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本編
きれいな気持ちを音楽に
しおりを挟む「間に合った!?」
ズザァ!と歌うたい達のいるサロンの入り口、3王子とシトロンちゃんの後ろに必死の形相、夢見るおっとりタレ目、滑り込んできたのは。
音楽の道一本やり、歌バトルを見逃してはなるまいと、バラン王兄。
(バランおじさま、しぃ~、よ!)
(歌ばとる?はじまるよ!)
(吟遊詩人、えむしーノートからだよ!)
3王子達が振り返って、お指を立ててシィ~すれば。
(うんうん、シィ~、だな?)
全くもう、油断してるとすぐ、面白い事する!とニコニコして、バラン王兄は侍従さんが持ってきた椅子に、ムフンと腕を組み、長い足を組み、ごきげんで座った。
竜樹も、お助け侍従さんが用意した椅子に座りつつ、ちゃっかり楽しみのバラン王兄に笑った。
トロリロリラリロリ♪
チラッと竜樹達を見て、前奏で準備の時間もたせ兼、盛り上げをしていたMC、いや吟遊詩人ノートが、すぅ、と息を吸い。
流れ流れて競演会♪
旅するクジラは歌うたう♪
あの街この街♪
あのこにこのこ♪
涙流して笑わせて♪
高い舞台にゃ慣れもせず♪
だけど知ってる♪
みんな知ってる♪
きっとあのこの恋の歌♪
ノート様なら聞かせてくれる♪
お貴族様にゃあ引っ込んで♪
お高い舞台でちんまり、歌ってな!
リロリラロ♪ジャジャン♪
ヒュー!おううわぁああ!
吟遊詩人チームが、ノリノリで拳を突き上げる。
流石にラップではない。でも、短い歌の掛け合い、ってとこを押さえて、なかなか素敵な若さ、張りのある歌声、そして挑戦的に。
後攻貴族チームはエラブル!
強靭な声の持ち主、何となくで分ければバリトンの、ハッと聴かせる第一声。
愚か者め!♪
揚がった魚が歌えるものか
哀れにも喘ぎ 口をパクリ
無様な魚体を晒すまじ
高き舞台 この競演会
歓声を受け 上り詰めるは
音楽の使徒 探求せし者
我が名エラブル
深く 濃く
歌う この身を賭して
正統なる音の継承者
見よ!
雑多なる歌 蹴散らして♪
エラブル~!うぉおおおおお!!!
うん、本当に~愚か者めー♪ って感じの歌あったんだな。
エラブルの歌は、歌劇の発声で。歌い上げる大音声、響く、響く。
吟遊詩人MCノートは、リュートのネックぐわりと持ち不敵にニヤリ。
貴族組エラブルは、尊大に鼻をツンとして、腕組み、スッと胸を張ってニタリ。
両者、む、ぐ、ぐぐぐぐ、と睨み合って。バチッ!火花が散るように離れた。
両陣営に、ノート、エラブル、それぞれ、のしのしと戻ってゆく。
うんうん。何で威嚇し合い、って、ガンつけ合ってのしのし身体揺らしちゃうの。
ヒュウゥ♪とバラン王兄が、はしたなくも口笛を鳴らして。バーニー君も、ニヒ、と楽しくなってきた模様。お口が笑ったミランは、黙ってカメラを回し、タカラは手を握りしめ。
3王子はニコニコパチパチ拍手、シトロンちゃんもお椅子に座ってもらって、何だか、お目々を見開いてお口がぱくんとなって、そうして肩をキュッとして笑った。
バッ と両陣営、勝敗を決めるのは言い出しっぺの竜樹であろう、と視線ギャンギャンに流してくるが。
「第2試合は女子対決ぅ~!吟遊詩人チーム、華やぎのアラシド!貴族歌手チーム、麗しのアマンド!名前は似てるが歌は全然違う!吟遊アラシドは迫力ある甘い低音、貴族アマンドは確かな高音の魅力、それではいきます、ファイッ!!!」
何故、竜樹が吟遊詩人チームと貴族チーム各人の名前を知っているかといえば。歌い手達の特徴を書き出して、会議で順番どうぶつけるか話し合って、プログラムをバラン王兄や運営チームの頭脳達と決めたからである。
ついでに、この人こんなとこ面白い、聴いてみたいなぁ、って興味も好みもあって覚えてる。
吟遊詩人華やぎのアラシドは、身長は低いが、ふくっと体格の良いお姉さま。ぽちゃりだけど太っているというよりは、内臓強く厚みがあって、バーンと押し出しがある。ウェーブ描いたレッドカラント色の髪が艶めいて長く広がり、くっと上がった口角が、飄々と、だが、自信ありげ。
貴族歌い手のアマンドは、キュッと纏めたブラックカラント色の直毛、高い身長の頭でチョンと髪飾りの白い玉がきら、ゆら。
ハッキリした顔に長い手足、胸の前で組んで掌、勝負に不足なし!と眉をピクンと片方上げ、微笑む。
うっふ、っふ、っふ、っふ。
「やってやろうじゃないの。」
「負けませんわよ!」
バチバチーン⭐︎
吟遊詩人アラシド、ポロリロリロリンとリュート爪弾き、歌い出す。
かわいこちゃんは言いました♪
明日の舞台 どうしましょう♪
ピリピリ おどど 震えてる♪
子猫ちゃんには 荷が重い♪
~♪
貴族歌い手アマンド、クルクルりん、と回って踝丈の蒼に白いレース、ワンピースのスカートがふんわり、広がって舞台。
蛮族の歌よ♪
聴かせてくれるな
惑わす民を 狂わす音楽を
我の歌ここにありて
打ち破らん 卑賤なる音
高まりて~♪
第3試合、叙事詩を歌うオジサン吟遊詩人、鼻の下お髭ガッシリのヒストリク。
対して貴族歌い手、軽やかな恋を歌うテノールおじさま、実践でも恋多き紳士のペティバーン。
勇者は剣をリュートに変えて♪
~♪
花に停まるは美しの歌♪
~♪
第4試合、第5試合、第6試合•••。
竜樹は聴いて、拍手して、ファイッして。様々な歌い手達の、高い、低い、細い、太い、甘い、ピシャリとした、響く、大音声、囁き、歌、歌、歌。
とめどなく続く戦いに、廊下から文官達や休憩時間の侍従侍女達まで、何事かと集まり、わっと歓声拍手して賑わう。
そんなこんなしつつ、竜樹は、お助け侍従さんに出場者達の夕食を、盛り合わせの形にして持って来させてテーブルに。蜂蜜湯もたっぷりと、本当はお酒も欲しいとこ。だけど喉に悪いからNGだ。
わぁああ!と盛り上がりながら歌い終わった者から、何の気なしに水分補給、ついでにおかずを口にパクリ。モグモグ、うぉおおおモグモグごくん、ふーっ。
宴会になってきた様相、お助け侍従さん達は、竜樹に、ヤッタネ!夕飯食べさせられた!って顔でニコリと、どんどんお給仕。
貴族の歌い手だって歌い終われば、食べなければ。腹が減っては戦はできぬ。健啖、健啖。
宴•••いや、夕飯が進んでいる。
シトロンちゃんもバトル、呼ばれてニパッと朗らかに、椅子から飛び出て歌い、こだわらないのは自信があるからさ~♪なんてリュートを弾いている。丸くて幼い、けれど聴かせる技術、技術だけじゃない声の色気、うぅん、天才なんじゃない?シトロンちゃん。
ヒューヒュー!パチパチ!ワァァァァァア!
シトロンちゃんのお父さん、ディレクが、自信満々得意げに、どうだ!と周りを睥睨する。
貴族の歌い手の方が数が少ないので、ほどほどに歌い終わった。吟遊詩人達は力を持て余し、竜樹も試合の組み合わせを吟遊詩人対吟遊詩人に変えて。ええぇ?!と言いたげな貴族歌い手達に、タハッと笑いかけ。
もうぶっちゃけ吟遊詩人達は、遊びたい遊びたい歌いたい!になっているので、同チーム対決は、いかに俺様が素晴らしい歌い手か、でニンと芝居っけたっぷりにバトルった。
そして一先ず全員が歌い終えて、うぉおおお!と盛り上がったり憮然としたりしているバトル会場に、す、と竜樹が手を挙げれば。
ボリュームを絞るように、歓声がスゥと静まって、皆、注目。
「歌い手の皆さん、素晴らしいバトル、面白かった、ありがとう。」
ニコニコしたショボショボ目の竜樹に、褒められて皆、ふふんと満ちる。んでんで?それだけじゃ、ないでしょ!と沢山の目線が評価を待っている。
「皆さんの才能はここに、各々証明されたと思います。それで、吟遊詩人チーム、貴族歌い手チーム、どちらが勝ったかといいますと。」
あ、どっちが勝ったか決めるんだ、なし崩しにするかと思った、とバラン王兄が意外に思ったが。
「•••という評価の前に、一曲、俺のいた世界の素敵な曲を、聴いて下さい。バーニー君。スクリーンを。」
「ほいさ。」
ふぉん、と明るい大きなスクリーンに、パッ、と少女が映る。動画込みで、さあ、いくよ!
それは愛する音楽へ向けて、少女が、思いを綴る歌。
いつでもどんな時でも共にある音楽。
湧き上がる心からの。
混じりっけのない、透明な、感謝の気持ち。
歌い手達は、すっ、と息を吸って時を止めて。
人気のユニットが、少女らしい透明感のある歌声で音で。分かりやすい言葉で、軽やかな、でも軽くない熱い心が、沁みてくる。
サロンは一瞬にして、歌の世界に、その少女の書いた清らかで純粋な想い、恋文の力に、持っていかれた。揺さぶられる、ふわっと胸の奥から、誰もが持っていた、音楽への真摯な気持ちが、一番きれいなところ、情熱が。
「•••ひどいヨォ竜樹様!あんなに罵り合い、私たちにさせといて。こんな綺麗なもの、最後に聴かせるなんて!」
思わず漏れたといった風情。吟遊詩人アラシドが、ウルッとした瞳で竜樹を詰る。
音楽に救われなかった者が、ここにいるだろうか。
吟遊詩人達は、聴いてもらえなかった駆け出しの時、切ない頼りない、街角村々で響く自分の声に、けれど音楽への信頼を友として、ずっと良い時も悪い時も。心の支えにやってきたこと。
貴族の歌い手達は、歌が上手いからって一握りの歌い手になれるんだろうか、いや、なる!と心決めて。不安に思いながら、親や周りから、やっていけるのかと、心配とともに資質を見定められる居心地悪い気持ち。けれど歌えば心がいつしか慰められて、紆余曲折ありながらも音楽を頼みに、大好きだ!歌いたい!って気持ちで、それだけで進んできた、芯の部分を揺さぶられて。
ほうぅ と興奮、ため息が両チームから。
ニコニコ、と竜樹は笑う。
「どっちが勝ったかは、どっちがより音楽を想っているか、みたいな感じになるじゃない?それって、そんなに簡単に分かること?そりゃ、お遊びでどうしても、って決着つければつけられるけど、吟遊詩人チームが多いし即興は得意だからさ、でも貴族チームだって、負けてなかったよね?」
俺はこの曲を知っちゃってたから、歌が大好きな皆さんに、どっちが音楽を想っているか、なんて烏滸がましいことは、聞けませんよ。
パチン、パチン、と瞬きしながら、静かに微笑んで語る竜樹に、シトロンちゃんのお父さん、ディレクだけが、ふん!と鼻息を荒くしたけれど。それ以外の人々は、うん、うんうん。だよね、そりゃそうだよねって気持ちになった。
ぞんざいには触れられたくない。大事な気持ち。大切な想い。
だーっ、とバラン王兄が涙を流しながら、うんうん、うん、音楽良い、音楽良いよね!ってハンカチで瞼を拭っている。
3王子が、おじさまのお腕をポムポム、背中とんとん、である。
「まぁ、そんな訳だけど、ねぇ?音楽って、歌って、あんな沸き起こるバトルもあれば、こんな綺麗な気持ちも歌える。悲しい気持ちに寄り添って、涙流させてくれる事も、喜びに胸震わせる事も、綺麗なものも、汚いものも、全てが、ある。だよね?」
そうだそうだ!
全部だ!歌は全てだ!人生だ!
わぁああ!
「そうしたら、その、全てがある歌で、明日の、共演会、感謝祭。そう、感謝祭なんだよ、明日は、皆。神様に、歌に、音楽に感謝なんだよ。皆さんそれぞれ、自分の歌が、自分のやってきた事が、素直に歌えるでしょう?」
歌える!歌える!
ヒュウゥイイ!口笛高く。
うん、うん。
ふ、と安堵のため息を吐いて、竜樹は。
「明日は、皆の歌、楽しみにしているから!お客さん達も、歌のお祭り、わくわく待ってるよ!さぁ、準備は万端ですか?ご飯も程よく食べて、喉を大事にして、ゆっくり休んで整えて!」
うんうん、はーい!ともう、素直な歌い手達である。
「それにね、明日は俺やバラン王兄や、王子達が審査員をするけど、どの歌が良かったか、沢山の見てるお客さんに、投票してもらうんだからね!仕組み作るの、頑張ったんだから!他国まで含めて、テレビでだって見てる。届けられる、歌を。こんな機会、ないでしょ?純粋に、貴族にも民にも、見てもらって盛り上げていきましょう!」
はーい!
準備の事を言われて、もう気持ちは、明日へと切り替わった。ワクワクと楽しみが、それぞれ形は違えど、湧いてくる。
「はい、じゃあ解散!夜更かししないんだよ~。明日、よろしくね~!」
はーい!
よろしくお願いします~!
頑張ります!
やりますわ!
お任せあれ!
一言残しては、食べる者は食べ、蜂蜜湯を飲み、部屋に帰る者は帰り、後は和やかな空間が残り。
お助け侍従さん達は、ウンウン、ふ~っ、と達成感に額の汗を拭った。
「面白い歌でしたね!」
バーニー君が、ムニ、と笑いながら竜樹に。
「すてきな、おうただったの!ばとるも、おもしろかった!」
ニリヤも言って、飛び込んできたのでギュッとしてやれば、ニコニコ歌っている。イェ、イェ。3王子、ラップ真似してノってる。
シトロンちゃんも。
「私、歌が大好き!その気持ち、私も伝えたい!明日がんばります、ご飯食べて、準備しなくちゃ!」
じゃあね!と面白くなさそうな父、ディレクと手を繋いで、手を振った。
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