして。私、ピティエといいます。モデルと、小さなお店の、お茶屋さんをしています。」
「は、初めまして。ドゥアーです。」
「私、視力が弱いのだけど、そのせいで日の光が眩しくって、サングラス、っていう、色付きのメガネを、今もね、してるんです。」
「あ、あ、素敵ですね、はい。」
戸惑いながらも褒めるドゥアーに、ありがとう、と笑って。
「これね、モデルで、ショーをやった時に思ったんだけど、何だか一枚、外と自分との間に、幕があるみたいに思えたりもするんです。•••私、ショーの時、観客の皆さんのこと、海みたいだ、って思った。ザワザワッ、て波があって、揺れていて、きっと見たことない海って、こんなのだって。幕の中から、隔てて見ているのじゃなくて、直に見たくて、サングラスをちょっと外して見たくらい。•••でも、ドゥアーさんは、人の目が、怖いのでしょ。見えすぎる、っていうのも、辛いんだね。私のサングラス、幕があったら、少しは楽にならないかな。これ、持ってきてみたんだけど、かけてみて?」
ピティエもショーで、大勢の目にさらされた経験値がある。わざわざ、会場の大画面で成り行きを見ていて、助けにならないかとやって来たのだ。
銀のメガネケースを、手渡されて、ドゥアーは。
「あの、あの。••••••どうして、こんなに親切にして下さるんですか?私、何も。」
ピティエはニッコリ笑うのである。
「私も親切にしてもらったことがあるから。竜樹様に言わせれば、こういうのは、世界を巡っていくんですって。ドゥアーさんに親切に出来てたとしたら、私、嬉しいです。」
内気だったピティエは、どこにいったか。きっと心の中にいるけれど、それは栄養をもらって、私もお返ししたいね、って、照れながらニッコリしているに違いない。
ーーーーー
世間では三連休だそうじゃないですか。
いっぱい遊べる?小説読める?
皆様。素敵な読書ライフを。
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どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
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